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eスポーツにおける「頭を使え」という呪いの言葉

「頭を使え」というのは「脳死(何も考えず)でプレイするな」ということを伝えるために使われる。

実際、様々な対戦ゲーム(League of Legends,Overwatchなど)や、対人スポーツ(テニス,HADOなど)を経験してきた様々な場面で「頭を使ってプレイしろ」というニュアンスの言葉を何度も聞いた。

特にOverwatchを"ガチ"でプレイした時期は、その言葉に苦しめられた時期があった。

「頭を使え」という言葉は、時に猛毒になりかねない。

過去、自分がOverwatch時代に経験してきたことや、今プレイしているHADOというARスポーツで見えてきたことを元に、頭を使えという言葉の使い方について語りたい。

対戦競技における「頭を使え」とは何を指すのか

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頭を使えという言葉は「相手に勝つためにどうすればいいのかを考えながらプレイしろ」という文脈で使われることが多い。

対戦競技である以上、相手も人間である。

AIとは違う柔軟な考え方を持っているだろうし、人間ならではのミスも起こす。

RPGやアクションゲームなどは「物理で殴るのが正義」というような考えもあるが、相手が人間である以上勝つために必要になるのが「どうすれば勝てるのか」を常に考え続けることだ。

冒頭でも述べたが、自分は過去Overwatchというゲームにおいてガチで活動していた時期があった。

ここでいうガチというのは、大会等での優勝を目指すためにメンバーを固定して、固定した練習日を設け、勝利のために日々努力することを指す。

自分たちのチームメンバーは決して弱くない人たちではあったが、チームとしての結果は伸び悩んでいた。

そこで良く発言されていたのがIGL※による「どうすれば勝てるのか考えているのか」というような言葉がだった。

※In Game Leaderの略称。試合内における指示などを出す人間。

自分は一応、チームをまとめる立場の人間ではあったが、IGLは別の人間が行っていた。

Overwatchは非常にテンポの早いゲームなので、事前に作戦を決めていてもそれが思い通りにいかないケースや、リアルタイムで判断を求められるケースが多くあった。

そのため、「その場で各自が適切な判断が行えない」シーンが多いと、IGLの負担が大きくなる。

やがて「どうすれば勝てるのか考えているのか」という言葉がより暴力的な表現になっていき、チーム同士のリスペクトは消え、空気感は悪化の一途をたどっていた。

誰が悪いのかではない。相手へのリスペクトを

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ここで伝えたいのは「IGLが悪い」もしくは「何も考えてない人が悪い」のではない。

同じ目標を掲げていても、競技に対する知見や考え方、姿勢は人によって異なる。

しかし、そこで「◎◎だからこいつはダメだ」と言ってしまうと、チーム崩壊のきっかけとなる。

チームで行う競技は、メンバーがいなければそもそも試合を行うことができない。
人が減ればその競技は廃れていき、やがてだれもやらなくなる。

しかし、このような疑問が浮かぶ。

「味方の足を引っ張る人に何も言うべきではないのか?」

答えはNoだ。

ここで一つ興味深い動画を紹介したい。

アメリカで行われたTEDというプレゼンテーションの場で「同僚に敬意を持って接すると業績が上がるのはなぜか」というテーマで語られたものである。

ここで語られている内容をまとめると以下になる。

職場において「無礼な行為を受けたことがある人」に対してアンケートをした。
結果、回答者の66%はより努力をしなくなり、80%の人間はその出来事を引きずり時間を無駄にし、12%は会社を辞めた。

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また、実際に無礼な行為を受けた人ではなく、無礼な行為が行われているのを見た人への調査もしたところ、25%~45%ほどパフォーマンスが下がったという実験結果が判明した。

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さらに、言葉ではなく「無礼を連想させるキーワード(無神経、不愉快、邪魔、迷惑など)」を見ただけであっても、同様に集中力が下がった。
無礼は「ウイルス」のようなものであって、感染するものである。

上記の動画では実際に、無礼な行為が行われた医療現場で治療ミスが発生しているなどの事例についても語られているので、気になる人は見てほしい。

対戦競技である以上、相手に勝ちたいという考えは至極真っ当であり、それ自体は否定されるべきではない。

自分の考えを仲間に押し付けるのも一概に悪いとは言わない。

しかし、相手も同じ人間であり、自分と考え方も異なれば感情もあることを理解しなければならない。

つまり、大事なのは「礼儀をもって相手に接し、敬意を忘れない」ということだ。

実際、敬意をもって扱われた人はそうじゃない人と比べてより懸命に働き、組織に属し続けるようになるというデータもある。

良いチームとはリスペクト無くして生まれない。

答えの無い質問に対して「どう思う?」と聞く危険さ

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この世には答えのない質問が多く存在する。

例えば、試合に負けたとして「どうやれば勝てたと思う?」という質問があったとする。

その時、適切に回答できる人とできない人がでてくる。

当然、適切に考えていない人に対しては「ちゃんと頭を使え」というニュアンスで指摘や罵倒されることもある。

しかし、果たしてこの人は本当に「何も考えてない」のだろうか。

私の経験上、まったく何も考えずにプレイしている人は特定の競技を「ガチ」でやっている人の中では見なかった。

しかし、言語化が苦手な人や、他人の意見を尊重しすぎてしまう人たちは見てきた。

今回のような「どうすれば勝てたと思う?」という質問には答えが無い。

質問者は気軽な気持ちが発している言葉かもしれないが、そのような場ではどうしても「正解を出さないといけない」という空気が出やすい。

そうなると、自分の意見に自信が無い人は積極的に発言をせず、結果的に他者から「ちゃんと考えてプレイしてるの?」と言われてしまう。

これが繰り返された場合、回答者は常に「正解のないことに対して正解を求められる」ことになり、それがプレッシャーになる。

そのプレッシャーに耐えきれず、潰れる人も中に入る。

実際に私もその中の一人だった。

私がOverwatchで活動していたチームは、お世辞にも良い空気ではなかった。

しかし、メンバーの実力はあったし、何よりせっかく集まったメンバーなのだから大切にしたいという思いがあった。

ただ、チームをまとめる立場として、様々な人の意見をまとめながら、メンバーに対して適切なフォローを行う。

つまり「答えのない道」を歩み続けることは非常に難しいものがあった。

時には練習後にメンバーの相談やメンタルフォローに何時間も付き合ったこともあったが、それでもチームの改善に劇的につながることはなかった。

今思えば、私がやっていた行為は穴の開いているバケツに必死に水を注いでいるようなもので、やるべきことは穴を防ぐことだった。

当時のことを振り返ると、まず私がやるべきは以下のことだった。

①IGLと話し合いの場を設けて、お互いに考えていることを伝え合う
②スクリム(練習試合後)の反省会におけるルール(他人を批判しない等)を定める
③適切な進行を行い、全員がストレスなく畏怖せずに自分の意見を言えるような場を作る

しかし、当時はそれに気が付かなかった。

結果、チーム内での空気が悪くなる一方で、「〇〇が悪い」という悪者を見つける時間が増えていった。

やがて、私はチームの活動時間が近づくだけで動悸が乱れ、活動中や活動後には頭を抱える日々が続いた。

そして私はチームリーダーを降り、そう遠くない日にチームは解散した。

試合中に頭を使う、は果たして正義か

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負けた試合に対してしっかりと反省をすることは大事である。

大事ではあるが、その反省の場をどのように設けるかはしっかりと考える必要がある。

チームメンバーであっても、試合中に様々なことを考えながら試合でできる人や、そうじゃない人が存在する。

前者は試合後に「さっきの試合はこうすればよかったね」と即答しやすいだろうが、後者は動画などを見直したり、ほかのメンバーのサポートがないと中々「こうすればよかった」というのが出てこなかったりする。

後者の人が全員「試合中に様々なことを考えながらプレイできるようなれ」というつもりはない。

実際、試合中は何も考えないほうが強い人というのは私の周りにも存在する。
また口数は少ないが、たまにピンポイントで的確なことを言う人もいる。

チーム競技というのは様々な考えを持つ人が集まるからこそ、そのチーム特有の色が生まれ、それが個性となり強みとなる。

どんな人であっても、同じチームメンバーであるならば、しっかりとリスペクトをした上で接することが一番大事である。

なぜなら、あなたの発言一つでチームのモチベーションが変わるのだから。

「兵隊は何も考えない」は楽だが・・・

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「兵隊は何も考えない」というのは「ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風」という漫画でアバッキオが発したセリフです。

登場人物のアバッキオは元警察官の現マフィアという存在。

彼(厳密には彼ら)は自分のマフィアのボスのを崇拝しており、ボスの命令は絶対であると考えていた。

そんな中、ボスの命令を守るかどうかを葛藤しているシーンのセリフが以下。

ただ…ひとつ…『巨大で絶対的な者』が出す『命令』に従った時は、何もかも忘れ、安心して行動できる…(兵隊は何も考えない)
ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風 52巻より

確かに、何も考えずにとりあえず「言われたことやる」というのは楽です。

IGLがこう言うから従う、リーダーがこう言うから従う。

それ自体が悪いこととは言いません。

他人の指示に従うのは楽ではあるが、どうしても「達成感」というのは感じにくくなります。

どうすれば勝てたのか、なぜ負けたのか、あそこで◎◎すべきだったのetc

チーム競技は答えのない疑問が何度も出てきます。

しかし、だからこそその疑問に対して信頼できるメンバーたちと「どうすればよかったんだろう」って話し合うことで成長し、やがて勝てるようになるのがチーム競技の醍醐味だと思っています。

なにも堅苦しい場で話す必要はありません。

お酒片手に(未成年はダメだよ)でもいいので、今まで自分の考えを多く伝えてなかった人は伝えるようにして、それ以外の人たちはたとえそれが検討違いの意見であっても、しっかりと受け止めるというのがチームが成長する糧になると思ってます。

まとめ

今回はあくまでも自分の意見であって「いやいやそうじゃないよ」という意見もあると思います。

また、あくまでも私から見た世界であって、IGLの人やそのほかの人から見ている世界は違ったかもしれない。

ただし、他人をリスペクトすることはそのチームにおける効率を高めるという実験結果は確かに存在します。

もし、自分のチームが伸びなやんでいる、もしくは自分が悩んでいる、そんな人がこの記事を読んで何かを変えるきっかけになれば幸いです。


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