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伝統文化③ 江戸時代の歌舞伎の楽しみ方

通訳ガイドのぶんちょうです。今日も私の視点で歌舞伎を知らない方に向けて書いていきます。前回は「見得」という独特の演出方法について触れました。

見得はクライマックス、感情が最高潮に達したときに役者が首を少し回してからにらみを効かせるのですが、この瞬間に合わせて、舞台の右手に置いたツケ板が拍子木で勢いよく打たれます。この音で場に緊張感が走り、観客は今まで以上に役者の表情に釘付けになります。

また、仮縫いしてある衣装の糸をさっと引き抜いて一瞬で衣装替えをしたり、宙乗りがあったり、見た目の奇抜さ、面白さをねらった演出があるのも歌舞伎の特徴です。

それではなぜ歌舞伎は派手なメイクや服装や演出なのでしょう。これもやはりルーツは江戸時代にさかのぼります。江戸の街は火事が多く、やたら火を使うことは禁止されていました。ですので芝居の興業は昼間のみ。昼間とは言え、芝居小屋の奥までは日の光があまり届かず、舞台は暗かったそうです。

役者さんが白塗りの化粧をするのは、舞台が暗くて顔がよく見えないのが理由でした。また、初期の芝居小屋は役者と観客を隔てる幕もなく、席のないお客さんは舞台の端に座ったり、とても自由な感じだったようです。ぞうりを脱いで、食べたり飲んだりしながら、ピクニック気分でわいわいと芝居見物をしていました。今のようにシーンと静まりかえった劇場で厳かに始まるのとは、かなり雰囲気が違いますね。

お客同士で芝居中に世間話をしたりして、必ずしも舞台の方を見ていなかったため、注目を集めるために、クライマックスでわざと音を消したのです。人間って面白いもので、聞いていないようでも、音がなくなると、え?と思って舞台の方を振り向くわけです。

学校の先生が大声で「静かに!」と言っても一向に静まらない教室が、先生が無言になると急に生徒たちが、「え、何?」という感じで前を向いておとなしくし始めた昔を思い出してしまいました。

今も芝居中に客席側から「なりたやっ!」などの声がかかりますが、これも江戸時代からあり、役者もその声に応える台詞を言うなど芝居は役者と観客が一体となっていました。花道によって役者との物理的な距離も近いのも特徴です。

花道は、観客席と舞台をつなぐ長い廊下状の舞台のことですが、花道の舞台寄りの1カ所にエレベーターのように上下する箇所があります。これを「すっぽん」と言うのですが、ここから出てくるのは芝居上、普通の人間ではありません。妖怪のようなものであったり、不思議な力を持つものが出入りする所です。

また舞台は「回り舞台」と言って、役者も舞台装置もすべて載せたまま、丸く切り取った部分がぐるぐる回転できるようになっています。そのため、舞台の真下はまるで大きな工場のように巨大な歯車などがたくさんあります。

今は舞台を動かす動力は電気ですが、昔は舞台の下に潜り込んだ人が、回り舞台に取りつけられた取っ手を数人で押して回転させていました。

当時大流行の歌舞伎は、浮世絵のテーマにもたくさん使われました。なぜ、ここまで江戸時代に歌舞伎がブレークしていたかついては、また明日に。



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