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ウクライナ料理店と、消えたベラルーシ料理店

こんなタイトルの記事を書いて公開するの、すごく勇気がいる。

けれど政治的なことを述べるつもりは全くないし、仮に政治的な内容であったとしても、日本では自由な発言が許されている。

無名な私が文化的側面から書くだけのこの記事が、圧力の対象になるほど日本は終わっていないはず。そう信じて、海外旅行と異文化が好きな私は書くことにした。

ウクライナ避難民女性が開いたレストラン

先日、半年ぶりに東京へ行ったときに、西新橋のウクライナ料理店「スマチノーゴ」でお昼ご飯を食べた。

「スマチノーゴ」は、ウクライナから避難してきた女性たちが支援者のサポートを受け運営しているレストラン。ことし9月にオープンした。

注文したのは、キーフ風カツレツ丼+ボルシチのセット(950円)。

カツレツをコロッケのように丸く揚げ、ご飯に乗せてどんぶりにしているところは、日本人客向けに工夫されている。

こういう〇〇料理店ではふつう、「カツレツか、ボルシチか」と選ばなければいけない(もしくは2品とも頼む)場合が多いので、カツレツにボルシチが「セット」されているのは、どんぶりに付く味噌汁みたいな立ち位置だな~と微笑ましかった。

この日は雨で肌寒かったので、初めに供されるボルシチが体に染みわたった。日本になじみのないビーツの赤さが、体温を0.3℃ほど上げてくれるようだ。やはり寒い地域で定番になるだけのことはある。

このカツレツボール、お箸で割るとジュワーッとバターが出てきておいしい。細くスライスされたキャベツが、うまくご飯との「つなぎ」になっている。

あー、おなかいっぱい! 
これで950円って安すぎるでしょう、東京は家賃も高いんだし。しかもみんな「支援したい」と思って食べに来るから、1200円でも全然いい気がするんだけどな。

1000円札で払ったので、お釣りの50円を募金箱に入れた。

ランチタイムの後もティータイムとして営業しているらしく、次回はお菓子やワインもいただきたいな。

日本語を話していたウクライナ女性

食事を持ってきてくれたウクライナ女性は、ゆっくりとした日本語でメニューの説明をしてくれた。そうした「決まり文句」の後も少し雑談ができたので、もしかして侵攻前から日本にいる方なのかな?と思って尋ねると

「私は6月に来ました」

返す言葉がなかった。なぜ、こんな愚かな質問をしてしまったのだろう。

難解な日本語を3カ月でそれなりに身につけるほど、切迫した状況なのだ。そんなこと、十分わかっていたはずなのに。

ご飯はおいしかったし、また東京に行ったらお邪魔したいし、やっぱりウクライナ女性はきれいな人が多くてうっとりした(女性だって、きれいな女性が好きなのだ)。

けれど、店ができた経緯を考えると……流行りの言葉を使うなら「この店ができることのなかった世界線」を、生きていたかったと思う。

あの人気店「ミンスクの台所」が…

そしてふと、思い出した。麻布にあるベラルーシ料理店「ミンスクの台所」のことを。

(ミンスクはベラルーシの首都で、ベラルーシは「ロシア側」の国)

Googleマップで検索すると、「えっ」と声が出た。「閉店」と書いていたのだ。

公式サイトにも最新のお知らせとして「閉店のお知らせ」があった。5月に「突然」、閉店したらしい。

この店は20年続くなかなかの老舗で、私が知ったのは10年ほど前。店の面積は広いけれど、予約なしでは入れないこともあるそう。

コロナ直前の2020年1月にようやく初体験でき、予想以上に料理がおいしく「絶対また来る!」と思ったものだ。

ビーツのサラダはケーキのようでときめく
最高においしかった豚肉とクレープの「マチャンカ」

そのときも客は多かった。だから、純粋に売上減での閉店とは考えにくい。

閉店の理由はわからない。あくまで私の個人的な推測だが、ロシアのウクライナ侵攻の影響ではないか。本当になんの根拠もない想像だけれど、もしそうだとしたら悲しすぎる。

公式サイトの「閉店のお知らせ」の最後の一文がこれだった。

また、ウクライナに一日も早い平和が戻ることをお祈りしております。
「ミンスクの台所」店長
http://restaurant-minsk.tokyo/news/popup.php?id=20220509015843

生まれてしまった「スマチノーゴ」と、閉めざるを得なくなった「ミンスクの台所」。出てくる料理がほとんど変わらない(違うのだろうが、欧米人が日本と中国のラーメンを見分けられないように、私たちには細かい違いがわからない)ことがまた、悲しさに輪をかける。


民間レベルの異文化交流が、政治情勢に邪魔されていいわけがない。

……理念はそうだ。それが正しい。けれどオリンピックだって、飛行機の値段だって、絶対に影響してしまう。それが戦争なんだ。


日々、つらいつらいニュースが飛び込んでくる。終わりは来るのだろうか。私たちはどうすればいいのだろう?

「ミンスクの台所」が存続して、「スマチノーゴ」が生まれなくてよかった世界。これまで当たり前だった世界が、遠くなってきた。

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