見出し画像

[読書日記]アサッテの人

『アサッテの人』 著者:諏訪哲氏

意味を伝えないカタカナの文字列と、普段読むことのない難しい漢字が、私に別の世界への道を歩かせる。

簡単にあらすじを紹介すると、“変わった”叔父さんを小説にしようとする話だ。叔父さんを“変わった”の一言で表すのは適切ではないし、小説にしようとすることがこの物語の軸ではないが、この本を読むきかっけぐらいになればいいと思う。
調べてみると、「群像新人文学賞」と「芥川龍之介賞」を受賞していたので、受賞作を探している人にもちょうど良いかもしれない。

この叔父さんの特徴として、幼い頃に吃音だったことと、時折、他人には意味の分からない言葉をはっすることがあげられている。
私自身、吃音ではないが、言葉が出て来ず自分の考えが上手く相手に伝えられないことはよくある。
そのため、相手に伝わらなくてもいい言葉をはっすることが非常に楽だということを実感する。そして、作中の叔父さんがそう感じているかは分からないが、このような言葉は私にとって、自分を安心させる言葉なのだ。

作中、叔父さんの妻は、彼が発する言葉がどんな意味を持つのか推測しようとしていた。
私が思うにこの行為は無謀である。なぜなら、この言葉は物の名前な意味など持ち合わせておらず、感情だと思うからだ。確かに、はっしている瞬間は、伝わる言葉にしようと思えばできるかもしれない。けれども、次にはっした同じ音の羅列は、全く違う言葉になっているはずだ。

自分だけのものを取り戻そうとする叔父さん。人間の個体数調整について考える叔父さん。
言葉以外の考えについても、私は、この叔父さんに共感する部分が多かった。

また、一番始めに書いたように、難しい言葉がたくさん使用されていると感じた。あくまでも、私にとってなので人によると思うが、それらがこの物語に入り込むのを手伝ってくれている気がする。「厭世」、「太平楽」、「韜晦」、あなたは読み方と意味が分かりますか。

吃音(きつおん)による疎外感から凡庸な言葉への嫌悪をつのらせ、孤独な風狂の末に行方をくらました若き叔父。彼にとって真に生きるとは「アサッテ」を生きることだった。世の通念から身をかわし続けた叔父の「哲学的奇行」の謎を解き明かすため、「私」は小説の筆を執るが……。
(講談社BOOK倶楽部 「アサッテの人」内容紹介より)https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000205411


【読んでよかった!】思って頂けたらサポートよろしくお願いします。