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立つ鳥跡を少しだけ濁したい20200224

 今住んでいるところを出ていくまで一か月を切った。時間の流れは早い。ついこの間「あと100日で卒業だ!」なんてうきうきとしていたらあっという間に70日も経ってしまった。こんなに時間の流れが速すぎると、その内うっかり自分の人生が終わって「はい次の人生ね、世界線用意しておいたからここ行ってね」なんて神に言われ気づいたら異世界に転生し一切の努力なんて無しに圧倒的絶対的無量大数的な力を手に入れ物理法則を無視したモンスターを倒すなりなんなりして大暴れしたあげくハーレムを築きあげ猫を大量に飼うもふもふな人生を送っていそうで怖くなる。最後の猫だけでいいから今回の人生で達成しておきたい。あと異世界転生するなら猫アレルギーだけはステータスに入れないでおくことをお願いしたい。もしもつけられたら僕は神をも討つ所存である。

 話と言うか世界線が逸れたが、本題に戻ろう。今回のテーマは「旅立ち」である。かっこいい。新天地への堂々たる出発とその期待感に加えてそこはかとなく漂う寂寥感を感じるテーマである。よく考えてみたら寂しさなんてものは常時感じており「寂しいのはお前に友達が少ないからではないか?」なんて心無い人物に言われたら「如何にも自分は引きこもりのぼっちである」と答えて草むらの陰でひとしお泣いた後に虎に変身しそいつを八つ裂きにしてから甲子園球場で阪神を応援しに行くであろうくらい寂しい。しかし今回の寂寥感はそれとは違い、今住んでいる土地を離れる寂しさである。けっして誰かに飲みに誘ってほしいだとか映画を一緒に見に行きたいとか猫カフェに連れて行って欲しいだとかではないのだ。

 「住めば都」とはよく言うものの正直今住んでいる土地がそこまで快適だと思ったことがない。やたらと降る雨、雷、雪。荒い交通マナー、時間通りに来ないバス、都会なのか田舎なのか中途半端な街並み、旅行にきた奴らをどこに連れていけばいいのか悩む微妙な観光地ラインナップ。あれ、こう書くといいところまるで無いみたいじゃないか。

 特に最悪極悪劣悪レベルの低血圧である僕と気候の変化が滅茶苦茶なこの地は正直来るべきではなかったような気しかしない組み合わせである。鬱病になって1年ダウンしていた原因の一つは間違いなくこれだろう。ここの地に住まう人々は曇り空を見上げ虚ろな目で「今日は晴れてるね」なんて言いやがる。みんながみんな眼球に青色のカラコンでも貼り付けているに違いない。

 と、まあ悪いところを延々と書き連ねることができる程には長く住んだ。たぶんまだまだ悪いところを書くことだって可能である。いや言いたいことはそうではない。長く住めば情が湧く。いいところだって見えてくる。人との繋がりも増え、場所への思い入れも深くなる。植物が土が無くては育たないように、人間だって住むところが無いと育たないのだ。いや、自分が真っ当に育ったのかと言われると微妙である。育ってないと言うよりは駄目な方向に全力で成長している気がする。ダーウィンの進化論だって人間の悪意とダメな方向の成長に関しては説明を付けることは難しいだろう。植物が光射す方向へ伸びていくのが正しい成長であるとするなら、僕がここ数年でした成長といえば光を求めずにそこら辺の土や通行人を捕食し養分とするようなものである。食虫植物も驚きである。とは言えすくすくと育ったことに変わりはない。そうなったのも日の光が射さないこの地のせいである。決して僕の人間性が終わっているからではないはずだ。

 そう、7年も過ごしたのだ。クソみたいな男子寮で過ごした二年間。肺に穴をあけ血を吐いたり鬱病で薬漬け酒付けメンヘラ女漬けになりながら過ごした一人暮らしの二年間。文句を言いつつクソ寮に戻ってきて男と同棲した二年間。ついに家をなくしてヒモ生活となったこの一年間。そんな感動的な物語が感動的な完結を感動的に迎えようとしているのだ。



 ―――――あと一か月足らずで僕は離れていく―――――。

 ―――――住み慣れたこの場所を―――――。








 ―――――なんだかそれっぽい文章になるよね―――――。

 ―――――こうやって一文だけ倒置法で書けば―――――。


 いや、我ながらひどい生活だ。よく生きてこれたなこれ。「多少盛ったでしょ?」と言いたくなるだろうか?どっちかというと文章にするとえぐい描写が増えそうなので色々とスケールダウンさせた。そのうちほとぼりが冷めたら話したい。刺されてもおかしくない。事故だらけの生活だ。当たり屋人生だ。どのタイミングで異世界転生していてもおかしくない。


 そんなひどい生活を送った土地を離れるまであと一か月も無い。寂しさを感じながら心残りの無いように過ごそう。うまいものを食べに行こう。思い出の場所を覗いてみよう。後悔なんてしている暇はない。時の流れは早いのだから。

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