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宮部みゆき『誰か』 読書所感

こんにちは、らくいこです。
知人に教えてもらってからというもの、宮部さんの本を読む機会が多くなりました。今回は杉村三郎シリーズの一番初め、『誰か』を読みましたので、そこから感じたことを書き残したいと思います。


『誰か』あらすじ

今多コンツェルン広報室の杉村三郎は、事故死した同社の運転手・梶田信夫の娘たちの相談を受ける。亡き父について本を書きたいという彼女らの思いにほだされ、一見普通な梶田の人生をたどり始めた三郎の前に、意外な情景が広がり始めるーー。

 文春文庫 背表紙より引用

今回読んだ中で自分が感じたものを3つ挙げるとすると、
「知られざる過去」
「抱えている闇」
「誰か」
それぞれの項目に登場人物のストーリーが絡み合ってるので、個別に分けられるものでもないですけどね(^^;

「知られざる過去」

自転車のひき逃げに遭い、亡くなってしまった梶田信夫の過去を紐解いていくと、梶田に関連した様々な過去が明らかになる。
口が堅く、真っ当な、平凡な人生を生きてきたと見られていた梶田の過去は、真っ当とは言えない過去。後半に登場する野瀬を助けるためにした消えない過去。
その過去から逃げるために日々おとなしく、「真っ当に」生きてきた。
「口が堅く、ちゃんとした梶田」という人物を形成したのも、人には決して言えない過去があったからですね。

「抱えている闇」

この作品には多数の闇が描かれていると思いました。
・梶田信夫を轢いてしまった少年
・親を手掛けてしまった野瀬
・野瀬をかばうために手伝った梶田夫妻
・姉より優位に立ちたい梶田梨子
・梶田聡美を裏切っている浜田
このあたりが表面化している闇の部分でしたが、それ以外にも轢いてしまった少年の家族、会長の愛人との娘である菜穂子、母から毒を浴びせられてきた杉村。。。
中でもとりわけ深い暗闇の中を歩いていたのが梶田聡美だった気がします。
わけもわからず誘拐され、謎の女性に閉じ込められていた時間。それから解放されたあとも、”何か”におびえ続け、ひっそりと暮らす両親のもとで育った聡美。
長期間そうした中で過ごすことによって聡美自身もより慎重に、丁寧に、静かに、波風を立てないように、何かに怯える人生になってしまったんだろうなと思いました。
過去を探ることで、なにかから逃げるようにひっそりと暮らしていた昔に逆戻りしてしまうことを恐れたのかも。
婚約者である浜田の浮気を知りながらも、暗闇の中にみつけた一筋の光を失いたくなくて、なんとかその光を、無理やりにでもつかもうともがいていたのかも、と想像したら、聡美が深い闇のなかを手探りで一歩ずつ歩いているような気がしました。

「誰か」

誰か
暗い、暗い、と伝ひながら
誰か窓下を通る。
室内には瓦斯が灯り
戸外はまだ明るい筈だのに
暗い、暗い、と伝ひながら
誰か窓下を通る。

西條八十 詩集『砂金』より

冒頭に書かれている詩。
この本のタイトルも「誰か」ではあるが、この作品に登場する誰もが心に闇をもち、この詩集の誰かのように暗い道を歩いている。

暗いと言っている誰かを見下ろしている「誰か」も、どこかに闇を抱えていて、明るいところにいても、暗闇に歩く自分を見たかもしれない。
真実を聞いても動揺しない会長もまた、深い闇を抱えているかもしれない。クリーンで、正しく、正論を投げかける杉村も、自分自身でも気づいていない心の闇を少しでもあかるくしたいという思いが杉村を突き動かしているのかも。
でもこれはこの作品に限らず、現実でも同じことが言えそうですね。。
人には言えない過去、闇を抱えながら、あかるい道を歩こうとしている。受ける光が強ければ強いほど、それに抗うかのように自分の影となる闇は深く、濃く反映される。その闇に向き合うのはとても辛いけど、どれだけその闇に向き合えるかで自分の生きやすさが変わりそうだなと思いました。

次は『名もなき毒』

シリーズものの3部『ペテロの葬列』→1部『誰か』という流れで読んできたので、次は『名もなき毒』を読もうと思います。これはペテロの葬列と同様、ドラマ化されているので、本を読んだ後にドラマのほうも見てみようと思います💡

ではまた!


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