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「きらきらし」かんそう

宮田愛萌さん著「きらきらし」の感想を彼女の誕生日までにはあげたいと思い、なんとか間に合った。画像は初めて描いたのでご容赦ください。平安貴族みたいで雅では?

日向坂46というアイドルグループを卒業した彼女の初めての小説集。全5編の小説と写真集が一体になった彼女のアイドルとして最後の姿が残った作品である。

読んでいて楽しいのが、彼女を知っていればいるほど、彼女の要素が作品に感じられることだ。バレエ、坂道、図書館、古典文学、大学生、作家、御朱印帖、病気――。散りばめられた彼女の欠片が節々で見つけられ、あぁ、この作家の作品ブログで紹介してたなぁとか、アイドルでなければこんな大学生活を送ることに憧れていたのかなぁと、ふと思考を寄り道させながら読んだ。

「ハピネス」
シンプルで複雑な親友への愛情の話。この話が好きな人にはぜひ『リズと青い鳥』というアニメ映画をおすすめしたい。好きという感情はシンプルなはずなのに、どうして複雑な気持ちに陥ってしまうのか。愛萌さんと親友にはなれないけれど、愛萌さんにパートナーが出来たら、複雑な気持ちになってしまうのだろうな、とファンの面倒な心理状態に陥った。

「坂道の約束」
主人公と猫と少年の話。一番ショートショートって感じがする作品。愛萌さん自身のことが含まれているかはわからないけど、図書館の楽しみ方が書かれていて嬉しい。なんせ私は学生時代は図書館を住処としていた時があるから。本文で出てくる例えが作家や作品由来で本好きが溢れているところもポイント高し。私は本と言えば猫ではなくてふくろうだなぁ。

「紅梅色」
マニキュアきっかけの文学部の大学生活の話。特にレポート周りの描写が妙に生々しい。本当にアイドルしながら大学生してたんだなぁ、と感服する。性別問わず、指先きれいな人は丁寧な生活してそう。ネイルって結構時間かかるから、相当な話術が必要だと思っているので、私だったら「してあげようか」はなかなか言えないな。

「好きになること」
この話に関しては私もおそらく恋をしたことがないから、主人公の気持ちになかなか共感できた。誰かで試したり、受け入れてみたりとか私には出来ないけれど。愛萌さんも同じタイプかな~とか思ってたら、がっつり恋愛話でちょっと驚く。普通ってなんだろね。

「つなぐ」
病気を扱う話というのは愛萌さんの事情もあって、直前に挟まれていた写真集に口角上げっぱなしだった私は少し胸がきゅっとなってしまったが、儚さを感じて好きだなと。日記を書く習慣がないから、今死んだら何も遺らないなと不意に憂いてしまった。この愛萌さんの本への感想は残るけども。

全体を通して、登場人物が中性的で、自分の色を出しながらも文学に対して真摯に向き合った優等生のような作品だな、と感じた。愛萌さんのファンに対して見せていたオタクの部分が好きなので、次回の作品があるならば、もっと我が道を進んだクレイジーな部分も見せてくれたらと思う。

私は読書は好きだし、国語だけは得意だったが、国語の授業だけはどうしても好きになれなくて。たくさん音読しろ、有名な古典文学を暗記しろ、暗唱しろと、あくまで受験勉強に向けての授業内容ばかりで。この句にはどんな意味があるのか、この作者はどんな人だったのか。教えてほしかったのは、その背景なのに。

競技かるた部の漫画『ちはやふる』では競技のために百人一首をただ暗記している主人公に対して同じ部の子が「この句にはこんな意味があるんですよ」といった手解きをするシーンがある。この後主人公は一つ一つの句の意味を知り、かるたが彩りを持って見えるようになり、世界が広がっていくのである。こんな気持ちを味わってみたいな、と思うことがあったが、きっと愛萌さんはたくさんたくさん味わってこの作品たちを書き上げたのだろうな、と思う。



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