十九、二十 7

https://note.com/ramenmenma/n/n6437930180f1

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カーテンの隙間から光が差しこむ。夜が明けてしまった。あれから彼女の言葉について、ずっと考えていた。今日何度目かの、彼女の
あの言葉を思い出す。


「誰かが欲しいものがあって、それを私が提
供する対価としてお金をもらっているんだよ
?普通のことじゃない?」


この言葉に間違いはない。と思う。多分正しい。正しいというか、これを否定する論理を今の僕は持ち合わせていない。「正しくない」わけではないのであれば、正しいと認めざるという、そう考えるのしかないという、そういうことだ。

では、あの胸を握りつぶされる感覚は何だろうか。彼女が僕が思っていたような正しい人間ではないことに対する軽蔑であろうか。彼女が自分以外の男に抱かれていたことに対する嫉妬であろうか。彼女と話すようになってからの数か月間、隠し事をされていたからだろうか。どれもしっくりこない。

彼女が、金銭的な理由なのか、精神的な理由なのか、それとも僕の想像し得ない何か別の理由で、援交をしている。それを止めてほしいと思うのは、僕のエゴだろうか。彼女には彼女の人生がある。家族がいて、過去があって、夢があって、未来がある。僕のエゴで、それを妨げるようなことがあっていいのか。そもそもやめたところで、この痛みは消えるのだろうか。

脈絡のない自問自答が波となって押し寄せてくる。もう何を考えているのかわからなくなっている。何を考えればいいかもわからない。それでも考えることをやめられないのは、何かを考えていないと孤独で押しつぶされそうだからだろうか。いくら手を伸ばしてもそこに彼女の手はなく、つかめるのはベッドの梁だけだった。あれだけ狭いと文句を言っていた彼女の家のシングルベッドが今はどうしようもなく恋しい。一人しかいないベッドというのはこんなにも孤独だっただろうか。腹が減った。何か食べないといけない。弱弱しい足取りでキッチンの方へ歩いていく。冷蔵庫を開けると、彼女が律儀にしまってくれた昨夜のケーキが置いてあった。誕生日が半分終わった。

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