ベチャベチャ焼きそば

うまれてはじめて焼きそばを作ったのはあの人に、だった。

20歳 5月
今日で退職する職場へ私を迎えにきてくれたあの人。
一目みた時から「あ、わたしこの人のこと大好きになるな」そう思った。
抱えきれないサヨナラの花束を「すげえな。おつかれ」そう言って海でわたしを抱き上げくるくると回したあの人。

意地が悪くて 優柔不断で 噛みグセがすごくて
子どもがお菓子をねだるように愛情をたくさんほしがって
抱えきれない孤独を持て余して 
一生懸命家族を支えたいと思いながら誰より愛されたくて
ワガママで いつも寂しい目をした勝手なひと。

わたしと家庭環境が似ていた彼のことをわたしは放っておけなかった。
放っておけず、そして堪らなく耐えられないくらい大好きだった。

21歳 夏
「焼きそば作って」なんて言われたから暑い中スーパーへいって
彼の一人暮らしの台所ではじめて誰かの為に料理をした。
一生懸命作ったけど水加減を間違えてベチャベチャになった焼きそばを
彼は笑って「やべえ」なんて言いながらも「でも味はいける」なんて残さず食べてくれた。
その横顔を見て、わたしはこの人のこと大好きだと思った。

家族のこと 彼の孤独なおもい
たくさん話さなくても似てるから痛いくらい気持ちがわかった。
わたしは彼のために生きたいと思った。
彼が愛するもの大切にするもの一緒に大切にしていきたいと思えた。
彼の抱える荷物を一緒に背負いたい、そう思った。

それが私自身をどれだけ傷付けるか、どれだけ痛くなるか知りもせずに。

「誕生日一番にお祝いしたいから会おう」って言ったのに誕生日にはあってくれなかった。
「おそろいのもんとかお前がしたいって言ってた交換日記買いにいこ」そう言ったのに1回もコンビニやホテル以外のデートはしてくれなかった。
「お前は純粋すぎる。一緒にいてると俺まで純粋になれる」「綺麗なもんだけ見せていけるようにする」そう言ってくれたのにあなたは一番汚い世界を私にくれた。
「運命共同体な」なんて言ったのに、今あなたはいない。

痛い辛いこともあの人の隣なら綺麗なものに思えた。
遊園地とか行けなくても二人で手を繋いで歩いて行くコンビニが最高のデートだった。
今この時がすべてだと本当に思えた。
あの人に抱き締められたら大丈夫だと思えた。
夜中に呼び出されても、夜しか会ってくれなくても、私の向こう側で違う人を見つめていても、わたしはあなたの隣が良かった。
一緒に幸せになって一緒に不幸になりたかった。

だけどわたしはそんなに強くなかった。
強く強く惹かれれば惹かれるほど、関係性の脆さに気付いて。
あの人の中で強く残る他の影に深く深く傷付いて。
わたしはあなたのことが大好きだったけど、同じように強くはなれなかった。

あの人と別れてる期間、他の人が連れて行ってくれた憧れのフレンチレストラン。
感動したのに、嬉しかったのに、「わたしはあの人とこんな風に過ごしてみたかった」と思ってしまった。
「でもあの人とならフレンチレストランよりカップラーメンとかでももっと幸せでもっと美味しく感じれるな」と思ってしまった。
復縁した時それを伝えたら「ほんとに好きなやつとは高級なもんじゃなくとも幸せに感じるもんだよ」そう笑ってたよね。
「またフレンチは連れてってやるから俺とカップラーメン食べてのんきに笑ってろ」そう言ったよね。
わたし今もその約束は覚えてる。
今もその考えは変わってない。

口癖や考え方はあなたの影響が残ったまんまだよ。


あれから数年たって私達はほんとにお別れをしたっきり。
わたしは結婚をしたし、あなたもきっと他の人と幸せだよね。
でも、わたしの中でやっぱりあなたは特別で
最低最悪な人で、多分きっと世界で一番ずっとずっと大好きな人で
わたしの初恋だよ。

だから、どうか、幸せでいてね。

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