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モグラ・福尾 第1話

『あなたの心のふすま、お閉めします』

そういって名刺を差し出してきたのは、やや大柄なサラリーマンであった。

『わたくし、モグラ福尾と申します。お見知りおきを。』

そういって彼は去っていった。なんか変な人に会っちゃったな。
駅の階段を下りて、アパートへと帰路をいそぐ。
私は、18ライバー(ライブ配信サービスの配信者)であると同時に、会社員である。「地鶏 鹿海」というのが本名で、「鹿たそ」と配信では名乗っている。顔出し配信者だ、フォロワーは2000人ほど。

今日もなんとか定時の6時に仕事を終えたので、9時から予定している配信の準備をしなければならない。

アパートにつくと、急いでナチュラルメイクを落として、赤を強調したメイクをする。キャンマヂの黒コンタクトを入れる。そうしたら、次は自撮りだ。自撮りをSNSで投稿することで、当然集客も増える。私の配信が盛り上がって、高級アイテム『江戸タワー』があつまれば、大金になる。そうして私は成り上がるのだ。

自撮りをアプリで加工する。この作業が本当に面倒くさい。

配信は無事に終了し、眠りについた。

次の日 朝早く目覚めた私は、ナチュラルメイクをほどこして会社へと向かう電車に乗る。この時間の電車は空いていて好きなのだ。

「もしもし、お嬢さん?」

急に声をかけられて振り向くと、そこにはモグラ福尾が立っていた。

「あなたご自分の容姿にコンプレックスをお持ちですね?」
「よろしければ今夜、このバーまでお越しください。」
というと、モグラは去っていった。『BAR ジェノス』とその住所が書かれた紙を手渡して。

会社を終え、いつもの電車に乗る。また今日も配信があるので、急いで駅に向かった。すると、前にはモグラが立っていた。

「やはりあの地図では分かりにくかったでしょう、ご案内いたします。」とモグラ。
「はあ?行くわけないでしょ!第一私には予定が、、、」
「おそらく配信業の方とお見受けします。なあに1日配信を休んだくらい、どうってことありません。たまには飲んでいやなことをお忘れなさい。」

BAR ジェノス

「いやーモグラさん、私本当に自分の顔が嫌いで、もう鏡を見るのも嫌で、加工しないとブスなんですよ!!本当にもう!!」
「いやいや地鶏さん、あなたは十分お綺麗ですよ。」とモグラ。
「いやいや!!こんなレベルじゃずっと稼げないままですよ、、ああ加工後の顔になりたいなあ、、、」

「でしたらとっておきの美容液をご紹介します。これを一度飲めば理想の顔になれます。ただし、一つだけ条件があります。明日から毎日、配信を休まないこと。いいですね?」

「は、はあ。で、おいくらです?」
「お代は要りません。わたくしボランティアですから。」

アパートに帰ってメイクを落とし、早速モグラからもらった美容液をつけてみた。
半信半疑で鏡を見ると、驚いた。
加工後の顔になっているのだ。本当に。
もう加工アプリで苦戦することもない。本当に良かった。

それから、仕事を6時に終えて、帰って配信する毎日が続いた。
メイクと加工の時間が浮いた分、私の生活はだいぶ楽になった。

そんなある日、会社で取引先とのトラブルが起きた。
謝罪の電話を各方面にしなければならなくなってしまった。
時計は進む。6時、7時、8時…
「大変申し訳ございません。」「大変申し訳ございません。」

そして9時になってしまった。
モグラの顔がうかぶ。
「必ず、毎日配信してくださいね」

帰らなきゃ。帰って配信しなきゃ。しなきゃしなきゃ。
ついに9時になってしまった。
もう帰っても12時には間に合いそうもない。どうしようどうしようどうしよう。。。。。

12時になってしまった。今日が終わってしまった。。
すると、突然
ジリリリリリリリリリリリリリリ!!!!!!!!!!!!!!
と警報の音が響いた。振り向くと煙はすぐそこまで来ていて、意識が途切れた。

『あれほど言ったじゃありませんか。配信を休んではいけないと。』

モグラはどこかへ向けて歩いていく。

「いやあ、それにしても現代の女性は自分の見た目にコンプレックスを持ちすぎです。女性も男性も中身が重要なんですがね、、フッハッハッハ」


モグラ福尾は不敵に笑いながら、姿を消した。

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