「ラジコン」って商標だったのか

 驚いた。先般購入した三省堂のコンサイスカタカナ語辞典(第五版)が面白くてこのところ愛用しているのだけれど、別の語を調べていて偶然目に入った「ラジコン」の項。

ラジコン[商(註:〇に商の字が入った表記) RADICON] 無線操縦(ラジオ‐コントロール)の(株)増田屋コーポレーションの登録商標。1955年に「ラジコンバス」を発売。 (コンサイスカタカナ語辞典 第五版)

 ラジコンって一般名詞だと思っていて、拙作の中にも無自覚に使ってしまっていた。(実は『雪町フォトグラフ』にも出てくる)

 紙の辞書はこういう風に、目的の語と全然関係のない、たまたま近くに載っていた語が目に入るという偶然が得られるメリットがありますね。わたしおそらく、ここで出会わなければ「ラジコン」という語を辞書で調べようとは思わなかっただろう。ラジコンがラジオ・コントロールの略で、無線操縦のもの全般を指す語だと思っていたし、それに何の疑問も感じていなかったから。

 しかしこれ、知ってみると「もっと知られていいのでは」と思う。「ウォークマン」がポータブルオーディオの代名詞みたいになったことや、「写ルンです」がレンズ付きフィルムの代名詞になったこと以上に、ラジコンは一般名詞化していると思う。

 もちろん、増田屋コーポレーションのサイトを見に行った。

 これは増田屋のサイトの「ラジコン」カテゴリのページ。そうだったのか。ラジコン。しかも。

増田屋コーポレーション(当時社名・増田屋齋藤貿易)は、安いコストで無線で動かせる玩具を考え、
日露戦争で通信に使われたコヒラーを応用して、世界で最初の無線操縦玩具開発し、
ラジコンというネーミングで「ラジコンバス」を4,500円で発売する。(太字は涼雨による)

 世界で最初の無線操縦玩具を開発…。世界初ではないか!増田屋そうだったのか。ぜんぜん知らなかった。増田屋に足向けて寝られない。

 そうだったのかと思って他のメーカーを見てみる。ホビーラジコン(あえてラジコンという言葉を使う。増田屋に敬意をこめて)のトップブランドであるタミヤ模型。

 タミヤは昔からRC(アールシー)という言葉を使っている。80年代のラジコンブームのときには、「RCカーグランプリ」というテレビ番組もあった。わたしはこれを、ラジコンを気取って言っている言葉、と思っていた。そうじゃなかったのだ。ラジコンという言葉は他社の商標だから、RCなのであった。

 ちなみに余談だがRCはレインフォースド・コンクリートでもあり、鉄筋コンクリートのことを指す語でもある。(建築物などでRC造とかいう表記がある)

 子ども向けラジコンをたくさん出しているCCPは。

 R/Cという表記と、ラジオコントロール、という表記が使われている。そうだったのか。しかしお店に行くと、「ラジコン」というカテゴリでこの辺のおもちゃがメーカーを問わず置いてある。ラジコンはもはや完全に商標を超越して一般名詞化しているのだ。

 どんなにデジタル辞書が便利になっても、辞書は紙のものが好きで引き比べたりしているのだけれど、やはりこういう偶然の出会いがあるとやめられない。ダイレクトに目的の語に到達せず、行きも帰りも寄り道をする。そしてそれが大きな発見や驚きをくれる。版が変わるとまた買ったり、思想の違う辞書を揃えたりするのはとても楽しい。

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