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『ソラナム~オルピと紫夢の召喚士~』第一話 【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】

〈あらすじ〉
エルフたちが"マナ"の力と『サモン』を使って暮らす世界アルケティス。好奇心旺盛な少年オルピは、友人たちと平和に日々を過ごしていたが、ある日の行動が世界を一変させる。彼に託された使命、エルフの学校に隠された謎、紫夢(しむ)の召喚士の存在。様々な事柄が複雑に絡み合い、オルピは大きな運命の波に飲み込まれていく。この物語は、一人の少年が愛する家族、かけがえのない仲間、そしてサモンの大いなる力を得て、自らの運命を切り開いていく冒険譚。太古より続く平和な世界を守るため、"闘いを無くすための戦い"が今、始まる。


〈主要キャラクター〉
オルピ:主人公。ポース族の少年エルフ。好奇心旺盛でやんちゃ。並外れた勇気の持ち主。

レイス:オルピの幼馴染。女性エルフ。責任感が強く頭脳明晰。オルピにとって友人兼お姉さん的存在。

キッパ:オルピの幼馴染。臆病だが友情に厚い。オルピに慎重さをもたらす重要な存在。

ジェダ:優秀で大人びており頭脳明晰でお兄さん的存在。少し傲慢だが仲間思い。

ジャール:ガキ大将のような存在。オルピとよく絡むが敵対関係ではない。頭脳より行動派。

オルガ:オルピの父。ポース族5賢者のポリティカ代表の右腕。元「ナチュラ―」所属。

ラルピ:オルピの母。引退した元「ヒーラ」の中心人物。

ベルダス:オルピ達の担任。頼もしい体格の先生。オルガの元同僚。


第一話

シーン 0

ここは、エルフたちが仲良く暮らす世界アルケティス。晴れ渡る空、輝く川、美しい山々に囲まれたこの王国は、別名“エデン”と呼ばれています。太古より、エルフたちはそれぞれの身に宿る『サモン』を召喚し、生活を発展させてきました。エルフは自らの“マナ”を使い、それぞれの属性に応じたシンボルカラーを纏ったサモンを召喚し、仕事を行ってきました。

シーン 1

●エルフの里・昼

橙=フーダ。食を司るサモン。エルフが指示し、サモンが農業を手伝っている場面。田植えの中で、水路の確保を精霊が行っている。

 村人A「今だ!流してくれー」

青=ビルダ。建設を司るサモン。エルフが指示し、大きな家の部品を荷揚げしている。

 村人B「気を付けて上げてくれよー」

白=ヒーラ。医療を司るサモン。エルフが傍にいて、小さなサモンが病院で子供のエルフを治療している。

 村人C「大丈夫よ、痛いのはすぐに治るからね」

黄=トラフィカ。交通を司るサモン。エルフが運転席にいて、植物の籠のような見た目の乗り物をサモンが運んでいる。

 村人D「もうすぐ次の駅だぞー」

緑=ナチュラ。自然を司るサモン。エルフの指示でサモンが木をカットしている。

 村人E「あと2本カットで頼む」

桃=ティーチャ。教育を司るサモン。学校で先生が教えている様子。精霊が傍でアシスタント的に動いている。

 先生F「ちゃんと宿題やったかー」

●エルフの学校・昼

サモンの発現には、エルフの学校『スコーリア』に通い、古より定められた教育を受け、卒業時に召喚の儀を行う必要があります。エルフの子供たちは必ずその学校に通い、それぞれに適した力を身につけていくことが求められています。

シーン 2

●オルピ自宅・朝

 ラルピ「オルピ!早くしないと遅刻するわよ!今日は学期末でしょ!?」

オルピの自宅内。テーブルの上には色々な種類の食事が用意されている。テーブル中央には野菜のバスケットがあり、目立つ位置にナスビが置かれている。

 オルピ「大丈夫!準備なんてすぐだから!」と2階から降りてくるなり席に着き、ドタバタと食事をする。

 ラルピ「もう!いつもゆっくり食べなさいって言ってるのに!あと、野菜もしっかり食べるのよ!」と台所からオルピに向かって声をかける。

パンを片手に、入口から飛び出していくオルピ。同時にテーブルの上には、皿の上に野菜が3切れほど残っている。

 オルピ「母さん、わかってるって!ほらもう終わりー!行ってきまーす!!」

ラルピがため息交じりに呆れている。

 ラルピ「またあの子ったら、ナスビだけ残して。いつになったら食べられるのかしら。」と呟く。

 オルガ「一体誰の好みに似たのかな?」と、いたずらっぽく話す。

 ラルピ「あなたったら!わかっているくせに!!」

 オルガ「すまんすまん。あいつはしっかり俺の子だ。」

シーン 3

●通学路の空・朝

街並みを見下ろし、空を飛びながら学校に向かうレイスにオルピが追いつく。

 オルピ「おはよーレイス!」

 レイス「あら、今日はまだ飛べてるじゃない。いつもはもう歩いてるのにね。」と意地悪そうな笑みを浮かべる。

 オルピ「僕だって飛べる時間が増えてるんだからね!」

 レイス「よく言うわ、あなたのマナはまだ私の半分くらいじゃない。」

 オルピ「ぐぬぬ、、、そのうち絶対抜いてやるからなー」

オルピは言い返すが、レイスはスピードを上げて学校に向かう。

 レイス「フフン、ついてきてごらんなさい!」

 オルピ「待てーーーー」

シーン 4

●スコーリア・朝

樹木に覆われたような不思議な教室。20名程度のエルフがおり、空中に浮かぶ椅子や机、また黒板のようなものには謎の文字がランダムに描かれている。エルフの子供たちが思い思いに過ごしている中、オルピとレイスが登校する。そこに太った体型のエルフ、ジャールが話しかけてくる。

 ジャール「オルピ!今日は遅れてねーじゃねーか」

 オルピ「おー、余裕よゆう!」

意気揚々と席に向かうが、足が小刻みに震えている。それを見てレイスが呆れ気味に話す。

 レイス「フフ、最後無理してたのがバレバレよ」

ジャールも笑いながらオルピのお尻を叩く。オルピも意地になるような形で返す。

 ジャール「なんだ、お前プルプルじゃねーか。」

 オルピ「そんなことないやい!!余裕ったら余裕なの!」

教室に担任のベルダスが入ってくる。みんな慌てて浮遊する椅子に座り始める。

 ベルダス「みんな揃っているかー!今日は学期末なのでマナ・メジャーを行うぞ!」

エルフの生徒たちは、それぞれ驚きと聞いてないよというような表情。自信がありそうな者もいる。

 ジャール「今度こそ俺が勝つからなー」

 オルピ「ジャールこそ、びっくりするなよー!」

2人が目を見合わせて張り合っている中、後ろのほうの席から余裕そうに腕を組んでジェダが話す。

 ジェダ「フッ、低レベルの争いは見ものだな」

 オルピ&ジャール「なにぃーー」

オルピとジャールは同時に振り向いて起り気味に言うが、間からキッパが小さな声で声を掛ける。

 キッパ「みんなそろそろ行かないと、、」

レイスが二人の背中を押して、教室を出ていく。

 レイス「はいはい、おバカさんたち、さっさと向かうわよ」

シーン 5

●マナ・ディメンズ前・昼

とても大きな木(マナ・ディメンズ)の根本の入り口が大きく開いている。中から光が漏れていて、入口の上には草木で作られた電光掲示板(マナ・クリプト)のようなものがある。入口付近でベルダスが集まったエルフたちに声をかける。

 ベルダス「ではいつも通り、順番に行くぞー」

一人目から樹木の中のスペースに入り、自分の手を両肩にクロスさせ、目を閉じる。準備ができているのを確認してベルダスも手元の位置にある気の芽を握り唱える。

 ベルダス「アストラ・キュルム・マナ」

ベルダスが唱えた後、風が揺らす葉のざわめきが大きくなり、やがて樹木の葉の色が黄色に変わっていく。そしてクリプトの枝葉により1200という数値が示される。

 ジャール「おー、ケルのやつ前より200も上がってる」

 ジェダ「やはりあいつは、交通(トラフィカ)一直線だな」

 レイス「ケルのお父さんはトラフィカのお偉いさんだから当然よね」

ベルダスが続けて指示する。

 ベルダス「次、キッパ!!」

 レイス「キッパは確か前回桃(ティーチャ)の1600だったよね」

 オルピ「そうそう!キッパは途中で橙(フーダ)から変わったんだよ!」

全員が注目して見ている中、また葉の色とクリプトが変化していく。ベルダスに声をかけられキッパは照れ臭そうに答える。

 ベルダス「桃(ティーチャ)の2000!良く頑張ってるな!」

 キッパ「ありがとうございます」

 ジャール、レイス、ジェダの順に次々にマナメジャーを終える様子。

 ベルダス「橙(フーダ)の2000!」

 ジャール「まじかぁ!!100しか上がってないー」

 ベルダス「白(ヒーラ)の2800!」

 周囲「すごいな、、、」

 レイス「うん、まあこんなもんね」

 ベルダス「青(ビルダ)の3000」

 周囲「やばー!3000超えてる!」

 オルピ「マジかぁ!ぐぬぬぬ!」

 ジェダ「フッ、本当は前回超える予定だったんだがな」

最後にオルピが呼ばれる。周囲は冷やかしながら様子を見守っている。

 ベルダス「最後、オルピの番だぞー」

 ジャール「お前、前より下がってんじゃねーだろな」

 オルピ「ふーんだ!僕のマナ見てビックリするなよー!」

オルピは自信満々に進んで行き、他エルフ同様、マナ・ディメンズに入る。同様にベルダスが呪文を唱えると、なぜか急に周囲の風がやみ、葉や枝の動きが止まる。そして辺りが少し暗くなっていく。マナ・ディメンズの葉は徐々に紫色に染まり、クリプトの表示は謎の動きを続ける。オルピは中で目を閉じたままで何が起きているかわかっていない。

 ベルダス「こ、これは、、、」

 レイス「何なのこの色?」

 ジェダ「見たことないぞ、こんな色」

 ジャール「あいつ大丈夫なのかよ!?オルピ―!!」

 キッパ「....僕怖いよ、、」

マナ・ディメンズの変化に周囲は驚き戸惑っているが、オルピは眠ったように同じ姿勢で動かない。

 オルピ(あれ、、、今日、なんか長いな、、みんなの姿もあまりよく見えないし)

ぼんやりと霞んだ姿で、外の様子が見える。次の瞬間、頭の中ではっきりとした言葉が鳴り響く。

 謎の声「ベルゼモント・ボルピ」

 オルピ「(なんだ、、この声?)」

オルピが混乱する最中、ベルダスがオルピの手を取りマナ・ディメンズから引っ張りだす。

 ベルダス「オルピ!大丈夫か!?しっかりしろ!」

 ジャール「なにしてんだよ!お前、早く起きろよ!」

それぞれ心配そうにオルピを覗き込む中、ゆっくりと目を開けて、皆に囲まれていることに気づく。

 オルピ「あれ?みんな、、、僕はどうして、、」

 レイス「あー、もう!!心配したんだからね!」

 キッパ「グスっ、、良かった、、」

皆が心配しているのを理解したようでしていないオルピ。

 オルピ「なんか色々覚えてなくて。それで僕のマナはどうだったの?」

 ジャール「お前、、、覚えて、、、」

会話を遮るようにベルダスが挟む。

 ベルダス「今日のマナ・メジャーはこれで終了!特別にこのまま帰宅して良しとする。その代わり明日みんな学校に来るように!!」

 オルピ「僕なんかやっちゃったの??」

 レイス「あなた無事なだけで良かったと思いなさいよ!今日はみんなおとなしく帰りましょう。」

 ジェダ「そうだな、今日はそのほうがいい。」

 オルピ「うん、、、みんななんかゴメン、、、」

シーン 6

●帰り道~オルピ自宅・昼

それぞれ学校から家に帰っていく。オルピが一人で歩いてトボトボと家に入っていく。帰宅すると、ラルピが慌てて声をかけてくる。心配そうにオルピの身体を確認するように触る。

 オルピ「ただいま、、、」

 ラルピ「オルピ!!あなた大丈夫なの!?先生から連絡があって、パパも今学校よ!」

 オルピ「そうなんだ、、、僕は何ともないけど、みんなが言うにはマナ・メジャー中に木が紫に、、それで、、」

説明を聞くやいなや、ラルピは杖を取り出し、オルピを座らせる。オルピもその勢いに押され素直に言うことを聞いて座る。

 ラルピ「とにかく、あなたちょっとこっちに来て座りなさい!」

 オルピ「はい、、、」

ラルピは杖を持ち、唱え始め、8時の方向に杖を振る。

 ラルピ「グノーテ・サウト・ルゴル。(汝、我の8(ルゴル)を司る者。)キュルム・ディクトス!(キュルムの名においてここにその力を示せ)」

唱えると同時に、光る魔法陣のようなものから精霊が現れる。特徴ある文字で精霊の前に名前が描かれる。

 ラルピのサモン「Sanator et mens(サナトル・エト・メンス)」

 ラルピ「サナトル、久しぶりね」

 サナトル「お久しぶりです。ラルピ様。今日はどうされたのですか?」

 ラルピ「息子のマナを見て欲しいの。」

オルピは精霊を見上げている。久しぶりに見る母のサモンの美しさに見とれている。

 サナトル「かしこまりました。ご子息のマナをスペクトします。」

 ラルピ「あなたにしか出来ないことなの。よろしくね」

 サナトル「任せてください。では始めます。スペクトラル・スキャン!」

精霊が両手をオルピの頭に当て、その手から光が放たれる。ラルピは心配そうにその様子を見ている。サナトルは段々と汗をかいたような不穏な様子になる。朝からの光景などがオルピの頭の中とサナトルとでリンクしていく。ふいにサナトルが見る映像に赤い柱が一瞬姿を現した所で映像が途切れる。

 サナトル「ハァ、ハァ、、」

 ラルピ「サナトル、大丈夫??どうだったの?」

心配そうにサナトルとオルピの様子を見るラルピ。

 サナトル「ラルピ様申し訳ありません。オルピ様のマナは特に変化はありませんでした。しかし、、、」

 ラルピ「しかし、何!!??」

 サナトル「途中から見えなくなりました。傷ついていないはずのマナですが色と大きさが見えないのです。」

ラルピは驚きを隠せないが、平静を装うとしている。

 ラルピ「そんなこと、、、うん。そうね、、、。苦労かけたわね。助かったわ。」

 サナトル「お役に立てず申し訳ございません。ラルピ様、ご子息の様子にはくれぐれもご注意を」

 ラルピ「わかったわ。ありがとう」

ラルピがもう一度杖を逆に振るとサナトルは光と共に消えていく。オルピが心配そうにラルピを見上げる。ラルピは神妙な様子だが、不安を残すまいとする笑顔でオルピに語り掛ける。

 オルピ「母さん、僕どっかおかしい?」

 ラルピ「ううん、大丈夫よ。今日はしっかりご飯を食べて早く休みなさい。」

 オルピ「わかった。母さん、ありがとう」

シーン 7

●オルピ宅自室・夜

夜、オルピの部屋のベッドで一人過ごしている。結局オルガはまだ帰ってきていない。

 オルピ「(父さん遅いな、、何で帰ってこないんだろう、、、せっかくのマナ・メジャーだったのにな、、)」

昼の様子を残念そうに思い出しているオルピ。ふと窓の外を見ると赤い満月が目に入る。

 オルピ「(今日は“ルナ・ルブラ(赤い満月の日)”か、、待てよ、、赤い満月?)」

オルピは何かを閃いたように起き上がる。 

『満月が赤い夜にはパズファスの泉に近寄るな』
 
それは、エルフか必ず知っている教えで長年守られてきた約束だった。

 オルピ「今日のカッコ悪いの、見返せるかもしれない!!」

オルピはそっとドアに近づき、下の様子を伺う。以前オルガは帰ってきていないようだが、ラルピは静かに寝ているよう。オルピはそっと窓を開けて飛び出していく。

 オルピ「今の僕ならきっと飛んでいけるはず!みんなをビックリさせてやる!」

シーン 8

●街並みの上空・夜

オルピはパズファスの泉に向かって飛ぶ。夜の街並みは所々明かりがついている程度だが、遠くに見える学校が一番明るく光っている。

 オルピ「(こんな時間まで何してるんだろうな、、)」

不思議に思いつつも、街並みを横目に飛ぶことしばらくして徐々に人気の少ない山奥に入っていく。

 オルピ「(あれだっ!!)」

さらに加速して泉に向かう。到着したオルピの目の前には神秘的な赤色に染められた泉が広がる。

 オルピ「昼に遊びに来た時と全然違う!綺麗だなぁ、、」

赤く染まった泉に見とれていたオルピの視線の先に泉の中央で光り輝く何かが目に入る。

 オルピ「なんだあれ!?」

オルピは目を凝らしてみるが、ぼんやりと赤い光にしか見えない。頭のどこかには、エルフの教えが浮かぶが、それよりも好奇心が抑えられなくなる。

 オルピ「きっとあれが近寄れない理由かも、、、でもちょっとだけなら、、、」

目の前の光景に不思議と引き寄せられるように近づいていく。そしてもう少しで光の元までたどり着くところに来た刹那。一瞬激しい光がまばゆく光ったあとに真っ暗になり、赤い柱がだんだん何かの形に変化していく。

 オルピ「うわぁぁああああ」

恐怖で顔を歪めるオルピ、ただ全身が動かない。

 オルピ「かっ、からだが動かない」

硬直するオルピの前で徐々に悪魔の姿を現してくる。そして静かで重たい声が響いてくる。

 悪魔「うぬ、、エルフの少年よ。お前が“アクエル”なのか?」

オルピは全く意味が分からず、ただただ首を横に振る。

 悪魔「フフフ。お前が“彼の者”だとは思えぬのだがな。だがまあ良い。かつてと同じく、お前が避けるものにこの世界を書き換えてやろう。クックック」

悪魔はそう言うと、大きく手をかざし赤い月に向け、何か呪文を唱えている。

 オルピ「月が、、、落ちる」

オルピがつぶやいた瞬間、赤い月が湖全体に落ちてくる。静かなはずの湖が沸騰しているような形で沸き立つ。オルピは空中で動けないままだが、さらに悪魔が語り掛ける。

 悪魔「哀れな少年よ。お前たちの世界は夜が明けたその時から全てが変わる。そこにはお前が知る世界はどこにもない。」

オルピは必死に身体を動かそうとしているが、依然声もまともに出ない。悪魔は続けて話す。

 悪魔「無垢なる心を持つものが争う、その力を我がもとへ捧げ続けるのだ。闘い、滅ぼす力により我は復活を遂げん。」

悪魔はそう言い残し、闇の奥へ姿を消した。と同時に、オルピを縛っていた力が解け、近くの草むらへ落ちて意識を失ってしまう。そして一時を経てオルピは目が覚める。

 オルピ「いててて、、、」

シーン 9

●パズファスの泉~自宅・夜

全身に痛みを感じながら目が覚めたオルピ。目の前にはいつもの湖が広がっていた。

 オルピ「大変だ!!早く帰らないと!」

自分の家に帰ろうと、湖を後にするオルピ。だが、帰る途中に見える景色に違和感を覚える。

 オルピ「なんだ、これ、ここはどこだ?」

全ての街並みが、不気味な紫色に染まり、元々あった様々な形の建物がすべて丸みを帯びた奇妙な形に変わってしまっていた。

 オルピ「(、、昨日の出来事は本当だったのか?僕が避けているものって、、、こんなこと)」

オルピは不穏な街の様子が気になりながらも自分の家を目指したが、家の様子も同じではなかった。

 オルピ「父さーん!!母さーん!!」

家を勢いよく開けたオルピ。しかし家の中もすべて様子が変わっていた。

 オルピ「なんだよ、、、これ、、」

家の中の台所、テーブル、椅子すべて、紫色で丸みを帯びている。

 オルピ「こんなことって、、僕のせいで、、」

オルピはその場に座り込んでしまう。ふと窓の外から大きな音が聞こえ、そこに目をやると、外でエルフの子供たちが見慣れない精霊とともに争っている。

 オルピ「あれは、、何をしてるんだよ、、」

涙に霞む目で目を凝らしてみるオルピ。ただ、オルピには戦うという行為が何かわからない。

 オルピ「全部、、全部僕のせいだ、、」

昨日の後悔と共に、その場から動けなくなる。そして泣きながらつぶやく。

 オルピ「かみさま、ごめんなさい。もう絶対に約束を破らないので、元の世界に戻してください」

オルピは生まれて初めて心の底からお願いをする。ふいにオルピの目に、変化した室内の中で、以前からあった一つの木版に書かれた言葉が目に留まる。
 オルピ「キュルムの丘で祈りは超えて、、祈り、、、お祈りに行かなきゃ」

シーン 10

●自宅~キュルムの丘・夜

オルピは何かに突き動かされるように起き上がり、外に出てキュルムの丘を目指す。至るところでエルフたちが争っている様子が見える。しばらく飛ぶと丘の入り口に着く。

 オルピ「あの石碑は確かあそこに」

いつもは近寄らない丘の上の切り立ったところに、古い石碑があり辿り着いたオルピ。

 オルピ「確か、こんな風に、手を当てて」

オルピは大人たちが普段やるように左手は石像へ、右手は胸にあて、ひざまずき目をつむって祈りを捧げる。

 オルピ「かみさま、僕が世界を変えてしまいました。もう取返しがつかないことはわかっています。でも、ぼくのおとうさん、おかあさん、おともだち、僕はどうなっても良いので、みんなを返してください。」

オルピは再び、全てを捧げる気持ちで祈る。するとその刹那に辺り一面が真っ暗になり、周囲が何も見えず、音も何もしない空間になる。

 オルピ「(ああ、、僕消えちゃうんだ、、)」

次の瞬間、大きな丸い光が辺りを照らし、光の奥から声が聞こえる。

 謎の声『汝は元の世界を望むか』

オルピは目の前で起きていることがまだ理解できない。ただ、不思議な安らぎを覚えていることに自分でも意外な表情になる。

 オルピ「僕はこんなことになるなんて全く思ってなくて、ただ、皆を見返したくて湖にいて、、、それであの、、、それから、、、」

オルピは必死に今までのことを伝えようとする。謎の声は続ける。

 謎の声「太古より連なりし運命の少年よ。汝の進むべき道は2つだ。受け入れるか、抗うか。時にそれは長い旅路となるだろう。もしその身に定められた運命を受け入れるのであれば我が手を取るのだ。」

オルピは一瞬困惑したような表情になるが、やがて決意する。

 オルピ「もう僕にはこれしか希望がないんだ!」

オルピがその手を取った瞬間、再びまばゆい光が辺りを包む。そして光の奥から今度ははっきりと声が聞こえる。

謎の声「悪魔の契約は終わっていない。7つの紫宝を揃える時その者が望む姿に世界は変わるだろう。その身に宿りし力を使い、世界を取り戻すのだ。」

シーン 11

●キュルムの丘~自宅・昼

今度ははっきりとその声を聴いたオルピ。同時にふと気づくとあたりはいつもの丘の光景が広がっている。オルピはハッとなり丘を飛び立とうとするがうまく飛ぶことができない。

 オルピ「うぐ、、、、なんで、」

悔しそうに飛ぶのを諦め走って丘をくだる。やがて街並みが目の前に広がるが、改めて街を見ると、建物、景色あらゆるものがナスビの色、形に似ているものにあふれている。

 オルピ「僕の避けてるものって、、、ナスビのことか、、」

オルピはやっとその世界を形づくるものの意味を理解する。さっきまでと異なり街には誰もおらず不気味に静かだ。

 オルピ「みんなどこに行っちゃたんだよ、」

また涙が溢れそうな気持ちを抑えて家を目指すが期待とは違っていた光景だった。

 オルピ「何も変わってないよ、、、」

悲しそうにうつむくオルピ。そこにちょうど12時を知らせる鐘の音が響いてくる。オルピは自分の手を見つめ、何気なくつぶやく。

 オルピ「カリル(12時)か、、」

すると、家の中の木版の置いてある辺りから光が放たれる。オルピにはなぜか見覚えのある光。そして閃光が走ったそのあと、オルピは一つのシルエットに気づく。

 オルピ「ひょっとして、、、僕の、、?」

謎のサモン「私の名はヘーゼル・ザ・ハーティ。あなたの“12”(カリル)を司る者。全てはあなたの意のままに」

オルピはなぜか目の前で起きている驚くべきことを不思議と素直に受け入れていた。そして、つぶやく。

 オルピ「僕の名前はオルピ。君はぼくのともだちで、僕はきみのともだちだよ。」

そしてシルエットに手を伸ばし手を取り合う。

第一話 ~終~

●第二話


https://note.com/preview/nbdb02daf47d1?prev_access_key=0d00783e507bc8e9165410a990388271


●第三話

https://note.com/preview/nce03c2d44b73?prev_access_key=c0d2900094ce98f21ec16a5238bbb794

#創作大賞2024 #漫画原作部門 #少年マンガ #小説 #漫画脚本 #短編小説


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