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おじさんとおばさんの再会

その日はとても暑くて
私は疲れ切っていた
出張の帰りで
たくさんの資料とお土産
そして
調子に乗って歩きすぎた足は
靴擦れを起こして赤く腫れてとても痛かった

人身事故のせいで
駅に来るのが乗る予定の新幹線のぎりぎりになってしまった
カフェでゆっくりするつもりだったが
仕方なく改札を通り
新幹線構内のカフェでサンドイッチとアイスコーヒーを買って
奥の待合室を覗いた
ちょうど席が空いたので
そこにどかどかと座り
ほっと一息した途端
何故か胸騒ぎがしたのだ

ん?今のなんだ?

たった今 中国雑技団のように
サンドイッチ
コーヒー
オシボリ
お土産
資料入りサブバック
キャリーケースを
無事 席に落ち着かせている間の一瞬で
私は何かを見たのだ

待合室は人がいっぱいで
いろんな人が荷物とお土産を抱え
スマホを見ていたり おしゃべりをしている

この胸騒ぎはなんだろう
そう思いながらとりあえずサンドイッチを食べようとした時だ
ふと目線を向けると
斜め向かいに男性が1人いた
Tシャツにスニーカー リュックを持って
スマホを凝視している
ラフすぎる格好で
靴も汚れている
その瞬間 私はサンドイッチを落としそうになった

「貴様 わたしの元カレやんけ」


口からハムが飛びだした
いかん
冷静にならねばならん
人違いかもしれない
ハムを口の中に押し込んで アイスコーヒーで流し込んだ
私はマスクをしている
相手は顔面フリーダムだ

もう一度 静かに上目遣いで見る
ああ 間違いない
元カレだ

どうしよう、いやどうもできない
こちとら
汗だくな上 前髪ぺったりで
化粧もはげちらかしてる
おまけに20年近く会ってない
どれだけ老けていると思ってるんだ

なんでここで会うのだ
なんでこんな時に

下を向いて残りのサンドイッチを食べようと頑張る
でも喉が通らない
心臓がバクバクする

全然隠れられるわけがないのに
少しだけ体を縮めてみる
何という悪あがき

彼だとしたら私の乗る新幹線よりもっと先に行く新幹線なはずだ
電光掲示板に目を向ける
私の乗る新幹線の15分前にまさにそこへ向かう新幹線がある
げ。
やっぱり彼だ

私は20年でだいぶ変わってしまった
ダメージ度で言うとぴちぴちヤングだった時を100とすると
40ぐらい
彼はまだ60ぐらいを保っている
でもあんなにお洒落さんだった人が
Tシャツスウェットの上下で靴が汚いなんて
お互い年取ったもんだな

なんかどうしようどうしようと思っているうちに
彼がすくっと立ち上がった

彼の住んでいるところへ行く新幹線が来る時間だ
私は心の中で
さようならと呟いた
そして
鏡を取り出して顔をみたら
眉毛が汗で全部とれていた



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