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匿名超掌編コン 参戦記

 Twitter とnote をまたいで大いに盛り上がった#匿名超掌編コンテスト。不肖わたくしもこれに参加し、178作品中10位という驚異的な結果を残した。

 今回はこれに参加した経緯から、送り込んだ作品のセルフ解説などを含めて振り返るnote を書いてみようと思う。

レギュレーション

 まずはこのコンテストのレギュレーションを。

 このコンテストは板野かもさんという個人が主催されたもので、上記のような要項で行われた。個人主催イベントではあるが、板野さんは過去にも同種のコンテストを開催されていて、練られたレギュレーションはタダゴトではない。個人開催の域をはるかに超えた運営で、しかも運営はご自身一人、さらには本人もコンテストに参加し、10作も作品を送り込むという八面六臂の活躍ぶり。驚異的では…。

参加の経緯

 レギュレーションにあるように、このイベントに参加するには板野かもさんと相互フォローになる必要がある。参加の意思表示をしてフォローすれば、おそらく過去にブロックされたりしていなければ相互フォローしてくれるのでそう高いハードルではないと思う。

 で実は、僕は以前から相互フォローになっていた。これにはちょっとした裏話があって、実はカクヨムで行われた前回の匿名短編コンテストの際に、参加してみようかな、と思ってフォローしたのです。創作アカウントであれば相互フォローしますよ、とおっしゃっていて条件をクリアしていた。でもカクヨムはアウェー感がすごくて(僕自身もカクヨムにアカウントを持っていてそれなりに作品を上げてはいるのだけれど、カクヨムの空気は全然わからないし、そもそも作風がアウトサイダーすぎて自分に異物感を覚える)、どういう空気感で参加すれば良いのか掴めなかった。それで結局参加しなかった。

 で、今回の件。これは実は企画の詳細が出る前の、板野さんのツイートが目に留まって動向に注目していた、というのがある。それはこの辺のツイート。

 これを見て、なるほどカクヨムでやっている匿名コンは集客に課題があって、人が人を呼ぶ、つまりは、主催者の一次接触で届かない範囲からも参加者が流入するようにしなければならない、という問題意識なのだな、と思ったわけです。これを読んで共感し、であれば、僕の周辺にいるいずれ劣らぬ手腕を持ったたくさんの物書きたち、普段カクヨム方面との接点の薄い人たちを流入させれば、大きくすそ野を広げることができるのではないか、と考えた。

 かくして、僕はこのようなツイートで何人かのフォロワーさんを誘った。

 その結果、ここで僕が誘った人たちがさらに別の人たちを誘って膨らみまくり、note方面からの大量流入となった。たぶん、板野さんが狙っていた「人が人を呼ぶ」を実現できたのではないかと思う。

まだ参加してない

 僕のツイートをきっかけにそこから爆発的にいろんな人が参加し、いろんな人のRTがタイムラインに流れた。りんこさんとかサラさんが呼び込んだ人たち、サラさんが呼び込んだマリナさんなどがどんどん仲間を呼び込んですごい勢いで参加者が増えて行った。

 そして、僕はその様子をニマニマしながら眺めていた。自分は参加表明をしないまま…。

 なんというか、正直な話、人が人を呼ぶドミノの最初の一つを倒したような気分で、もう満足しかけてましたね。参加しなくても参加した感を満喫していたというか。

 でもさすがに、これだけたくさんの仲良くしている人たちが流れ込んでいて、これで僕自身が何も書かないというのは「おまえなにやってんの」ってなりそうなので、ギリギリで参加表明をした。でも500字で何か書くというのがもう何も浮かばず、頭の中は真っ白け。だって500字って原稿用紙1枚ちょっとよ。そんな短いものを書ける自信はまったくなかった。参加表明はしたものの、なんも思いつかん。どうしよう。

 そして最初の〆切の数分「後」に滑り込みアウトで一つ目の作品を出した。締め切り過ぎてんじゃんね…。過ぎてたのだけど数分だったので、板野さんが「初日公開分に入れますね」と言ってくださった。それが91番の作品だったわけです。間が悪い。ここで滑り込み(アウトだけど)しなければ初回公開は90本で区切りが良かったのよ。アウトで滑り込んだのを拾ってくれたので初日公開分が91本になったのでした。

 以下、僕が投入した作品を振り返っていこうと思う。

参加作品

91: エスパー

 もはや500字で何かができる自信もなく、匿名を活かして見破られないような作品を書く余裕もなく、締め切りはもう数分後だし、どうしようもないという中でごり押したのがこれ。余裕がないからもう持ち味ど真ん中のやつになった。

 今回のルールに「試」の字を使う、というのがある。これ一文字入っていればいい、という緩いルールなのでいかようにもなる。試、試、試と考えて出てきたのがレッドブルとかモンスターエナジーの試供品。町でよく配っているやつ。あの試供品のエナジードリンクを飲んだら超能力が芽生えた、という話はどうかなと考えた。

 僕は超能力というのはあるかもしれないと思っているのだけれど、でもそんなすごい能力があったとして、人間の体はそれを使いこなせないだろう、と思う。使いこなせない超能力は迷惑でしかなくて、自らの超能力に翻弄されてしょうもないことになる人の話は書きたい。

 自分に危険が及ぶとテレポーテーションしていたエスパー魔美を思い出しながら、うんこしたらテレポーテーションしちゃう人を書いた。一気に書き終えて読み返し、爆笑した。ちょっと字数を調整して急いで出したら2分ぐらい過ぎていた。しかも誤字が残ったまま出してしまった…。

104: 口と工の邂逅

 僕は結構な人数を呼び込んだため、投稿可能枠がバイバインして大変なことになっていた。この時点で256作投稿できる権利を持っていた。さすがにそんなに枠があるのに一つしか出さないのもナンだなと思った。思ったけれど相変わらず何も思い浮ばない。仕方なく、いつもの文字をテーマにしたものを書いた。

 余談だが文字と言葉、文字と発音ということにちょっと異様なぐらい興味があって、過去にもいくつかそういう作品を書いている。ちょうど先月もそういう作品を書いていて、それは近々公開される予定だったりもする。似たようなアイデアの作品をいくつも書くのはアレだなと思いつつも、何も思いつかないのでいいや、とこれを書いた。「試」の字を眺めていたらエロが見えて、エロじゃん、となった。エロと工口は似てるな。じゃぁそういう話を書こう、と書いたのがこれ。この作品は翻訳できまい。

119: 私はだあれ

 よく小説の映像化ということが言われるけれど、小説はそもそも視覚と密接な関係のある表現形式で、文字を読むという形式である以上それはビジュアルの表現だと思う。小説は最初からビジュアライズされている。それを感じるようなものを書きたいという欲求は常日頃からある。これも今回のルールが「試」一文字であったために思いついた。その文字を含み、さらに全体としてその文字になっているというのはどうだろう。

 不思議なことに、このコンテストで作品が画像として提示されていても、おそらく誰もが(私も含め)何の迷いもなく横書きの日本語として左から右へ、上の行から下の行へ、読み進める。ところが、同じフォーマットなのにこのように空白を挟んでやるだけで、僕らはあまり考える必要もなく、文字の流れる方向を認識して読むことができる。この作品、文章はどういう順番で読まれるのだろうか。左から右へ一行ずつ読むだろうか。それとも「試」という漢字を想定して書き順に読むだろうか。はたまた、どこかの文字に目が留まり、そこから意味を成しそうな方向に進んで行くだろうか。

 様々な方向に進めるようにしたら面白いんではないかと考えた。どっちへ進むも、どこから読むも、読者の自由だ。順序が変わったら多少話が変わるかもしれない。文字が並んでいるだけなのに、その並び方がこのようになんらかの意味を持ちそうに見えると、とたんに文字は文字本来が持っている以外の意味を持ち始める。なんて面白いんだろう。

 ちなみにこの作品の原稿は以下のようになっている。

テキストエディタ上での様子

 コンテストの作品提示はカクヨムに入力したプレビュー画面のスクリーンショットになっていた。そこで、カクヨムのプレビューの文字数を数え、同じ文字数で改行するように全角スペースと■を並べて「試」の文字を作った。そこから■を他の文字に置き換えていき、必要な字数になるように言葉を当てはめていった。これはある種の詩かもしれない。

126: Gのアネッロ

 再び何も思いつかない。どうしよう。500字は難しい。ちょっと何か思いついても、書き始めるとすぐ1000字ぐらいになってしまう。そこで思いついた展開を500字にするには力量が足りなくて断念せざるを得ない。なにかないか。なにか。

 そこで思いついたのが、終わらない夢落ち。「はぁ、夢か」と目覚めたとたん、夢で見覚えのあるシーンが始まる、というやつ。無限ループものを書こう、という発想で書いたのがこれ。たまたま脳裡に「Gのレコンギスタ」が浮かんでいて、Gと言えばGキブリだなというところからこうなった。タイトルは「Gのなんちゃら」にしたい。この話はループ、円環、輪である。輪をなんかどっか耳慣れない外国語にしたらどうだろう、と調べて、イタリア語の「アネッロ」を採用した。最近女の子がよく背負っているバッグのブランド、anello。あれがまさにこのアネッロ。

130: 紅の尻

 得点的には振るわなかった作品。これも何も思いつかず、寒いなぁ、よく雪降るなぁ、と思いながらぼんやりしていたら思い出した。もう15年ぐらい前、札幌の紀伊国屋の近くの信号で信号待ちをしていたときのこと。信号が青になって、僕は慎重に足を踏み出す。だいたい冬場の横断歩道というのは凍結してツルツル、滑りやすい。だから慎重に踏み出す。すると僕の横を、かっこよくきまったオシャレな服装のおねいさんが速足で追い抜いていった。あ、危ないと思うよ、と思ったのもつかの間、おねいさんはド派手にバランスを崩して前のめりにぶっ倒れ、あられもなく大股をおっぴろげてひっくり返った。長いコートはアニメみたいに翻り、その下のロングスカートは意思を持っているみたいにまくれ上がった。そして現れる真っ赤なパンティ。

 世界がモノクロでパンツだけ真紅に切り抜かれたみたいな印象だった。あまりにも鮮烈な赤。そんな色のパンツあるんやね、と感心するほどの赤。紅に染まった尻。それが公衆の面前に晒されたのである。

 拝みそうになった。

 この作品はその出来事を脚色したもの。

141: 幸せのカタチ

 本当にもう何も思いつかん。どうしようもない。せっかく匿名だからなんか誰も涼雨だと見抜けないようなのを書きたい。しかしそんな器用さは持ち合わせていない。もっとも自分らしくないのはどういうものだろう。

「転生」というワードが浮かんだ。転生ものは書こうと思ったことがないし、書けるとも思えない。なんなら読んだことも無い。転生ものっていうけど転生ってなんだろう。なんか別の人になるのだろう。じゃぁ、今の自分が、既に何らかの別の人生から転生してきた結果だとしたらどうだろう。そうとは知らず、自分はここではないどこかへ行きたがっている。

 そうだ。なにかから逃げたくて、逃げてきた結果が今の人生だとしたらどうだ。逃げてくる前のことは何も覚えていない。逃げ出してここへ来たことを知らないまま、ここに不満を募らせ、ここではないどこかへ逃げようとする。結果、逃げてくる前の世界に戻ってしまう。

 八方塞がりな転生ループ。悪夢だ。書きたい。

 そのようにして書いたのがこれ。結局、自分からかけ離れたものとして転生を書こうとしたのに、自分が自分ではないというアイデンティティの揺らぎに持って行ったことで極めて涼雨らしい作品になった。

172: 試しに

 1月16日~21日まで6日間、毎日一つずつ書いてきたが、22日は何も出せなかった。なんも思いつかん。打ち止め。そう思った。でも最終締め切りだよと言われたらなんか惜しくなってしまって、駆け込みで最後一本、なんでもいいから書こうと思った。

 最後に書こうと思ったのは、会話だけでできているもの。二人の人物が会話しているだけ。地の文がない。そういうものを書くということだけ決めた。「試」という字をただ入れるのではなく、「試す」という意味を込めた話にしよう。とはいえ何をやろうか…。

 試しになんかする、と考えていて、弾道ミサイルに思い至った。近隣国からちょいちょい飛んでくる「飛翔体」。それだ。あれも試しに撃ってるのだろう。報告を受ける首相、という人物像が出来たとたんに、一気に会話が進んだ。ひでえことになった。

結果

 主催の板野さんが結果発表も至れり尽くせりでまとめてくださった。

 今回、もとより僕の目的は「人が人を呼ぶ」という試みに一枚噛むというもので、自分が参加表明をする前にもう達成していた。noteでもカクヨムでも万年アウトサイダーなので、最初から入賞を目指すようなつもりは無かった。ただ、今回初めて接点を持つ方も多いはずなので、そういう方の中から一人でも、作品を気に入ってくれる人が出てきたらいいな、とは思った。

 そのぐらいの感覚だったので、7作出して最高位が10位というのは望外の喜びでした。正直、そんなに気に入ってもらえると思っていなかった。自分でも気に入っている「エスパー」には「笑った」というコメントをいくつもいただいた。ああいう作品を書いてしょーもないけど笑ったという感想をもらうのは最高です。

 さらに、読む側として、感覚的に近いものを感じる作品がいくつもあって、今回初めて知った方の作品も多かった。このイベントをきっかけにそういう新たな人たちとの交流が生まれたのも嬉しい。「人が人を呼ぶ」のもつ価値。計り知れない。改めてこれだけのイベントを企画、運営された板野かもさんに感謝。ありがとうございました!

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