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イギリス最大級の視覚障害者向け展示会に行ってきた

社会福祉士であり視覚障害リハビリテーションワーカーでもある筆者がイギリスの視覚障害者支援について2018年に視察研修したことを書いています。6回目は視覚障害者向けの展示会をご紹介します。

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2018年11月7日に ロンドンのケンジントンタウンホールで開催された QAC Sight Villageを視察しました。QAC Sight Villageは視覚障害者向けのイギリス有数の展示会で国内各地でも開催されています。

参加するために、Eventbriteというオンラインチケットサービスサイトから事前に参加登録しました。入場料は無料です。そしてイベント後はそこからアンケートサイトへ誘導するメールが届くという流れで、私が日本で参加した展示会ではだいたい帰る時に紙のアンケートに記入していたので、さらっと近代化、いや、IT化されていることに驚きました。いや、日本が遅れてるだけかもね。

そしてもう一つ驚いたのが、この展示会のスポンサーの一社であるAmazonから来場者に抽選でAmazon echoがプレゼントされる大抽選会をやってました。これは行きたくなる!日本の展示会でもAmazonさんやってくれないですかねー?日本の視覚障害者もAIスピーカー活用している人増えてますよ!Amazonさん!!


さて、展示会へまいりましょう

会場は大きく2つに分かれています。出展者は、先日お話をうかがったRNIBのような慈善団体、OrCamのように最新のテクノロジーを使った商品を紹介する企業、旅行やスポーツなど余暇を楽しむための団体や情報、視覚障害者向けの大学、宗教団体など、全部で56ブース。

入口を入ってすぐ、展示会のヘッドラインスポンサーであるバークレイズ銀行のブースに目が留まりました。銀行が?なぜ??


すごいよ!バークレイズさん

バークレイズ銀行のブースで紹介されていたものは次の4種類です。

 1 音声ガイド機能付き PINsentry Card Reader
 2 小切手の作成、クレジットスリップの記入、デビットカードや
   クレジットカードへの署名を簡単にするテンプレート
 3 視認性の高いデビッドカード
 4 リストバンド型 非接触決済デバイス

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上の写真には音声ガイド機能付き PINsentry Card Readerが写っています。このカードリーダーを使えば自宅に居ながらにしてより安全な取引ができる(しかも音声ガイド付き!)ということです。すごいなー

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上記は署名を簡単にするテンプレートコントラストのはっきりしたデビッドカードの写真です。

みなさんもATMやICチップ付きクレジットカードで支払う際、カードを読み取り口に入れる方向で困ったことはないでしょうか。このコントラストのはっきりしたカードなら挿入方向が分かりすぎませんか!?この発想すごいです。みんなにやさしい。

通訳さんとブースで「わー!これいい~」などと騒いでいたところ、バークレイズさん太っ腹です、謎の日本人(私)にデビットカードとテンプレートのサンプルをくれました。いよっ、大銀行!

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いただいたデビッドカードとテンプレートの写真です。

テンプレートは2種類あり、どちらもそれぞれの枠(くり抜かれた部分)に点字で説明書きがあります。

テンプレートの使い方をご存じない方のために説明を。
「ここにサインしてください」と言われても「ここ」を見て確認できないとどこにサインしていいのか分かりませんよね。
そんな時にこのようなテンプレートを使います。署名欄にテンプレートの枠を合わせると、サインが必要な箇所が分かりやすくなります。


ちなみにテンプレートは硬めの紙を使うことで簡単に手づくりできます。

そしてカード。特徴はカードの左辺の色付けや大きな矢印、そして右辺に切りかけがあることでカードリーダーへの挿入方向が分かりやすいことです。裏面のセキュリティコードも通常より大きめにプリントされています。


他にもいいなと思ったものをご紹介します。

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細かい調光機能のついたデスクライトです。
日本の展示会で照明器具を展示してるところなんて見たことない。
照明器具も視覚障害者にとって結構重要です。それぞれの目の見え方によって適した明るさがあるからです。
同行してくれた通訳さん(晴眼者)も「これ欲しい!」と。
ロンドンの展示会で見てから、私も地元でやってる展示会の実行委員会で照明器具の展示を提案したんですが実現しませんでした。。。
どうですか?関係者のみなさま。

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点字ディスプレイです。
日本でも同様の商品はありますが、これは一度に表示される文字が9行360マスと多い。文字を表すピンは上下するんじゃなくて回転しています。

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一見普通の折りたたまれた白杖(視覚障害者用杖)に見えますが、右側にシャフトの部分が黄色い杖がありますね。見ていただきたいのはそこ!

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シャフトの色は白だけではなく、赤・青・緑・ライラック・黄・オレンジの6色からオーダーできるそうです。

なぜカラフルなのか?とブースの担当者に話を聞くと

「特に若い視覚障害者が白杖を持ちたがらない事から考案された物です」

と。カラフルである事で白い杖を持つ人=視覚障害者という社会通念から上手く逃げる事ができ、長杖を持つ事への心理的抵抗感が低くなる。その一方、長い杖で障害物や足元の確認等自分の身を守るための機能は使える。また、その日に着用する服の色に合わせて持つ杖の色を変えるといったファッション的な利用や、色のきれいな長杖を使用している事で周囲の人が興味を持って声をかけてくれるといった良い効果がある、といいます。

この話を聞いて私は目から鱗が落ちました。
支援者からすると視覚障害者には白杖を持ってほしいんです。それはご自身の身を守るためでもあるし、何よりそのシンボルを持つことでそれを持っている人が視覚障害者だと分かり必要な配慮ができる。でもシンボルであるがゆえに持ちたくない、抵抗があるという方も多い。

視覚障害者の立場からすると、障害ゆえに目で見て確認できないものの確認を何らかの道具でできたら移動中の安全性は高まるけど、それは必ずしも白い杖じゃなくてもいいわけです。実際、長い傘や高齢者用の身体を支える杖を持ち歩いて足元の確認をしている人もいます。

福祉用具って大体見た目がかわいくない。機能面だけではなくファッション性も考える事は杖を必要とせざるを得ない人の気持ちに寄り添うものではないかと感じました。


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さてQAC Sight Villageですが最新製品の展示だけではなく、セミナーの実施や様々な団体の紹介ブースもありました。
大学、視覚障害当事者団体、盲導犬協会、スポーツ団体、旅行会社などなど。日本では珍しい宗教団体のブースもありました。

気になったのが Windermere Manor Hotelのブースです。

イングランドの北の方、ウィンダミア湖の近くにあるこのホテルは以前盲導犬協会やRNIBが所有していました。現在は経営者が変わっているようですが、これまでと変わらず視覚障害者および弱視のゲスト向けのサービスを継続、強化、および採用することを約束している(ホテルHPの「History」より)とのことで、どんな所なのかちょっと気になる所です。いつか行ってみたいな。


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