Masquerade~仮面決闘士は怪奇を好む~
死者が人を殺した!
ウェネス都市共和国で最も“刺激的”とされる「黒猫通り」の住人“エルフ顔の”リン・カッツェは友人が多く、その友人は根城のカフェに巣くうリン・カッツェの先端の尖った耳に様々な怪奇な事件を語る。
市警捜査官アズールは決して軽薄な人物ではない。その彼が、友人であっても部外者のリン・カッツェに捜査中の大事件について漏らすのは初めてだった。
それは三日前、共和国財務官ティエポロ卿が、評議会議事堂に設けられた彼の執務室で短剣で心臓を正面から一突きされた事件についてだった。
評議会並びに市警本部は死霊術官を招集。死者の魂を骸に一時だけ宿させ、その魂が知り得る情報を語らせる<骸語り>の術を使用させた。
財務官の骸が語った犯人は、敵対する議員マリーノ卿の側近オモデオ・アリギエーリ秘書であった。
<骸語り>の一刻後、市警はマリーノ卿の承諾のもと被疑者の自宅に踏み込んだ。しかし黒い喪服に身を包んだアリギエーリ夫人は、夫が財務官を殺せたわけがないと訴えた。
曰く、「夫は事件の七日前に殺されていた!」
市警が調べた結果、確かにオモデオは何者かに路上で刃物で喉を貫かれて殺害され葬儀も出されていた。
しかし、死者自らの告発に疑う余地はなし。まして共和国貴族の重鎮たる財務官の死後の証言を否定するとは!
かくして市警は偽証の罪でアリギエーリ夫人を拘束するに至った。
「<骸語り>による証言に過ちはないのは承知だ。だが、あの夫人の嘆き悲しむ姿が嘘だとは私には思えん」
「お前の見立ては正しい。オモデオに財務官は殺せぬ」
「なぜそう言い切れる?」
苦悩に表情を歪ませる友に、リン・カッツェはカッフェの器を置いて事も無げに答えた。
「その日にオモデオを殺したのは俺だ。決闘でな」
立ち上がった“エルフ顔”の仮面決闘士を、捜査官は慌てて追いかけた。
【続く】
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