十九、二十 3

よければ1からみてください

バイトが終わった。コンビニの前に備えられている灰皿へ向かう。バイトが終わり、特に理由もないけど大学生になったからという理由で吸い始め、特にやめる理由もなく惰性で吸っていた煙草に火をつけようとした時だった。


「今日はもう終わりなんですか?」
聞き覚えのある声に思わず体が硬直する。声がする方に目を向けると、彼女が立っていた。時刻は午後十時過ぎ、近頃は日が落ちるころにはもうすっかり肌寒くなっていて彼女は白い無地のカットソーの上に紺色の薄手のカーディガンを羽織っていた。
「あ、、あい。10時に終わったんで。」
「タバコ吸われるんですね」
「そうなんですよ。なんとなくやめれなくて(苦笑)。」
彼女に会うと心が躍る。彼女のことを直視できない。彼女のことが好きなんだと僕はとっくの昔に気づいていた。彼女は手がかじかんでいるらしく両手をこすった後、その手を口に当ててはーと息を吐き手を温めている。
 かわいい。この生き物は天使の生まれ変わりか何かか。


「たばこ1本もらっていいですか?」
「どうぞどうぞ。タバコ吸われるんですね。」
そういって僕は白い箱から親指と人差し指でつまみ出し、彼女に差し出した。
「最近はあまり吸ってなかったんですけど店員さんの見たら何かすいたくなっちゃって。」
「タバコはなかなかやめられないって言いますしね」
お互いに一吸い、二吸い、しばしの沈黙。目の前の通りに咲いている名前の知らない木が、少しずつ黄色がぽつぽつと出てきて夏の終わりを感じさせる。無言の時間が続き、居心地が悪くなって話しかける。
「そういえば、新曲、、」
「ね!新曲出ましたよね!!もうなんていうか一言で言ってしまえば神ですよね!何がいいってそれはもういっぱいあるんですけどまずイントロの、、、、」
彼女はちょうど昨日の今頃に発表されたクリープハイプの新曲についてマシンガンのように話し出した。彼女とカウンター越しに会話するようになって、彼女のクリープハイプに対する愛に驚いた。孤独な青春時代を唯一支えてくれたこのバンドに対する僕の愛よりももっと深い何か、このバンドが自殺を推奨する曲を出したら本当に自殺してしまうんじゃないかといったほどのそれは、愛を超え心酔の域に達しているように思えた。
「あー最近カラオケ行ってないから久々に歌いたいなー」
「あ、、あのっ、、」
緊張で思わず声が上ずってしまった。顔が熱い。こんな思いをしたのは、中学生のころ授業参観の時に立たされて大声で答えたのに間違えたとき以来だろうか。
「よっ、、よかったら、一緒にカラオケ行きませんか?」
「、、、へ?」
僕の耳はおそらく今猛烈に熱を発しているだろう。辺りはすっかり暗くなっていて、僕の耳の色など彼女の目からは感じ取ることができない。。。といいな。
恐る恐る彼女の方を見ると、そこにいた天使はまるで本物の天使かと見まごうような笑顔で微笑んで言った。

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