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カルダモン

きみはぼくの背にトントンと手を触れていた。まるで眠りにつかせるみたいに。きみの頭のなかでは映画のシーンが流れていたのか、いつのまにかリズムがスパイ映画のテーマだ。ぼくにはすぐにわかった。

「きょうはどこを彷徨っていたの?」 

ぼくの背でリズムを取りながら、きみは尋ねる。きみの手は、つめたくない。

ぼくはきみに応える。

「お囃子の音が好きなんだ。夜空に連なる提灯も。
いつでもそこに帰りたいんだ。音が鳴りやんでしまう前に。」

ぼくはりんご飴のことを想う。歯を立て齧ると、ガラス細工の破片が散るようにこころが甘い。歯型のついた味のしない果実が覗く。

「連なる提灯は、空に張られた縄張りのようだね。縄張りの外に一歩出ると、お囃子の音はもう遠いんだ。余所者みたいに。」
ーそう、余所者みたいに。縄張りを解かれて、誰もが白々しく迎える朝を、ぼくは知ってる。
耳の奥で、お囃子の音が遠くに鳴る。

触れていた手が離れて、きみはどこへ向かったのか。静かに手を動かす音とラムを垂らした温かいチョコレートの香りが届く。

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