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Goodnight Sandy

逆さまに吊るされた人形達は幸福時代へのアンチテーゼだった

サンディは母親がお酒を飲んでいるのを見たことはなかった

サンディは父親の顔を見たことはなかった

「出張に行っている、それはとても遠いところよ。いつか帰ってくるのを待っているの」

新しい時代の戦争孤児院。

たくさんの兄弟姉妹と大きな館で暮らしていて、毎日渡される甘いクッキーが1つ。

その味が忘れられない。幸福のチョコチップクッキー。

1人にひとつクマのぬいぐるみ。サンディは幸せだった。

換気し続ける扇風機。息が吸いやすい午前2時

聞いてみたことがある。

「ねぇ、ママ、私はいつになったら大人になれる?」

「サンディ、あなたはいつだって大人になれるのよ。ただママもどうやって大人になったかは忘れてしまったの。あなたもいつか気づくはずよ」

「大人になるのは幸せなの?」

「気づくことは不幸せかもしれないわ。でも幸福時代を映す鏡の中でママは暮らしているの。あなたが気づくまでは私はいつだってそばにいるわ」

サンディは嬉しくなってニコリと笑うとママにギュッと抱きついて狭くて鍵の掛かっている部屋で眠った。

幸福時代の鏡の中で眠った。


サンディは38歳。ゴミ袋を抱きしめて逆さ吊りの人形が吊るされた部屋で垂れ流した糞尿を啜って笑う幸福時代。

ママはお酒を飲まない。

パパは側にいない。

サンディはひとりぼっち。気づくまでは幸福時代。

「ママ、大好き、おやすみ」

グッドナイト、サンディ。安らかに眠れ。

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