見出し画像

「クリストファー・ノーラン」

この人には「天才」という言葉がとても似合います。頭の中がどうなってるのか覗いてみたいと思う人がたくさんいるのではないでしょうか。


彼の作品は、緻密に計算された複雑でたくさんの事情が組み込まれていて、どの作品を観ても引き込まれてしまいます。一見難しく感じる内容なのに、話の内容はだいたいわかるようになっていて、どなたでも楽しめる作品になっているのも魅力、またそれも「天才」と言われる所以でもあると思います。


「バットマン」シリーズや、たくさんのSF作品が有名かつアカデミー賞などの様々な賞を受賞していたり、もちろんしっかり結果も残している方です。

画像1



私がこの人の作品に初めて触れたのは、「インセプション」でした。


当時の私にとってはそれはそれはとても衝撃的な映像やストーリーでした。

夢の中で起こる戦い、、夢の中なのか、現実なのか、何層の夢にいるのか、終盤まんまと見失うところでした。

映像だけでもかなり見応えのある作品になっているのに、ストーリーも斬新で「天才」と言わざるを得ませんでした。

あらすじとしては、

他人の夢からアイデアを盗み出す企業スパイ・コブは、その才能から国際指名手配を受け、さらに妻の殺害容疑もかけられていた。そんなある日、サイトーと名乗る男が、彼に風変わりな依頼を持ちかける。それは、コブが得意とするアイデアの盗み出しではなく、ターゲットの潜在意識にアイデアを植えつける「インセプション」というものだった。コブは任務の危険性を理解しながらも、それが最後の仕事と引き受け、屈指のスペシャリストたちと共に夢への潜入を図る。というものです。


この映画『インセプション』では、夢の世界は多層構造になっています。

第一階層の夢の世界で夢を見ると第二階層へ、第二階層の夢の世界で夢を見ると第三階層へ。深い階層になるほど時間の経過が遅くなります。夢から覚めさせるには、夢の中で死亡するか、「キック」と呼ばれる手法が採られています。

ターゲットの夢の中に潜入することで、エクストラクション[情報を抜き取ること]、インセプション[情報を植えつけること]が可能になります。ターゲット側も訓練を受けることで、潜在意識を武装化させて、侵入者たちを排除することができるという設定になっています。

キックについてですが、

熟睡状態でも人間の三半規管は機能しているので、平衡感覚を崩すことで強制的に眠りから覚ますことができます。たとえば、椅子を倒す、橋からジャンプする、水を張ったバスタブに落下するなどが実際に劇中の場面であります。

というように設定が多い映画になっていて設定さえおさえておけばスムーズに内容を理解できると思います。

一回観て理解するのが難しい方は何回か観てみるとより面白くなっていくと思います。



そして、「クリストファー・ノーラン」といえば 全世界で3億6,300万ドルの興行収入を記録し、2020年の第5位の興行収入を記録した「TENET テネット」が記憶に新しいと思います。


この映画は、「クリストファー・ノーラン」監督の集大成であるように思いました。

この映画を語る上で、過去の作品の説明が欠かせないと思います。

画像2


まずは、「メメント」

この映画は、「クリストファー・ノーラン」監督の長編映画第2作ですが、商業用映画として取り組んだ初めての作品と言っていいと思います。

あらすじとしては、

妻が強姦の末に殺され、その光景を目にしたショックの後遺症で10分以上の記憶を保持できなくなった男。彼はその後も事件の調査を続ける。得た手がかりを忘れぬように自身の身体に彫り込みながら、彼は執念深く犯人に迫っていく。という感じです。


しかし、トリッキーすぎる内容から“難解映画”と称されることもあります。

撮影監督には、特殊効果アーティストでもある才人マーク・ヴァーゴに白羽の矢が立ちました。しかし彼はスクリプトを読んでも内容がさっぱり分からなかったため、オファーを断ります。代わって撮影監督となったのが、マーク・ヴァーゴのカメラ・オペレーターとして働いていたウォーリー・フィスター。彼はこの作品をきっかけにして以降のノーラン作品の撮影監督を務めることになります。実はウォーリー・フィスターも、「話が全く理解できなかった」と後年告白しています。


この映画の特徴として、時系列が逆向きに進行する「カラーパート」と、時系列がそのまま進行する「モノクロパート」に分かれているというところです。「カラーパート」と「モノクロパート」は順番に繋がっており、ある時点になるとそれが交わる、というトリッキーな物語構造になっています。


「クリストファー・ノーラン」監督は「時制が逆向きに進行していく」という、世にも複雑怪奇なシナリオを創り上げました。

画像3


次に、「ダンケルク」

まずあらすじが、

1940年、第2次世界大戦下のフランス北端の街ダンケルク。イギリスとフランスの連合軍40万人が、ドイツ軍に追い詰められる。やがて、英仏側は民間船の協力のもと決死の大救出作戦を決行。若き兵士たちが生存をかけて戦う。というものです。


この作品は、「インセプション」同様とにかく映像が凄いです。

事前情報でよく言われていましたが、本作はCGを極力使っていません。現地の砂浜で撮影し、本物の戦闘機「スピットファイア」を飛ばし、当時の駆逐艦までも海上に浮かべるという徹底ぶりです。そのうえ、IMAX撮影です。IMAXカメラなんてかなりデカイのに、それを戦闘機に乗っけて飛ばそうという発想がどうかしてます。案の定、高価なIMAXカメラをトラブルで海に沈めちゃったらしいですが。


今のご時世、なんでもかんでもCGの時代です。私たちが何気なく観ているリアル寄りな世界観の映画でも、建物・人物・爆発に至るまでCGで表現されているものが多くて、メイキングを見るとびっくりすることも多々あります。


そしてこの映画の特徴ですが、

「1:陸」「2:海」「3:空」の3つの物語が同時に進行していきます。


3つの物語が同時進行と言いましたが、3つの物語は時間の幅が異なります。それが同時に進行するので、陸の直後に海の描写になった場合、それは別の時間軸を表しています。

それぞれ、

陸は1週間、海は1日、空は1時間

時間の長さが異なる3つの物語がオープニングからクロスカッティング(異なる場所で同時に起きている2つ以上のシーンについて、それぞれのショットを交互に繋ぐことにより、臨場感や緊張感などの演出効果をもたらす映画のモンタージュ手法である。並行モンタージュともいう。)で進行し、クライマックス、1つの物語になります。



以上が「TENET」を語る上で必要になってくる作品たちです。



妻殺しの犯人を追う記憶障害の男を主人公に、ストーリーが終わりから始まりへと逆行していく『メメント』(2000)。

深い階層になるほど時間の歩みが遅くなる夢の世界に潜り込んで、潜在意識から情報を植え付けようとする産業スパイを描く『インセプション』(2010)。

陸(1週間)・海(1日)・空(1時間)のそれぞれの出来事を同時並行させながら、第二次世界大戦のダンケルク救出作戦の実話を映画化した『ダンケルク』(2017)。


これを全て一つにしていると言っても過言ではないので、やはり多少難解な作品になっています。

何回も観ることで面白くなり、理解が深まっていきます。

これまでのフィルモグラフィーで、「クリストファー・ノーラン」監督はトリッキーかつアクロバティックに“時間”を操ってきた。

「クリストファー・ノーラン」監督がインタビューでこのように語っています。

時間とは常に付き合って生きてきたから、やはりテーマとして興味を掻き立てられるんだ。そして長年映画作りをしてきた中で、“映画を見る”というプロセスとその構造や、映画の中の時間の流れについてあれこれ考えてきた。なので、私たちが生活の中で感じる時間と、映画館の中で映画を見ながら感じる時間との対比や関係性を掘り下げる物語づくりが面白そうと昔から思っていた。


画像4


そして、その結果として「時間が順行する世界」と「逆行する世界」が同時並行で描かれる「TENET」という作品が生まれました。


このワードを見ただけでは、どういうこと?ってなりますよね笑。


この作品も「インセプション」のように設定があります。それを抑えれば超難解映画ではありますが、面白くなってくると思います。


「時間の概念を超える際の4つのルール」

ルール1:検証窓から、逆行(順行)する自身を確認しながら入室しなければならない。自分の姿が確認できずに入ると、回転ドアから出られなくなる。

ルール2:逆行する世界では、外気を肺に取り込めないため、酸素ボンベが必要。

ルール3:逆行する世界では、もう一人存在する自分と直に接触してはならない。防御スーツを着用せずに触れると粒子の対消滅が起きる。

ルール4:逆行する世界では、高温のものが冷たく、低温のものは熱い。炎は氷に変化する。


フリーポートの向かい合った部屋は、赤→順行、青→逆行に配色されていて、どちらのエントロピーが作動しているかが分かりやすく表現されています。


ちなみに、あらすじとしては、

ウクライナ・キエフのオペラハウスにてテロ事件が発生した。特殊部隊に偽装して突入したCIA工作員の男は、ロシア人たちに捕らえらてしまうが、やがて今回のテロと対処任務そのものがテストだったことが明かされる。そして彼に課された使命は、時間移動が可能になった未来の世界から来た敵と闘い、第三次世界大戦の勃発を防ぐことだった。ミッションのキーワードは「TENET」。その言葉の使い方が、未来に大きく影響する。そして相棒を得たその男は、かつてない時間軸を舞台とした闘いに身を投じる。

という感じです。



「インセプション」や「ダンケルク」同様、映像も、すごいことになってます。どうやってこれ撮ってるの?って絶対に何回も考えてしまうと思います。それぐらい通常では理解し難い現象が映画の中で起きています。なおかつ複雑化された設定とストーリー数回観てやっとちゃんと全て理解できるんじゃないかと思います。


ただ、一回観ればなんとなくはわかるようになっていてそれも凄いところです。


過去の記事でも書いている部分もあると思いますが、やはり細部へのこだわりがすごいです。気づくこともなく終わる人がほとんどなのではないでしょうか、私自身も見終わった後に調べて知ったことがたくさんあります。


そもそも“TENET(テネット)”とは何なのか?意味としては「主義、信条、原則」を表す単語ですが、映画では「名もなき男が人類を滅亡から救うために、過去と未来から“挟み撃ち”する」という壮大な作戦のコードネームとして使われています。実はタイトルの「TENET」自体が、前からも後ろからも読める回文になっていて、順行と逆行の挟み撃ちを示唆しています。

またフリーポートのコンテナ群にある金の貨物には、意味ありげに「N」の文字が刻まれていました。Nを中心に、T(=The Protagonist、主人公の名もなき男)とE(Enemy=敵)が過去と未来で戦う物語=TENETという解釈もあります。

さらに「TENET」というタイトルには、約1世紀中頃に発見されたラテン語の回文「SATOR式」との関連性も認められます。「SATOR AREPO TENET OPERA ROTAS」(農夫のアレポ氏は馬鋤きを曳いて仕事をする)という長大な回文の中央に、上下左右どこから読んでも回文となる「TENET」の文字が配置されています。

しかもこの「SATOR式」、構成されている5つの単語全てが映画の内容に関係しています。

SATOR(セイター=ケネス・ブラナー演じるアンドレイ・セイターの名前)
AREPO(アレポ=ゴヤの贋作を制作したトマス・アレポの名前)
TENET(テネット=映画のタイトル、作戦のコードネーム)
OPERA(オペラ=序幕のシーンの舞台がキエフのオペラハウス)
ROTUS(ロータス=フリーポートの入り口に書かれていた企業の名前)

それだけではなく、かつてフェリックス・グロッサーという人物が、5つの単語は「PATER NOSTER」(我らが父)というアナグラムになることを発見しました。Nを中心にしてこの言葉を十字型に配置し、余ったAとOを四隅に並べる、という新しい解釈を提示しました。


ギリシャ文字において最初の文字はA(alpha)、最後はO(omega)。これを「世界の始まりと終わり」と解釈するならば、『TENET テネット』のストーリーにも完全に合致します。そこまで計算していたとするなら、「クリストファー・ノーラン」監督は本当に恐ろしいです。


この映画のマクガフィン(物語の目的となるアイテム)、それがエントロピーを自由に操ることができるという、物理的形態を持つ“ある手順”がアルゴリズムです。人類滅亡をもたらすほどのパワーを秘めており、これを生み出した科学者は自殺。未来の人類は危険を回避するために、アルゴリズムを9つに分割して過去に封印しました。


9つの地域に分割されたパンドラの箱、それはまるで、核兵器をアメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国(以上5カ国がNPT批准国)、インド、パキスタン、北朝鮮(以上3カ国がNPT非批准国)、イスラエル(核保有が確実視されている)の計9カ国で保有していることのメタファーのようです。

この映画には核物質のプルトニウム241というキーワードが出現しますし、「地図に載っていないソ連の核実験都市スタルクス12で、爆発事故があった」という設定はチェルノブイリ原子力発電所事故を思い起こさせます。『TENET テネット』は、人類に無限の可能性をもたらすと同時に、破滅をもたらす存在でもある“原子力”をテーマにしているのかもしれません。「その言葉の使い方次第で、未来が決まる」と告げられるシーンの真の意味は、「原子力の使い方次第で、未来が決まる」ということではないでしょうか。

そう考えると、合言葉として象徴的に使われる「We live in a twilight world(黄昏に生きる)」も、「黄昏は昼間と夜の中間点にある」を発展させて、「世界は存続と滅亡の中間点にある」という隠喩のように思えてきます。確かにセーブ・ザ・ワールドのミッションにあたって、これほどうってつけの合言葉はないと思います。

「ポン・ジュノ」監督の『パラサイト』や、「ジョーダン・ピール」監督の『アス』が格差社会から生じる分断を描いたように、「クリストファー・ノーラン」監督もまた「分断から生じる世界の混乱」をモチーフにしているのではないでしょうか。


また「美しき友情の終わりだ」というニールの最後の言葉は、明らかに名作『カサブランカ』ラストシーンの「美しき友情の始まりだ」という名台詞をサンプリングしたものだと思います。


「クリストファー・ノーラン」監督本人が、

この物語のコンセプトは時間の概念であり、私たちが時間をどう体験するかを描いている。それを、サイエンスフィクションとスパイジャンルの要素を交えて紡ぎ上げている。

と語っています。

これまで「クリストファー・ノーラン」監督は、映画の製作が始まる前にキャストとクルーを集めて、インスピレーションとなった映画を上映する習わしがあったと言います。しかし、『TENET テネット』ではその慣例が行われなかったそうです。もはや本作は、他のどの作品にも似通っていない、オンリー・ワンかつジャンルレスなオリジナリティーを誇っています。

これまでの作品でも時間操作に心血を注ぎ込み、「007」シリーズの熱狂的ファンとして知られる彼にとって、本作はまさに総決算的作品です。テネットが「主義」という意味からしても、ノーラン主義を突き詰めた一作ではないでしょうか。



この簡単には伝わらない部分も含めて、細部へのこだわりを突き詰めた作品を作り続ける映画監督。

それが、「クリストファー・ノーラン」なのだと思います。













この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?