拝啓、君へ
宮本は、新しいコートを買うかどうか悩んでいた
だが、もう冬を越えることもない。
必要ないであろう。
君が死んでからどれくらいたっただろう
夏が終われば
君が死んでしまった悲しい雨の晩秋が近づく
日々が癒すなんて嘘だった
僕の親友、僕のソウルメイト、僕の鏡
君が死んだ夜に僕の中のほとんども死に
残った僕は下敷きみたいに薄っぺらい伽藍堂だ
覚醒剤で動く兵隊のような暮らしだった
悲しみを忘れるために動き、息を吸い、眠る
人間の生活は手に入れる為の競争だ
僕は捨てたかった
怒りは薄れ、絶望は霞み、生活には慣れたが
空洞だけが捨てられなかった
ガタンゴトンと揺れる電車に乗り家に帰る
古いコートも捨ててしまおう
ひとつの靴下とひとつのパンツ以外捨ててしまおう
「靴を並べる練習は中止だ」
宮本はそう唱えると泡となって消えてしまった
誰も彼を知らない
彼も彼を知らない
生きながら死んでしまったのだから
拝啓、君へ
ごめんなさい、さようなら
宮本
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