読書感想:紅はこべ
スカラムーシュやゼンダ城の虜と、近世ヨーロッパを舞台にした冒険活劇を読んできたてんぐですが、同じくフランス革命期を舞台にした「紅はこべ」を読了しました。
時はまさに貴族が貴族というだけで断頭台送りにされ市民同士が監視し合う、ロベスピエールの恐怖政治の真っ只中。
共和国政府を嘲笑うかのように貴族たちをイギリスへ亡命させる地下結社「紅はこべ」のリーダーを追う公安委員会の密偵。
彼に最愛の兄を人質に取られ協力を強いられるかつてのフランス社交界の花だった美女。
そしてその崇拝者にして結婚に至ったにも関わらず夫婦関係は冷え込んでいる準男爵という貴族としては最下級にあたる愚鈍な伊達男の英国紳士。
この三人を軸に展開していきます。
前半はこの「紅はこべ」のリーダーは誰なのかを探るというミステリーであり、後半は、その「紅はこべ」がいかに共和国政府の狡猾で無情な罠を掻い潜り新たな亡命希望者を助けるのかというサスペンスとなってます。
この紅はこべ、展開は確かに魅力的なんですが、どうにもキャラクターに感情移入しきれなかったというのが本音でした。
この「紅はこべ」が助けた亡命貴族や革命を嫌悪するイギリスの田舎紳士たちって、年始に見た風と共に去りぬじゃないですが、貴族たちが理不尽に奪われたと信じる暮らしが第三階級=民衆の搾取のもとに成り立っていたって想像がほとんどなさそうなんですよ。
確かに、「君も死刑、みんな死刑、僕も死刑」という具合に断頭台が年中無休で稼働してるような恐怖政治がまともな政治とは思えません。
同時に、この「紅はこべ」一味の活動、特に冒頭のパリ脱出行はD&Dの背景:民衆英雄のモデルケースとして紹介したくなったくらい鮮やかでした。
それでも“女男爵”というペンネームを用いるところからわかるように貴族階級の出身である作者オルツィの、共和主義革命を起こした民衆への拭い難い嫌悪感も感じられます。
あるいは、同じ議会政治であっても、封建社会と身分社会を前提としていた立憲君主制と、絶対王政による中央集権を経験した民主共和制の違いもあるのかもしれません。
何はともあれ、民衆社会と貴族や特権階級が争うのであれば、とりあえずであっても民衆の側に立つ者こそヒーローである。
そう考える自分自身を、てんぐは再確認しました。
さて、次は何を読むかなあ。
今は大河ドラマ合わせでkindleで買った「殴り合う貴族たち」を読んでまして、来月は三体文庫版を買う予定が入ってますが、ヒーローがレイピアを振るってチャンバラしてくれるようなタイプの冒険活劇小説も読みたいです。
となると、やはり怪傑ゾロでしょうか。
彼こそまさに、弱きを助けて強きを挫くヒーロー像そのものですし。
創元社から新訳版が出てたそうですが、いま絶版状態っぽいんですよねえ。
Amazonで調達しても良いですが、久しぶりに神保町に行って探してみるのも一興かな。
復刊ドットコムで投票が集まって、復刊してくれたら幸いなんですが。
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