居飛車クリニック~逆木碌様①はじめての通信将棋~
紫陽花咲く頃
先生について
弟子をとった、という話は聞き及んでいました。
真面目で周りに優しく、素直な居飛車を指すあの人のことです。光る原石を見出したに違いなく。
レベルの高い講座の中に、将棋の知識と、楽しさも悔しい思いもしっかり伝えていたことが記憶に残っています。
以上、先生について。あんまり言及されたくもないと思うので、短めに。
6月に入り、私の庭にも紫陽花が咲き始めました。
紫陽花さんのところにも、すてきな大輪、咲きそうですね。
逆木様について
本人の戦いを何度か拝見いたしました。
想像以上。
特に知識面では、段位者でも食いかねないくらいの勢いがあります。
この段階で美しい王道の居飛車を指せる人はどれだけいるものか。
近い将来、まっすぐ立派な居飛車党になるという期待を持って応援していました。
通信将棋のお誘いは意外でした。
それも、私をとても高く買ってくださっているようで。(前者はともかく、後者はとても吃驚しました)
上記の特殊な事情、変なことを教えるとAJSI先生に申し訳ない気持ちがありつつ、少し考えます。逆木さんが棋力差のある私に挑戦するとき、一体どれくらいの怖さを感じたのでしょう……。すごいな。
私はこの一局に、私なりのHonestyをもって向き合おう、と決めました。
逆木碌さんとの花咲か棋録
⓪時間の使い方
通信将棋の一番の特徴、それは時間的制約から解き放たれること。
私は一手に2、3時間以上考えることがざらにあります。
棋力によって長考の最大時間やPonder(相手の手番中に考える力)は変わるので、こちらはあまり悩まないようにしました。
自分はスプレッドシートを使って通信将棋の棋譜や日数をまとめています。
最長は憧憬の五反田えぬ先生との262日。たった一局にここまで時間を使えることを知っていただければと。
以下、対局内容について
①後手雁木について
序盤がぱたぱたと進み、私は少し困りました。
——なんと、雁木ですか。
何を隠そう、私は「とりあえず雁木を咎める会(本当はもっと不穏当な会名)」の幹部なのだから。
葛藤とは裏腹に、手は雁木殲滅モードに切り替わり、勢いよく棒銀が繰り出されます。
②対雁木のミニ知識
△64角までは後手もパーフェクトな対応。
ここで▲37銀が挑発的で、△36歩▲46銀△45歩で銀はつかまりますが、▲11角成と攻めた際に玉形差が大きく、先手有利となります(と言っても、攻めが細いので自信はありませんでした)
③”手番”について
本局で伝えたいことを一つに絞ると。
良い手を指すには、”方針”と”手数”を意識すること
通信将棋は際限なく考えることができ、悩みは尽きないでしょう。
だから、81マスの広大な海に出るときには、この地図と羅針盤を持っていていただきたい。
2つの図を見比べてください。
▲38飛(1図)△33歩打▲同歩成△同金▲34歩打△32金(2図)
局面は一緒ですが、違うのは手番。
後手番だったはずが、いつの間にか先手番になってしまっています。
これは”手番を渡す”と言われる概念で、基本的に良くないとされています。
将棋は一手にどれだけの価値を込められるかで勝ちが決まると言っても過言ではありません。
前章での△86角▲87歩△64角▲37銀△42角で考えてみます。
どうせ△42角と戻るのであれば、一手かけて△64角を挟む必要があったのでしょうか? といったように手数を掛けただけのメリットが得られているかを常に意識すると良いでしょう。
手数を意識して頭の中で駒を動かす感覚。
今は難しいかもしれません。
自分の手を決めた後、その次の相手の手とそれに対応した自分の手を考える。
これだけでも十分違った世界が見えるはずです。
④”方針”について
自分の指し手の方向性が見えていると、精度は格段に上がります。
本譜順は説明の通り、方針が迷走している状態でした。
と言っても、将棋の方針とはどのようなものでしょうか?
方針は、優勢側を見ると分かりやすいです。
先手側は「角や銀、歩を使って▲45歩(△同歩は角が成れる)から相手の守りをこじ開けたい」という明確なねらいを持っていますね。
ねらいに従うと、▲45歩を実現するための手たち(▲36飛▲37桂▲46歩……)が自然と指せるはずです。(「良い手ですわね」の種明かし)
これが一つの方針です。
攻めの方針は「歩や銀を前に進める」「大駒の利きを活かす」などが基本になります。迷った時はこの2つを意識するとGOOD!
現在の雁木側は、歩や銀が前に進んでおらず、大駒の可動域も狭いです。
これだけでも形勢が分かったりするもので。
(図の状況で雁木側が攻めの手を作るならやはり、歩を前に進める△75歩から)
劣勢時は真逆で「相手の方針の邪魔をする」ことも大きな方針になります。
先手側の方針が「角や銀、歩を使って▲45歩から相手の守りをこじ開けたい」になるので、本譜でもあった角道を妨害する△55歩などは考慮される手になりますね。
⑤褒めポイント
劣勢になってからの粘り強さはとても良かったです!
特にこの△66銀打は段位者でもなかなか見えない手だと思います。
以降も△52歩や△44飛など的確な受けが私を驚かせました!
将棋を始めたのが最近とは思えない、素晴らしい腕前です。
⑥決まり手
▲65飛と切るタイミングではもう読み切っていました。
通信将棋で手が限られるタイミングは読み尽くしてしまってヨシです!
例えば、この局面では後手玉の受けを考えなければいけません。
選択肢が少ないので、以下のように選択肢を羅列⇒全部考えるのが読み力向上におすすめです。(とても難しいですが)
まとめ
自分の想像を遥か超えて逆木さんは強くなっていました。
知識を仕入れていた序盤もそうですが、中終盤も一目という訳にはいかず、ある程度の時間を使わされて驚いています。
また、お節介として、通信将棋ライフを楽しんでもらうためのアドバイスとして”方針”と”手番”の概念を。そして、読める時は全部読んでしまう。ということをご説明いたしました。
これからも逆木碌さんが通信将棋をはじめ、いろんな形で将棋に触れながら急成長していくのを見るのが楽しみです。
そして、自分にとっても逆木さんとの将棋、将棋を通して伝わる熱意はとても眩しく、いい刺激になりました。
もっと強く、逞しくなったあなたと戦えることを待っていますね!
改めて、この度は対局相手に選んでくださり、誠にありがとうございました!
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