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なぜこうなった…安倍首相「全国の小中高休校」要請

 新型コロナウイルスによる感染症(COVID-19)が日本社会を揺さぶっている。
 もしかしたら、この混乱は津波被災地を除けば、東日本大震災以来ではないか。大変なことになっている。

突然のニュースに阿鼻叫喚

 今日(27日)夕方、仕事をしていたら「高校も休校だって」という声が聞こえた。
 前日に北海道知事が「全道の小中学校に」1週間程度の休校を要請し、各市町村の小中学校が順次休校に入ると伝えられたばかりだ。「え、高校も?」
 ニュースを見て、想像の斜め上を行く情報に面食らった。

「安倍首相が要請」「全国の」「小中高校を休校に」「3月2日から、春休みを前倒し」……

全国の小中高校に臨時休校を要請(27日)
https://www.asahi.com/articles/ASN2L3QJMN2LUEHF002.html #新型肺炎・コロナウイルス

 安倍晋三首相は27日、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、全国すべての小中高校と特別支援学校について、3月2日から春休みに入るまで臨時休校するよう要請した。法的根拠はないが、感染者の増加を踏まえ要請に踏み切った。
 首相は26日にスポーツ・文化イベントの今後2週間の開催自粛を要請したばかり。その翌日に、より多くの国民の日常生活に関わる前代未聞の要請が出されることになった。

 twitterのタイムラインやFacebookでは阿鼻叫喚の様相。(特に低学年の)子どもの面倒を誰が見るのか、突然の対応を迫られて仕事との調整がつかないといった親の戸惑いが切実だ。仕事を休めない親や企業へのサポートが欠如している、市町村に対応を押し付けているといった安倍政権への批判も目立った。

 この事態を、安倍政権による突然のスタンドプレーかのようにみなす意見もあろうが、私は少し違うと考えている。この判断が良いとは思えないが、ここに至るそれなりの理由はあったと見ている。
 昨日(26日)の時点で、2つの「前フリ」があった。一つが、首相による「イベントの自粛要請」、もう一つは北海道知事による「全道の小中学校休校要請」だ。それを動かしたのが「民意」だ。

批判に苛立っていた官邸

 27日の朝、つまり「休校」要請が出る前の朝日新聞デジタルにこんな記事が出た。26日のイベントの自粛要請をめぐる「方針変更」がなぜ行われたか。新型コロナウイルスへの対応をめぐる批判の高まりが影響しているというのだ。このことが次の日の「休校」要請につながっていると私はみている。

わずか1日で「方針変更」 ネット批判にいらだつ官邸:朝日新聞デジタル https://www.asahi.com/articles/ASN2V7G4LN2VUTFK021.html #新型肺炎・コロナウイルス

 わずか1日での事実上の「方針変更」。場当たり的にも映る政府対応の背景には、新型コロナウイルスへの対応をめぐり、政権への批判が高まっていることも影響しているとみられる。
 大型クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号への対応には海外メディアからの批判が集中。一部の世論調査では内閣支持率が大幅に下落した。地方自治体からも「国にはいま一歩踏み込んだ対応を」(栃木県の福田富一知事)といった不満の声が上がった。
 危機管理での失策は政権運営に大打撃となりかねない。官邸幹部は「ネットでもずいぶん批判されているが、批判するだけなら誰でもできる」といらだちを募らせていた。

そしてイベントは自粛された

 26日、安倍首相はイベントの自粛「要請」を表明した。前日に専門家会議が決めた「全国一律の自粛要請はしない」という基本方針より踏み込んだ政治判断だった。
 といっても首相が出したのはあくまで「要請」で、イベントを実施するか否かの判断は主催者に任された。曲がりなりにも民主主義の日本で、首相の鶴の一声に強制力や権限があるわけでもない。いくらお上に従って一斉に動くのが好きな日本人といえども、安倍首相にそこまでの忠誠心がある者はそう多くはなかろう。
 ところが、実際には民間も含めて様々なイベントが堰を切ったように中止を決めた。
 2月中旬までに、カメラ展示の「CP+」や「東京マラソン」が早い段階で中止・縮小を決め、他にも続々と続いていた。とはいえ、イベントを中止する影響は大きく、多くは主催者も迷っていた。
 それが「要請」で一気に動いたのは、主催者の気持ちがもともと中止に傾いていたこと、予定通り実施する場合のリスクや、中止の判断が遅れることによる社会的・金銭的リスクが日増しに高まっていたこと、中止にしないイベント(「立憲フェス」など)への批判が高まっていたこと、逆に中止にすることへの理解が得やすくなっていたことが背景にあったと私は考えている。
 ここまで不安が高まると、冷静に対処していた主催者にとっても、参加者の心情や社会的評価とイベントの意義を天秤にかけて「中止」「延期」が合理的な判断になってしまっていた。参加者に心置きなく楽しんでもらえる状態を作れないのに、今イベントを強行する意義は薄れてしまった。首相の「要請」は、主催者が決断する最後のひと押しとなったはずだ。

北海道知事の決断

 北海道では、新型コロナウイルスの感染者が続々と見つかっている。理由は概ねこの記事の見出しにある通りだろう。

新型コロナウイルス 道内感染者はなぜ多い 冬の人気観光地、接触増 検査充実、漏らさず判定:北海道新聞 どうしん電子版
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/396617

 この状況を受けて、26日、鈴木直道知事は決断した。

北海道知事、全公立小中に1週間の休校要請 27日から:朝日新聞デジタル
2020年2月26日 16時35分
https://www.asahi.com/articles/ASN2V5FT1N2VIIPE00Q.html #新型肺炎・コロナウイルス  

鈴木知事は「1、2週間が勝負と思っている。(休校の期間は)保護者の負担も考え、1週間が協力いただける一つの単位ではないかと考えた」とし、「道教委、国立感染症研究所の専門家から助言をもらい、最終的に私が7日間と決めた」と話した。

 知事が出したのはあくまで「要請」だった。しかし、夕方までには札幌市を除く道内全ても市町村で休校を決めた。
 一方、夕方になっても休校の発表をしなかった札幌では、一部に混乱が見られた。

北海道の休校要請、共働き家庭を直撃 学童保育・クラブも閉鎖 - 毎日新聞 https://mainichi.jp/articles/20200226/k00/00m/040/403000c

 札幌市教委は28日から、全302校を休校とする。市教委が公表したのは26日午後7時半と他市町村教委と比較して半日近く遅く、市内の小中学校はホームページに「夕方時点で市教委から正式な連絡がない」と掲載するなど混乱が生じた。秋元克広市長は「働く世帯への対応が必要」と話した。

 twitterを見ると、市教委からの連絡がないまま対応に迫られた一部の小中学校が、保護者に「札幌市は政令指定都市なので道の方針とは別」という趣旨の説明をしていたようである。そこで「政令指定都市など関係ない」といった批判が沸き起こった。
 「全道で休校検討」のニュースが出てから札幌市が休校を発表するまでの間、タイムラインはほぼ札幌市批判一色だった。戸惑いこそあったが、今安倍首相に対してなされているような批判はほぼ皆無だった。
 これは、今しがたtwitterで「札幌 休校」と検索し「話題のツイート」順に表示したものである。

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何があっても休まない、ブラック札幌市伝説
これで札幌だけ休校にならなかったら、札幌市教育委員会無能以外の何ものでもない。他の場所で休校にしてる意味が全くなくなる。知事の努力が水の泡。
【札幌市教育委員会電話番号】
📞011-211-3841
これ以上Twitterで言ってもバカは通じんから直接みんなで電話しよう!
学校と感染拡大。どっちが大切かしっかり考えて欲しい。何が政令都市だ笑わせんな
札幌市教育委員会に電話した。保健課の職員が出て当面休校する予定がない。理由は学校が休むと保護者の仕事に影響するからって。子供の命より仕事が大事だと思う教育委員会って凄い‼️
札幌市の小中学校はまだ札幌市教育委員会が休校を認めていません。人口の多い札幌市が休校しなくては感染拡大抑止の効果も期待できません。どうか札幌の子供達を守って下さい。
も〜〜💕💕💕克広にメールしちゃおうかな💌💌直道と足並み揃えて〜〜😘😘😘
#札幌休校
コロナウイルスで小中休校はいい判断をしたと思う。
しかし札幌では休校はしない、、、
意味がわからない
1番人口が多く、人通りも多い、一番菌が行き来する中でなぜ休校にしないのか。バカなのか?
#コロナウイルス
#北海道教育委員会
#北海道教委
札幌市内の小学校に通ううちの次女さんは、さきほど学校に連絡して自主休校させます。
未だに休校の判断をしない札幌市、アホだと思います。 どうやら感染者が出てから休校措置を取るそうで…。バカですね。きっとそのうち札幌市=第2の武漢と呼ばれるでしょう
知事から小中学校を休校にしてくださいって言われてるんだよね?
何を検討する必要があるの?
札幌は現段階では休校しないんだって!
札幌教育委員会に電話で問い合わせしたら「今後検討していく、という段階です」だそうだ。
道内で札幌が一番感染者出てるって理解出来てる?
集まる人数違うんだよ
感染したら札幌市教委のせいだからな
北海道は全小中学校が休校としていましたが、札幌市以外でした。
私は札幌なので、今日この事実を知り、愕然としました。札幌の教育委員会にも電話や、メールしました。
未だ札幌市は検討中とのことです。
しつこいくらい休学にしてほしい旨を伝えました。札幌はせいぜい参観日中止くらいでした。
笑っちゃうわ
#札幌休校  しない‥。
秋元さん無能。
足並み揃えない札幌と北海道。ここが大事な時じゃないの?
どうしてなのかな…札幌市。
感染拡大リスクが1番高いのは学校なのに、大丈夫じゃないよね。
#休校 #札幌市
北海道知事名で道内各小中学校の臨時休校対応措置を打ち出したら、なんで札幌の小中学校だけ対応違うの!?と批判されているけれど、札幌市のことは札幌市長が権限握っているので対応が違うことがある訳で…北海道と札幌市、道教委と市教委の連携の問題
なんで札幌は休校じゃないん??!
学校内で一人コロナが出たら休校じゃ遅くね??
北海道知事が休校を要請。札幌市以外は一週間の休校を決定。発症者が一番多い札幌市だけ休校しないって、なぜ?
札幌市教育長さん、理由を教えて。
#札幌市教育委員会
#新型コロナウイルス
札幌は共働きが多いから休校措置とらないとか、なんか話違うくない?休校しない理由、わたしたち親のせいにしないでほしい。親は何よりも子どもが大切です。休校になったらそれはそれでなんとかしますから。

スクロールしてもスクロールしても、休校を決断しない札幌市への容赦ない非難!!!!
そして、休校を決断したことへの安堵の声。

「共働き家庭」を心配する驚きは何十件もスクロールしてやっと1つ見つけたぐらい。

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 学校や市町村(特に札幌市)への問い合わせも多数あったはずだ。
 直接のきっかけは知事の政治判断によるものだが、最後に決めたのは、住民の一番近くにいる地元の自治体だ。札幌市の判断は夜までずれ込んだが、179市町村の判断が1日で揃った。
 感染者の確認は人口と観光客が集中する札幌圏だけでなく、道南、道東、道北へと全道に広がった。小学生の感染、20代の学生が意識不明の重体(その後回復)、高齢者の死亡も明らかになり、その度に道民に不安が広がった。本記事執筆時点(27日)でも感染者数は増え続けている。
 パニックだったのかもしれない。ともかく、子供を守るために休校を求める、あるいは休校の判断も止むを得ない。それが道民の総意といっても過言ではないだろう。
 傍目に目立ったのは所詮「ネットの世論」かもしれないけど、それは間違いなく社会の不安の写し鏡だった。

官邸は見ていたに違いない

 26日に首相が発した「自粛要請」。これすらも野党の格好の餌食となり、「後手後手だ」と批判された。国民民主党の玉木代表の批判は、法的根拠なき「要請」を出すことにではなく、専門家会議による基本方針が曖昧で、対応が遅いことに向けられていた。

 一貫しない政府の対応は早速、野党から追及された。この日の衆院予算委員会で国民民主党の玉木雄一郎代表は「基本方針を出したらあいまいだという批判があった。最初から『2週間』と基本方針に書けばいい。後手後手になっていることが、みなさんの不安を払拭(ふっしょく)できない一番の理由になっている」と批判した。

 こうなると、政権としては「不安を払拭するために」「思い切った決断を」「先回りして打ち出す」動機が高まったことは間違いない。
 そうした中、北海道で何が起きているのか、住民がどれだけ不安を抱えているかを、官邸は見ていたに違いない。僕と同じ時間にTwitterを見ていたのかは知らないが、全道179市町村が決めたという事実、そして戸惑いつつ受け入れる道内の様子が新聞に載った。足元では、首相が発した前のめりのイベント「中止要請」が受け入れられていた。さらに踏み込んだ「先手」の対応。それが、小中学校に加えて「高校」も休校すること、そして春休みを前倒しして1か月に渡って学校を閉めることだったのだろう。
 この際、子供は重症化しにくいという子供自身へのリスク(が小さいこと)は無視。保護者の不安や、学校を拠点に感染が拡大して高齢者にうつるリスクの方を重視した。
 私は社会が停滞するリスクの方を重く見ているが、何としても感染拡大を防ぐという考え方もわからなくもない。定量的な評価は難しく、専門家のコメントも割れている。

休校要請 専門家「評価難しい」
https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20200227/1000044708.html

感染が起きていない地域で同じ対応をとることにどれほどの効果があるかはわからない。子どもたちが外に出歩き、友だちと遊んでしまっては効果は下がるだろうし、現時点で評価することは難しい」(日本環境感染学会の理事長・政府の新型コロナウイルス対策の専門家会議の委員・東京慈恵会医科大学の吉田正樹教授)
「ここまで大胆な要請をするとは思わなかったので率直に驚いた。国全体の感染症に対する防御策を考えると、学校は密集した集団で、爆発的に広がる可能性もあり、的確な判断だと思う」「共働きやひとり親家庭では子どもを置いて仕事には行けないので、混乱が生まれる可能性がある。学校だけではなく、親が仕事を休めるよう企業にも要請を行うなど総合的な政策を打ちだす必要がある」(教育評論家 尾木直樹さん)
「本格的な流行が懸念される中で、子どもも高齢者も両方守ることにつながる措置として評価できる」(東北医科薬科大学 賀来満夫特任教授(感染症学))
専門家会議で議論した方針ではなく、感染症対策として適切かどうか一切相談なく、政治判断として決められたものだ。判断の理由を国民に説明すべきだ
一定の効果はあるかもしれないが(略)国民に大きな負担を強いる対策を、現時点ではとるべきではないと思う」(政府の新型コロナウイルス対策の専門家会議の委員・川崎市健康安全研究所 岡部信彦所長)

蓄積していた不安

 安倍政権は1月に、武漢から日本人を帰国させるためのチャーター機を飛ばした。帰国後の受け入れ先探しなどを並行しながら「見切り発車」でトップダウンで決断した。一時的に相部屋を余儀なくされるなどの状況を見ても、かなり無茶をしたことは間違いないが、それでも野党は「遅い」と批判した。この時、帰国者対応に当たった職員1人を自殺で失った。無理をしてでも、飛行機を飛ばしたこと自体には世論は肯定的だった。
 一方、クルーズ船は困難な課題を抱えていた。現場の実情が難しかったことは専門家が指摘していたし、海外や国内世論をコントロールするという点でもうまくいかなかった。
 専門家の意見を聞いて、現場の実情に合わせて、できることからやろうとしても、後手に回ったとして批判される。
 実際、本来できたことができていなかったり、安倍政権の危機意識や危機対応能力が欠如していた部分は大いにあるだろう。ガバナンスがガバガバで「桜」も「検察トップの定年延長」も苦しい防戦に終始。こんなことでは、落ち着いて対応する体力を失っていたといっても無理はない。
 しかし、1月から2月半ばにかけての政府や行政への対応への批判は「中国人を入国禁止にしろ」とか「もっと検査をしろ」「陽性者の情報をつまびらかに公開しろ」といった、法治国家の理念や専門家の意見など度外視したものだった。
 岩田医師によるクルーズ船対応の批判など専門家による批判や提言もあったが、それらはほとんどかき消され、右と左からイデオロギー的な罵声の応酬に巻き込まれてしまった。最初から政権批判にしか興味がない人々の揚げ足取りや、不安を煽って耳目を集めることにしか興味がないワイドショーが繰り返し世に放たれた。
 パニックと自粛ムードの積み重ねが、イベント主催者に中止を、北海道知事に思い切った決断を、そして安倍首相に超法規的判断を決意させた。

わたしたちはどうしたらいいのか

 大きく2つの方向性で思い浮かんだ。
 一つは、働き方を見直すこと。時差出勤、時短勤務やテレワークができる業種なら積極的に取り入れること。家族の自身の事情に応じて抵抗なく休めるよう、企業や組織は配慮し、政治や行政はそれを全力でバックアップすること。
 もう一つは、今回の「超法規的措置」をはじめとした、政府や行政の対応に不利益の方が大きいと考えるなら、地元の行政に反対意見を送ること。首相の「要請」に応じるかどうかを最後に決めるのは、住民の一番近くにいる市町村だ。地方自治体も安倍政権も世論を気にしてピリピリしている。反対なら意見を表明すること。それが民主主義だ。

 そもそも、感染症対策として何が妥当なのか、こんな状況で仕事に行く意味あるのか、リスクコミュニケーションとはなんだったのか…思うところはたくさんあるが、書くのは別の機会に譲る。
 混乱が少しでも早く沈静化するとともに、万全の対策によって一人でも多くの命が救われることを願う。

追記(2020/2/29 1:30)
首相の決断の背景についてこの記事が詳しい。慎重論を差し置いて見切り発車で動いたそうだ。懸念や課題は噴出している。どう説明するか注目したい。
臨時休校要請、首相「独断」に腹心の影 菅氏ら置き去り:朝日新聞デジタル https://www.asahi.com/articles/ASN2X74BSN2XUTFK03F.html #新型肺炎・コロナウイルス

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