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駅前の消火栓の看板。
ここには僕のお気に入りのラーメン屋の看板が入っていた。
自炊をする自分のご褒美として週末に必ず通っていたラーメン屋。
通うごとにメンマが増えたり卵一つ多く乗っていたりと、
寡黙な大将が常連たちへのサービスとして、小さいけれど幸せなトッピングをしてくれる、愛されるこじんまりとしたラーメン屋だった。

そのラーメン屋の看板がなくなってしまった。
空を切り取るだけの枠はそこにあったはずの「モノ」が無くなったことを強調し、そして看板の存在を知らなかった人にとってはなんの変哲もないただの「枠」としてそこに存在し続ける。

今ではその大将のラーメンを食べることは叶わないが、この看板の入っていない枠を見ると、ふと鼻腔の奥に通いなれたあの店の香りがしてくるのだ。
無機質に空を切り取る枠の中に、確かに存在していた血の通う暖かなお店の看板に思いを馳せている。

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