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バナナブレッド

仕事の帰り道は、ときどきコーヒーを飲みに寄ります。だいたいは週のおわりの金曜日、たまに待ちきれなくて水曜日や木曜日に足を運びます。

帰り道といっても、通勤は電車なので一度途中で下車するのです。職場の最寄りでも家の最寄りでもない駅を、降りたところに小さな店があるのです。

改札を出て階段を登り左手の道を往くと、コーヒー豆の香りとすれ違います。

「こんにちはー」
「こんにちはー」

この小さな店が鳴らす音は心地がよかったのです。聴いたことのない洋楽は、頭の中で雪のように積もる「ことば」を溶いてくれました。
シュッシュッ、ガコンガコンと大きな焙煎機、ざざぁっと溢れ出る豆、しゃかしゃかと揺すられガリッガリッと挽かれる。私の目の前にタンッと運ばれる。

「おまたせしましたー」
「どうもありがとう」


なにより大きく聞こえるひとの発する「おしゃべり」は、ここでは店に溶け込むひとつの音でした。
私は、鳴り続ける音に潜って安心してひとりになるのです。




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