株式公開買付(TOB)って何?(2/2)

結局TOBって何なんだ?

TOBとは、“Take-Over Bid”の略で「株式公開買付」と呼ばれます。その名前の通り、一方の会社が他方の会社または世間一般に対して、価格、株数、時期を指定して「この会社の株を買います」と公言することで、TOBのプロセスが始まります。

TOBは、株式の売り買いのルールなどを規定する "金融商法" で、「一定の大規模な株式の買い付けを行う場合には、価格、株数、時期を告示する」事が定められていることに加えて、相手を交渉のテーブルに乗せたり、投資家の注目を集めて株価を上げるなどのパフォーマンス的・示威的効果を意識して行われることもあります。

ちなみにTOBは、ぼくたち一般の人たちも売り買いできる一般市場ではなく、市場外で行われます。市場外とは、TOBで指定された期日に、その(買われる)会社の株をもっている株主のみが、取引できるという意味になります。

さて今回の関西さんのように、TOBはしばしばニュースや新聞に取り上げられるほどのドラマなわけですが、これらで取り上げられるもののほとんどは「敵対的TOB」と呼ばれるもので、TOBの事実が公表された時点では、買われる会社が非合意であって、その後、買う会社/買われる会社の間でさまざまな戦略的対抗やパフォーマンスが行われます。反対に、すでに両社で合意されおり、円滑に買収が行われる例は「友好的TOB」で、その処理は粛々と行われるため、(よっぽど社会的影響力の大きい会社でないかぎり、)ものすごく大きな話題になることは多くありません。

会社法では一定の持株比率で、付与・執行できる権限が定められているため、TOBを発動した会社は、目的の会社の株式の大部分を買い付けることで、その会社のコントロール権を得ます。

このようにTOBは、M&Aの手法の一つで、片方の会社が意中の会社を吸収する手段ですが、買収の場合ほかに代表的なものとしてはMBO(Management Buyout)があげられます。

これは「経営陣買収」と訳され、ある会社の役員や社員が、その会社の株を取得する事でオーナー兼を得たり、子会社設立や独立するための手法です。こちらも単に、ある事業に裁量をもたせて独立させ柔軟な経営を行う目的で行われる前向きな性格のものや、政治的抗争の末に会社が分裂する敵対的な性格のものなどが混在しています。

一緒になりたくない!そんなときはどうするの?

さて話を戻してTOBには友好的なものと、敵対的なものがあることをお話ししました。容易に想像できるように敵対的TOBの場合は、買収されたくないですよね? 

ご安心ください、これまで先人たちは様々にTOBを防ぐ手法を考えてきましたので、ご説明しますね。TOBを防ぐ手法には代表的なものが大きく3つ挙げられます。それが、「①ホワイトナイト」、「②クラウンジュエル」、「③ゴールデンパラシュート」の3つです。

①ホワイトナイト
その名前の通り、買収されたくない企業を守ってくれる騎士さまです。例えば、敵対的買収者が無理やり対象の企業の株を手に入れることはできません。必ず株主と合意をしてゆずり受ける必要があります。

なので、絶対に株を売りとばさない強力な味方に株を持ってもらい、敵対的買収から身を守る方法です。味方とは協力企業の場合もあれば、多くの場合はヘッジファンド、個人や機関などの投資家である場合が多いです。

その為、ホワイトナイトで株を持ってもらったら、逆に寝首をかかれることになりかねないため、相当近しい間柄で信頼できる関係を構築していないとホワイトナイトは成り立ちません。

逆に、すでに望まない株主によって牛耳られている会社の株を、TOBにより買い付け、適正なコントロールを復元しようとするケースもホワイトナイトと呼ばれます。

有名なところでは、東京ドームの例があります。東京ドームは国民的なシンボルであるにも関わらず、実は香港のヘッジファンドなどの外資系が筆頭株主となっていました。このファンドが東京ドームの長岡勤社長の解任を要求するなど、運営側と対立を深めていた状況に対抗して、2020年11月三井不動産がTOBを実施し、ホワイトナイトとしてコントロールを取り戻す行動をおこしました。

②クラウンジュエル
日本語に訳せば "宝石の王冠" です。その名前の通りではあるのですが、この宝石の王冠をあえて手放してしまう方法のことです。

買収を行おうとする者がTOBを仕掛けるモチベーションは、標的としている企業が持っている資産・資源です。つまり、魅力的な人材/技術/事業/サプライチェーンなどが欲しいからこそ、買収によって自社にその強力なアセットを取り込もうとするわけです。

クラウンジュエルは、この買収を行おうとする者にとって魅力的に映っている資産・資源を、TOB発動前に買収を行おうとする者以外へ売り飛ばしたり、譲ってしまうことによって、買収者のTOBに対する動機を減じて、結果としてTOBを起こさせないようにします。

しかし、容易に想像できる通りに、この方法はもろ刃の剣です。買収を行おうとする者にとって魅力的な事業は、翻せば自分たちにとっても主力・中核となっている資源・資産であり、市場で戦っていくための武器となっているはずです。

これをあえて手放してしまうので、クラウンジュエルを発動することでTOBを防げたとしても、自社の企業価値そのものを低減させてしまう危険性を持っています。なので、この方法は、十分に資源・資産を有している大きい企業や複数の主力事業(収益源)を有している企業のみがとり得る手段だといえます。

③ゴールデンパラシュート
ゴールデンパラシュートも、クラウンジュエルと似たような考え方で、"あえて自社の価値を低減さえて、TOBを行う意欲を削ぐ"、という意味では似たような考え方といえるかもしれません。

しかし、ゴールデンパラシュートの場合は、買収を行おうとするものにとって魅力的な資源・資産を逃がすのではなく、自社の役員や社員に巨額の退職金を付与し、もしその社員などが退職した場合に多くの資源が流出するように細工をします。

これは、TOBが行われた場合、多くの場合、買収された企業の役員や主導的立場の社員をクビにして、買収者による統治を浸透させる行動がとられる事を逆手に取った方法です。

ゴールデンパラシュートを意図して、過剰な退職金などの細工をした雇用契約などをあらかじめ結んでおくことによって、TOBをしたとしても(役員・主導的社員のクビを簡単に切ることができないため)買収者にとって思い通りの経営を行いにくくする、あるいはちからわざで統治を行おうとすると資源・資産が逃げ、結果として買収者にとって損を招く状態を作ることで、TOBに対するモチベーションを下げさせる効果を狙っています。

その他の方法
よく選択/実行されるTOB防衛策としては、これら3つがあげられるのですが、他にも防衛する方法はたくさんあります。

友好的な第三者に新株を発行し、買収企業が目標株式数を取得できないようにする「第三者割当増資」、通常の株よりも特別な権利・条件を持った株を発行する事で、TOBに対する絶対的な拒否権を持つ「黄金株」の発行、買収の標的となった企業が買収を行おうとする者に対して、逆にTOBを仕掛ける「パックマン・ディフェンス」、新しく株を大量に発行して買収企業の持ち株比率を結果的に下げさせ、目標の株式数を取得させないようにする「ポイズンピル」、その時の市場における株価に関わらず、決められた期間内に一定の価格で株式を売却できる権利を付与した株を発行する事で、買収を行おうとする者の思い通りの価格で買収を行えないようにする「プットオプション」など多様な方法が存在しています。

このようにTOBの実施とその防衛策は、多様性に富み、戦略性に富んでおりドラマチックで派手なので、ドラマや映画、ニュースで取り上げられるように、第三者にとっては好奇の対象ではありますが、当事者からすれば自分の運命をかけた戦いであり、やれやれという感じです。

結局、関西スーパーさんはどうなるの?

関西さんは6月に、オーケーさんからTOBを持ちかけられていたところ、8月末になって、突如関西産は、H2Oさん傘下の「イズミヤ」「阪急オアシス」との経営統合を選択します。

しかし、関西さんの既存株主たちからは、業績の良くない「イズミヤ」「阪急オアシス」との統合実施とその効果に対して疑義が呈されていました。結局、10月末の関西さんの臨時株主総会で議決を行い、出席株主の3分の2以上の賛成を経て、H2Oさんとの経営統合が決定しました(0.02%だけ3分の2を上回ったぎりぎりのラインでした。)。

これに対して、オーケーさんは、11月頭に神戸地裁へ、関西さんとH2Oさんとの経営統合の差し止めを求めて仮処分を申し立てました。実際に、関西さんの臨時株主総会での集計方法に問題があったことがわかっており、裁判所がどのような判断を下すかは予想が難しい状況となっています。仮に経営統合差し止めが認められた場合は、再度TOB合戦が繰り広げられることとなるでしょう。

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以上、TOBという聞きなれているようで、その詳細が合併などとごっちゃになってしまうような概念について、簡単に説明してきました。

関西さん、H2Oさん、オーケーさん以外にも、つい最近ではSBIさんと新生銀行さんのTOBも話題の的となっています。このように、定期的に世間を騒がせるイベントについて、みなさんの理解の手助けとなればうれしいです。

この話題はPodcastでも、配信する予定ですので、ご興味あれば聞いてやってください!
https://t.co/3g5U7ZxdFJ?amp=1


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