「鉄路の行間」No.9/岡本喜八が描いた、赤川次郎の不思議な世界
「幽霊シリーズ」の第一作『幽霊列車』は、1976年の発表。赤川次郎のデビュー作でもある。1978年には、早くも岡本喜八の手でテレビドラマ化された。鉄道がトリックに使われている作品で、ロケは秩父鉄道で行われている。
1970年代のこの鉄道は、秩父地方への観光輸送やセメントの原材料である石灰石など貨物輸送は盛んだったものの、蒸気機関車の動態保存運転(「パレオエクスプレス」)はまだ行われていなかった。
登場する電車も、現在のようなステンレスカーではなく、同社オリジナルの100形。1950年代に車体が製造された電車で、撮影時にはまだ20年ほどしか経っていなかったのだが、当時としても古びた感じは十分にかもし出されていたように思う。正面の3枚の窓のうち中央だけが大きいという、同社独特のデザインもわかる。低予算を逆手に取ったと言われる、岡本監督の凝った演出ともマッチしていた。
100形はその後、大手私鉄などからの譲渡車に置き換えられて、1988年までに全車が引退した。うち2両がごく最近まで終点の三峰口駅構内に保存されていたが、老朽化がひどく、スクラップになってしまっている。ただ、上熊谷駅近くで、二つに切断されスナックに改造されながらも、1両が辛うじて姿を留める。
ロケ地の一つには白久駅もあり、外観や改札口、ホームなどが登場。こちらは古びた木造駅舎が健在だ。また三峰口駅の西側にあった貨物積込設備跡でもロケが行われている。鉄鉱石なども運んでいた時代の名残である。