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『SYMBOL PALLET』ゲームデザイン備忘録~一章:一次元から二次元へ

 序章:”色”の特性の利用
★一章:一次元から二次元へ
 二章:自由と制限の狭間
 三章:メカニクスから考える勝利条件
 四章:数理的処理によるルール制定
 五章:テストプレイによる調整

閲覧ありがとうございます。ボドゲ工房Rのランブンです。今回は前記事に引き続き『SYMBOL PALLET』制作プロセスを記事にいたします。
前回は『SYMBOL PALLET』の最大の特徴である”色”の特性を利用する案が出た経緯とその解説を記事にいたしました。今回は”色”の特性を「タイル配置」メカニクスに組み込んだ思考プロセスを記事にいたします。
早速本題に入ります。


『8パレット』の頓挫

前記事で述べたように、”色”特性の利用は『簡易麻雀(仮)』における牌の種類削減の手法として考案された。そして、その発案を元に考案されたゲームが『8パレット』である。
けれども、テスターによる『8パレット』テストプレイ結果は芳しいものではなかった。(これはひとえに私の事前シミュレーション不足が原因であった)メカニクスを根本から変更する必要がある。そう考えた私は、様々な会案を模索した。その際中、ふと思いついたゲームが「タイル配置」メカニクスを採用した『SYMBOL PALLET』であった。


「タイル配置」に至ったきっかけ

正直に言うと、”色”の特性と「タイル配置」を組み合わせるアイデアは論理的にたどり着いたものではなかった。言わば思いつき、それも「色のついたタイルを場に置いていったら面白そう」という妄想とも言える発想がたまたま頭に浮かび、それを採用してみただけであった。つまるところ、「”色”の特性とタイル配置を組み合わせる」というゴールを最初から思いついたということである。これはもう再現性は全く無く、語ることが一切ない。
ただ、思いついた理由は分からなくとも、きっかけになったであろう事象はあったため一応以下に記しておく。何かの参考になれば幸いである。

「タイル配置」メカニクスを利用する発想は先にも述べたように「色のついたタイルを場に置いていったら面白そう」という考えを元にしているが、これは元々『8パレット』で使用するタイルが正方形であったところから着想を得ている。
8パレット』は「タイル配置」を採用していないものの、ラウンド開始時にタイルを盤面に並べる。そして、このルールを採用する際「盤面にタイルを並べる際、長方形よりも正方形の牌を使用した方が美しい」と考えたため――ゲームメカニクスには一切関係しないが――テストプレイ用モックも正方形を採用した。このメカニクスに関係のないモックが、結果的に「タイル配置」を採用するきっかけを生み出した。おそらく、タイルが長方形であればこのアイデアは生まれてこなかっただろう。

また、『8パレット』制作時期に「卓上にコンポーネントを並べるゲームを作りたい」と模索していたことも「タイル配置」というアイデア発案の手助けをした一因である。
8パレット』制作時期は、当時出展を予定していた格安ボドゲ海賊の掟』と同時期である。この『海賊の掟』はボドゲ工房Rを宣伝することを目的に制作が進められていた。そのため、宣伝用にプレイ光景を写真に収めたときに「誰が勝っていて誰が負けているのか雰囲気で分かる」「絵柄が豊富になる」ことが念頭に置かれていた。しかし、この『海賊の掟』のテストプレイもまた芳しいものではなく、『8パレット』と同様に頓挫という結果となった。新たに宣伝用のゲームを制作しなければならない。この出来事が写真栄えするメカニクスである「タイル配置」を無意識的に採用させたのかも知れない。


タイル配置採用の合理性

前項でも述べたように、”色”の特性と「タイル配置」を組み合わせるアイデアは偶然生まれたもので再現性は存在しない。けれども、”色”の特性とタイル配置を組み合わせることの合理性については説明することができる。

”色”の特性と「タイル配置」の相性が良い最大の理由は、”色”の特性が持つ「関係性の多さ」と「タイル配置」の”二次元性”が非常に噛み合っているからである。

「それ(カードや牌)一つでは意味を持たないが、複数合わせると意味を持つコンポーネント」を用いる(例えば麻雀やUNO、クアルトなど)のゲームには、大きく分類すると”一次元的”なゲームと”二次元的”なものが存在する。一次元は点と線、二次元は平面の世界であるが、ここでの意味はそれらとは少々異なる。ここで言うそれらの意味は

”一次元的”:カードや牌の関係性に場所や順番の概念がない
(同一線上同一価値)
”二次元的”:カードや牌の関係性に場所や順番の概念がある
(同一線上不同価値)

という意味である。
”一次元的”なゲームの代表としては『麻雀』が挙げられる。『麻雀』において手中にある牌は置き方やその順番によって意味(価値)が変動しない

スクリーンショット (71)

”二次元的”なゲームとしては『クアルト』が挙げられる。『クアルト』は4×4の盤面に4つの要素「色」「高さ」「形(円柱、角柱)」「穴の有無」を持った駒を置いていき、同じ要素で一列揃えるゲームである。一列揃えるという観点で見れば駒の順番に意味は無い。けれども、実際の盤面は平面に広がっているため、他の列を考慮すると駒の順番に意味が出てくる。

スクリーンショット (72)

そして、この異なるモノを揃えるゲームにおいて、”一次元的”なゲームに使用するモノは要素(関係性)が少なく、”二次元的”なゲームに使用するモノは要素(関係性)が多い傾向がある。

スクリーンショット (73)

図を見て欲しい。これは『麻雀』を”二次元的”、『クアルト』を”一次元的”に置き換えたものである。『麻雀』は牌の持つ関係性が少ない。(自身と同じ種別の前後のみ)そのため、”二次元的”にすると牌同士が関係性を持てなくなり、残された盤面には置いた牌とは無関係の牌を置くことになる。一方、『クアルト』は駒の持つ関係性が多い。(要素が4種類)そのため、”一次元的”にするとそれぞれの駒が関係を持ちすぎ、数が増えるとお互いの関係性が無秩序に増えていってしまう。(二次元の図は一見すると関係性が飽和しているが、これは図において「穴の有無」を省略しているからである)つまり、このタイプのゲームを制作するうえで、”一次元的”なゲームに使用するモノは要素(関係性)を少なく、”二次元的”なゲームに使用するモノは要素(関係性)を多くする必要があるということである。

なお、この法則は「異なるモノ」を揃える場合に適応される。「同じモノ」を揃えるゲーム(例えば『五目並べ』など)は一見すると要素が1つしかなく、上記の理論だと”一次元的”なゲームの方が適しているようになる。けれども、「要素が1つ=すべての駒と関係を持つ」ということなので、むしろ関係性は多く”二次元的”なゲームが適していると言える。

前記事でも述べたように、”色”の特性は「関係性の多さ」が特徴である。つまり、”色”の特性を利用するなら”一次元的”なゲームではなく”二次元的”なゲームの方が適しているということだ。これが”色”の特性と「タイル配置」の相性が良い理由である。


最後に

今回は”色”の特性を「タイル配置」メカニクスに組み込んだ思考プロセスおよびその合理性について記事にしました。今回の記事を読んで少しでもメカニクス構築時の参考になれば嬉しく思います。
また、前回と同様に今回の記事で分からなかったことや詳しく知りたい事があればコメントをしていただけると助かります。
次回からは具体的なルールの構築プロセスに入っていきます。最後まで楽しんでいただけたら幸いです。

『チキン・ラン』
多人数短時間(4~7人、20分)、自由な交渉とシンプルな数比べ
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キャッチコピーは「―破産か、罵倒か―」
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『B級映画制作委員会』
多人数軽量級(3~6人、10分)、リレー式大喜利ゲーム
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【ボドゲーマ通販 URL】
https://bodoge.hoobby.net/games/b-kyuu-eiga-seisaku-iinkai
ゲームマーケット2021春
『Mole in the Cult』出展しました。
【ルール解説note URL】
https://note.com/ranbun_bdgcobor/n/nfb098775d4d6?magazine_key=m04f7ef0d353e
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プレイ難易度★★
キャッチコピーは「裏切者には粛清を」
【ボドゲーマ通販 URL】
https://bodoge.hoobby.net/games/mole-cult
ゲームマーケット2022春
『SYMBOL PALLET(シンボルパレット)』出展予定
【作品の概要note URL】
https://note.com/ranbun_bdgcobor/n/n0075ccbaec61
少人数中量級(2~4人、30分)、タイルを置いていく陣取り系ゲーム
プレイ難易度★★
今後の情報にこうご期待

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