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脱炭素経営の思考プロセスを学ぶ

ここ1年ほど、仕事の中で「脱炭素経営」に関わることが増えてきたため、色々とインプットしてきました。浅い理解ながらも、主要な論点は抑えられたような気がするので、自身の整理のためにまとめてみます。

地球温暖化を認識する

導入にして結論のような気もしますが、脱炭素経営を考える上で一番大事なのは、その目的を知ることだと思います。
言うまでもなく、脱炭素経営の目的は地球温暖化の防止です。

正直なところ、「地球温暖化が事実かどうか」を判断する科学的リテラシーは私には無いのですが、以下のようなことを自分なりの根拠かつ自分ごととして受け止めるきっかけにしています。

よく指摘されることとして、「EUの陰謀」「アメリカは興味が無い」といった内容がありますが、事実ベースで捉えると以下のような感じだと認識しています。

  • EUの陰謀→GAFAや中国の経済成長に対抗するために打ち出した戦略。なお、中国も自動車産業の変革のためにEVに力を入れており、脱炭素戦略と経済成長は方向性が一致している。

  • アメリカは興味がない→トランプ政権下でパリ協定から離脱したが、バイデン政権になって復帰。二度目のトランプ政権が実現したら確かにまた逆風になる可能性ありだが、間違いなく2050年までは続かない…。

ざっくり言えば、「国連が指摘していて、日本政府が目標立てている」(かつ各種企業が同様に名乗りを上げている)テーマなのだから信じよう、という気持ちです。
※ちなみに日本は排出量が世界で5位です。1位の中国と比べたら10分の一ですが、世界的には上位ですし、経済大国の中国がビジネスとしても脱炭素に取り組んでいるのを無視できないと捉えています。

引用元:地球温暖化防止活動推進センターWEBサイト

ビジネスの機会を理解する

続いて自分の中で解決したのが「地球温暖化なのはわかるけど、一個人に何ができるの?」という疑問でした。
ここは以下の書籍が非常に参考になりました。

この本は脱炭素に限らず、広く「サステナビリティ」の文脈から書かれています。実際、脱炭素を考える上では他のテーマ(生物多様性、サプライチェーン上の人権問題など)が密接に絡んでくるので、合わせて抑える必要があります。

この本で書かれているサステナビリティとは決して「環境」のことだけでなく、「企業が持続可能である」ために何をすべきか、ということです。
その一つの要素として、当然のことながら事業成長や利益ということは欠かせません。
むしろその観点に環境や社会の視点が加わった、と捉える方がシンプルなのでしょう。

先程の問いに戻ると、「ビジネスにおいてどのように脱炭素と事業成長を両立させるのか?」を考えることが私一人にできること、です。
もしくは、すごい受け身な発想であれば、そんな問いを立てずとも、政府が規制ルールを導入し、大手企業が次々に宣言している中で、無視してビジネスはできないよね、ということでも良いのかなと思っています(経験上、これは一切の反論が無いです笑)。

※環境省だけでなく経済産業省も多数のペーパーを発行しているのが分かりやすいです。「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」のページには「成長が期待される14分野」がしっかり書いてありますね。

炭素排出量の算定ルールを知る

ようやく具体的な話(かつ経営レベルの話)に入っていきます。
これはGHGプロトコルという国際ルールがあるのでそれを参照するだけです。

引用元:資源エネルギー庁WEBサイト

ざっくり言えば、自社で直接・間接的にエネルギーを使っているものをScope1及び2、それ以外のサプライチェーンの上流・下流で発生しているものをScope3と呼びます。なお、Scope3は更に15のカテゴリに分類されます。

例として、2017年時点で炭素排出量が国内TOPだった日本製鉄(当時は新日鐵住金)の情報開示のページリンクを貼っておきます。

少しスクロールすると、Scope1・2とScope3のそれぞれについての排出量が千t-CO2単位で記載されています。
補足として、Scope3は15カテゴリすべてが発生するわけではないので、発生するものだけ開示されています。

詳細は環境省など各種の解説サイト、各社の外部開示を見ていくのが良いと思います。個人的には、「炭素会計アドバイザー」という資格の取得が良い勉強になりました(試験自体は非常に簡単です)。

Scope3の分類を覚えるのが少し苦労ポイントかと思いますが、「会計」の名がついているだけあって、財務会計の知識がある人は財務科目と紐づけて覚えるのが良い勉強方法ではないかと思っています。
ざっくりこんなイメージです。

  • Cat1:購入した製品・サービス→仕入、外注など

  • Cat2:資本財→固定資産

  • Cat11:販売した製品の使用→売上

※財務科目を立てに並べて、それに当てはまる分類を書き出す、のもオススメです。

削減できる単位に細分化する

算定方法が分かれば、マネジメントでお馴染みPDCAサイクルの出番です。
つまりは削減目標を立案し、削減活動を実施し、結果を振り返り、次のサイクルにつなげる…という流れです。

ところが、ここで一つ問題が発生します。
それは、「算定方法によっては、実際に削減しても排出量が減らない」ということです。

ちゃんと回避方法はあるので、極端な表現をしているのですが、原因は算定に使用する「排出原単位」というものにあります。
解説は以下のようなサイトをご覧ください。

簡単に言えば、Scope3-Cat1において「PC」を一定の排出原単位で計算していると、購入しているPCのうちいくつかを炭素排出量の少ないグリーンPCに切り替えたとしても、その排出削減を反映できないことになります。

そのため、「PC」などの単位ではなく、「どこから買った、何という製品なのか」というレベルで排出量を把握するのが本質的ですが、実務的にはそのレベルで把握するのが難しいから使いやすい排出原単位を使っている、という事情があります。

ただ、このあたりはグローバルはもちろんのこと、国内でもCFP(カーボンフットプリント≒商品・サービスあたりの炭素排出量)をサプライヤに対して要求する流れが始まっており、特にメーカーを中心として「製品の原料調達から廃棄まで=ライフサイクル全体での排出量把握」が喫緊の課題になっています。

※ニュース自体は「削減せよ」って内容ですが、サプライヤからすれば「トヨタに納めている"この部品の排出量"を削減する」必要があるため、製品あたりの排出量把握という話です。

削減活動の課題を把握する

あとは製品・サービス単位の排出量を把握して削減していくだけだ、としたいのですが、トヨタの例を挙げたように、Scope3の削減はサプライヤの協力が必須です。

しかも、製造プロセスにおいて再エネを使う、グリーンな素材を調達する、という削減アクションはことごとくお金がかかります。
当然それは企業財務に影響を与えるため、「持続可能性」の観点に反するわけです。

そこで、先程の話と少し重複しますが「製品の原料調達から廃棄まで=製品ライフサイクル」全体で削減するために、設計やビジネスのあり方を含めて見直す必要が出てきます。
こういう考え方をLCA(ライフサイクルアセスメント)と呼びます。

先程のCFPとの違いで言えば、LCAの方がよりサプライチェーンを広く捉えるイメージのようです。
※なお上記の書籍はLCAを理解するために読みましたが、EVに関わる国際状況の解説から製造業における具体的な取り組みまで、かなり網羅的で勉強になりました。章ごとに著者が違うため、若干の重複もありましたが、それはそれで良い復習になります。

このLCAを用いて、製品・サービス単位で削減戦略を立てていくことが非常に重要なステップのようです。

サーキュラー・エコノミーを実現する

ビジネスのあり方を見直す、ということに触れましたが、じゃあどうするの?という時に指針となるのが「サーキュラー・エコノミー」という考え方です。

これは環境省のサイトがかなり分かりやすいと思いますが、簡単に言えば「作って、使って、捨てるサイクルだと排出量の削減が難しいので、作って、使い続けるサイクルにすることでトータルの排出量を減らす」ということだと思っています。

これこそ、言うは易く行うは難し、の良い例だとは思いますが、すでに沢山の事例があり、事例を読めば読むほど、発想勝負なんだなと思い知らされます。

なお、私が知識インプットのために読んだ書籍は以下です。
こちらも前提知識から含めて、具体的かつ分かりやすい内容でした。

こういう流れを理解し、単に削減するだけでなく、どのように環境負荷の低いビジネスをするのか、ということがサステナビリティ経営、脱炭素経営の中で求められている、というのがここ一年間勉強してきて行き着いたところです。

まとめ

私自身は企画職なので、環境負荷を考慮しつつ、どういうビジネスを生み出すべきか、という視点が一番刺さりました。
今回の整理では気候変動かつ炭素に特化した書き方になりましたが、環境を考える要素は生物多様性から水、土壌と複数あり、このあたりもまだまだインプットが必要です。

更に話を大きくすると、今回の前提である「持続可能性」はそもそも「脱成長」じゃないと無理だ、という議論もあります。

世界的に答えが明確ではないため、基準が定まりきらず混乱が生じていますが、逆に言えば常にアップデートされていく調査・議論を追っていく楽しさがある分野なのかな、とも捉えています。

引き続きフォローし、考えていきたいと思います。

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