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【自作小説】クロッカスの舞う夜に。#9

 彼が出張から帰ってきてから仕事終わりに何度か会ったが、休みが揃ってゆっくり会うことが出来たのは、2008年も1ヶ月を切った、12月に入ってからだった。

 彼の誕生日に入ったカフェをお互い気にいったようで、今日もそのカフェで会う事になっている。目的を決めて少し遠出するデートも好きだが、こうして落ち着いた場所で会話を楽しむのも特別な時間だ。

 世の中はすっかりクリスマスモードになっている。26日に日付が変わった途端、日本は年末年始の正月モードにシフトチェンジするのだから、本当に忙しない。ほとんどの日本人が無宗教であるが故の、多文化イベント歓迎国なのだ。

 そんなことは言いつつも、クリスマスはやはり恋人と過ごしたい。いつもとは違う、綺麗な夜景の見えるホテルで過ごすことができれば夢のようだが、こんな時期に空室なんてあるわけがない。

「来年は早いうちに予約を取って過ごそうね」などと話していると、ダメ元で一度電話をしてみようとなった。

 まさか空室なんてある訳がないと思っていたので、せっかくならと市内で一番夜景が綺麗に見えるホテルに彼が電話をしてくれた。

「もしもし、24日に…そうです今月の、クリスマスイブの日ですね。まだ空室ってあったりしますか?え?本当ですか」最初から諦めているような口調で電話越しの人と話していた彼が、急に笑顔になる。

「ちょうど昨日キャンセルが出たみたいで、1部屋空きがあるんだって」とスピーカーの部分を、携帯電話の持っていない左手で押さえながら笑顔で伝えてくる。

「えっ、すごい。そのまま予約しようよ」と私も間髪入れずに答える。まさかこの時期に予約が取れるとは思いもしなかったので、思わず拍子抜けした顔になってしまう。

 プライバシーがあるので答えてくれることはないだろうが、昨日何処かで別れたカップルがいたのかもしれない。もしいたとしたら彼らには悪いが、感謝をしなければならない。目の前では彼が予約を取ってくれている。

「はい、星川唯月です。唯一の唯に、月で。はい、お願いします。」

第二部「Short hand.」#10 へ続く


今回の#9 をもって、第一部「Long hand.」は終了しました。
次回話より第二部「Short hand.」が開始。
 何が真実で、嘘なのか。あなたのその目で確かめてください———。

#1 はこちら

自作小説「クロッカスの舞う夜に。」の連載
眠れない夜のお供に、是非。

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