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フッサール現象学を学ぶための解説書ルートマップ


※最終更新:2022年3月18日

はじめに


この記事は
「フッサールの現象学に興味があるけど、何から読み始めれば良いのかわからない」

「以前、フッサールの現象学についての入門書を読んだけどさっぱり何が書いているのか分からなかった・・」

「もう1度フッサールの現象学に挑戦したい!」

という人に
「フッサール現象学を学ぶならこの順番で解説書を読んでいけ!」
という独断と偏見に満ちたフッサール現象学の解説書ルートマップを紹介しています。


前もって言っておくと、私は現象学の専門家でもないし大学で哲学の授業を受けていた者ではありません。

哲学関連の本を読むのが好きな、ただの一般人です。

なので、ここで紹介する書籍は一般書がメインです。

値段の高い専門書などは一切含まれていません。
(1冊だけ理由があり紹介してます)

あくまでも
「一般人がどのようにフッサール現象学を学んでいくのが良いのか?」
を1つの例として紹介する内容となってます。


また「フッサールの著作をどのような順番で読むのがオススメなのか?」を知りたい人も一定数いると思いますが、この記事はあくまでも解説書に限定しているのであしからず。

※ フッサールの著作については下記をご参考ください。



■解説書を読む前にコレだけは知っておくべき事


ということで早速オススメの解説書を紹介したいのですが、その前にどうしても伝えたいことがあるので言わせてください。


1:完全にフッサールを理解することは専門家でも不可能


ご存知の通り、フッサール現象学は一般人にはかなり難しいです。

難しいというのも分かりにくいという方が正確かもしれません。

そもそも、この世に完全なフッサールの理論体系をまとめた本など存在しません。
(フッサールの著作であろうが研究書、専門書であろうが)


理由は様々ありますが、理由の1つとしてフッサール自身が書いた著作は「現象学とはこういったものだ」というプログラム的な内容が多いことが挙げられます。


詳しい現象学の分析や方法手順などの多くは、フッサール死後(存命時も含む)に当時の弟子や研究者が講義ノートや研究草稿などをまとめた形で出版した書籍の中(『経験と判断』や『イデーンⅡ、Ⅲ』など)に書かれています。

ということは、本人の手で書いた著作でない以上、程度の差はあれ編集した人らによる様々な解釈がどうしても発生する可能性が高いわけです。


なんせフッサール現象学で有名な「ノエマ」についても解釈が分かれていますし・・・

しかも、フッサール自身が書いた著作でも、時代によってニュアンスが変わるものもあります。


これもフッサールの哲学に対するスタンスが大きく影響しています。


というのも、フッサールの最後の高弟であるフィンクが

「フッサールは、もし事象がそれを強いるならいつでも自分の理論体系すべてを放棄する用意があった」

と言及しています。

つまり、今まで築き上げた理論体系にそぐわない現象が見て取れたら、全てを捨ててでもそれにあった体系を一から築き上げる意思があったということです。


こういったことから

「あの著作ではこう書いていたのに、この著作になると全然違う意味になっている(そう捉えても不思議でない)」

っていうことが多数あるのもフッサール現象学の特徴の1つと言えるでしょう。

なので、私としては色々な解釈があるからこそフッサール現象学を理解するためには、出来るだけ沢山の解説書を読むべきだと考えています。

人によっては

「解説書を読むよりも哲学者の著作をメインに読むべきだ」

と考える人もいるでしょう。

それは、ごもっともです。


でも、フッサールの著作だけ読んでいては決して発見できない(思いつかない)解釈を知るためには、やはり解説書が必要だと思うのです。

色々な解釈があることは何だか気持ち悪くてスッキリしないかもしれません。

逆に、そこがフッサール現象学、いや現象学が面白いところでもあります。


だからこそフッサールの現象学は後にハイデガー、サルトル、メルロポンティー、レヴィナスらによって独自に展開され、哲学という分野を超えて社会学、医療、教育学などに活用されているのです。


フッサールはこう言いました。

「現象学は1人でやるものではなく、共同でやるべきものだ」と。


2:時代によって情報が更新されている


先ほど、フッサール著作の中には当時の弟子らが編集したものが多いと言いました。

フッサール死後、保管された研究草稿は約4万5千ページにのぼり、今もなお編集されています。

常に情報が更新されている以上、今と数十年前ではフッサール像が大きく変わる部分があることは避けられません。


この記事で紹介する解説書は、古いもので約50年以上前、新しいものはほんの数年前といった感じで幅広い年代のものを取り上げています。

なので、古い解説書の中には今では通説ではない内容も含まれています。

思想面はもちろんのこと、フッサールの生涯についてもそれは当てはまります。

ただ、単純に「古いものよりも新しいものの方がいい」とは言い切れません。

その辺はバランスを考えた上で紹介します。


3:入門書でも決して内容が易しいとは限らない


フッサール現象学の入門書はそれなりに販売されてますし、この記事でも多くの入門書を紹介します。

※この記事においての「入門書」は後ほど説明するSTEP0〜1で紹介する解説書が該当します。

しかし、Amzonのレビューや読書メーターなどを見ると一部ですが「難しかった」というレビューがあります。

何をもって難しいのかは人それぞれ理由があるわけですが、哲学というジャンルを考えると

・読む人が何に興味関心があるのか?
・これまでどんな哲学書(解説書)を読んできたか?

によって感じ方が変わることは間違いないでしょう。


フッサール現象学で言えば、西洋哲学の「認識論」「存在論」について学んできたのであれば、割とスムーズにのめり込むことが出来ると思います。

特にカントの認識論(主に『純粋理性批判』)での「感性」「悟性」「超越論的統覚」などの意味や相互の関連性などを一通り知っている人にとっては比較的スッと理解できると思います。

一方「倫理」や「生き方」に興味がある人はフッサール現象学は非常に着手しにくいでしょう。

例えば、ラッセルの『幸福論』、セネカの『人生の短さについて』、マルクス・アウレリスの『自省録』などを読んできた人にとっては。

(ただし、レヴィナスやミシェル・アンリのように現象学に影響を受け倫理、生の哲学を展開した哲学者の場合は別ですが)


フッサール自身、倫理について触れていないわけではないですが、現状として入門書でフッサールの倫理について解説しているものは非常に少ないです。


こう言われると

「じゃあ、フッサールを学ぶ前にカントや認識論を扱ったその他の哲学者の解説書を一通り読んが方が良さそう」

と思われた人もいるでしょう。


もちろん読むに越したことはないですが、今回紹介する入門書の多くはカントらと比較した上で解説しているので無理に前もって読む必要はありません。


■ルートマップの工程について


これから紹介する解説書は以下4つのステップに分けて紹介しています。


STEP0:フッサール現象学に興味を持つきっかけをつくる

STEP1:最低限おさせておくべきフッサール現象学のことがらを知る

STEP2:基礎を固めつつ、代表的なフッサール現象学の解釈を知る

SETP3:一般人最強のフッサール現象学の知識人を目指す

詳しい説明は各ステップの箇所を見て欲しいのですが、よくある解説書の紹介と違って

・なぜこの解説書をこのタイミングで読むと良いのか?

・この解説書とあの解説書はどういった関連性があるのか?

なども突っ込んだ上で紹介します。

その方がこの記事を読んでいる人のためになると思うので。

では、STEP0からスタートしましょう。


■STEP0:フッサール現象学に興味を持つきっかけをつくる


このSTEP0では、とにかく少しでも良いのでフッサール現象学が

「面白いな〜」

「もっと知りたいな〜」

と感じることを目標とします。


感情的なことを目標にするなんて変な話ですが、何も知らない状態の人や
一度挫折した人にとっては案外大切なことだと私は思ってます。

やっぱり、少しでも興味が湧かないと物事は続きません。

なので、この段階で無理にフッサール現象学の用語を覚えようとする必要はありません。

最初から無理に覚えようとするとストレスが溜まるので。

では、最初に読むべき解説書は何か?

コレです。


◯『現象学という思考』 著:田口茂 筑摩書房 2014年


私達が普段何気なく使っている「確かさ」というキーワードから出発して、それがいかに様々な非主題的な現象から成り立っているのか?をテーマにしています。

本書を読む上で「距離ゼロ」「媒介」というキーワードは非常に重要になります。


なので、常にこの2つのキーワードを頭に入れながら読み進めるとフッサール現象学がどういったものかが明確に見えてくるかと思います。



また、大事なことは表現を変えて繰り返し説明し、適切なタイミングですでに解説したところを振り返っているので、ちゃんとこれまで読んだところを理解した上で読み進めることが出来るのも本書の特徴の1つです。


と言っても、人によっては内容が難しいと感じる箇所もあるかもしれません。

もし、そういった箇所があったら無理に読む必要はありません。


ちゃんと内容が理解できた箇所で「面白い!」「もっと詳しく知りたい!」と感じればOKです。

逆に、内容が理解できたのに全く面白いと感じなかった人は、他の書籍を読んでもフッサール現象学は非常につまらなく映ると思います。


そういった意味でも、この書籍は自分がフッサール現象学にどんな反応をするかを確かめるためにも適切な1冊だと言えます。


ということで、STEP0ではこの『現象学という思考』のみでとりあえずOKです。


■STEP1:最低限おさえておくべきフッサール現象学のことがらを知る

ここから少しずつ具体的なフッサール現象学を知る段階に入ります。


まずベースとなる3冊を紹介し、その後に「これも余裕があれば読んだ方が良い」という書籍を紹介します。

ベースとなる3冊で紹介されているフッサール現象学の用語はどれも絶対におさせておくべきものなので、出来るだけ暗記しノートにまとめておきましょう。

もちろん、無理なく少しずつ覚えていく感じでOKです。


これら3冊の内容をしっかり理解し、自分の言葉でしっかり説明できればSTEP2で紹介する書籍もスムーズに理解できると思います。


なお、このSTEPで紹介する解説書(入門書)は、すでにフッサール現象を少しかじった人なら1度は読んだことがあるかもしれません。


その時にさっぱり分からなかったのであれば、STEP0の『現象学という思考』をまず読んでフッサール現象学の意図を知った上で再挑戦してみてください。

もし『現象学という思考』を読んでも全然分からない、全く興味が湧かないのであれば、残念ですが一旦学ぶのを中断して、またの機会に挑戦してください。


・ベース本1


◯『これが現象学だ』 著:谷透 講談社(講談社現代新書) 2002年


新書ですが非常にバランスよくフッサール現象学についてまとめられています。


本書の特徴は、

1:フッサールの書簡の内容がふんだんに紹介されている

2:マッハとフッサールの関係について触れている

3:学問論についての説明が分かりやすい

以上3点が挙げられます。

まず「1:フッサールの書簡の内容がふんだんに紹介されている」について。

フッサールは生前、当時の有名な著名人らと多くの書簡を交わしていました。


その書簡の内容を紹介しつつ、フッサール現象学がどういったものなのかを解説している本はそう多くはありません。

そういった書簡を通じて学ぶことで、よりフッサールの気持ちになって現象学を知ることが出来るのは非常に価値があることだと思います。



次に「2:マッハとフッサールの関係について触れている」について。

多くの解説書では、初期にあたるフッサールについてブレンターノ、フレーゲこの2人を中心にし、どのようにしてフッサールは現象学という考えを生み出したのか?について解説しています。


しかし、本書はこの2人も紹介しつつマッハについても触れています。

ちなみにマッハという人物は、超音速の研究で有名なあのマッハのことです。

おそらく入門書でマッハについて書かれているのは本書だけでしょう。


フッサールがマッハの何に影響され、何を否定的に捉え現象学を生み出すきっかけとしたのかが分かります。


また、マッハ、ブレンターノ、フレーゲ以外にもカントと比較して解説している点もGoodな点です。


カントとの比較は他の書籍でも当たり前のように紹介されてますが、入門書に限定するとこの書籍が1番紙幅を使って解説しています。


最後に「3:学問論についての説明が分かりやすい」について。


フッサールの思想でとりわけ初心者に難しいと言われているのが論理学
(学問)に関する内容です。


フッサールの論理学は、通常よく言われている言語と論理を扱った論理学だけでなく、諸学問の基礎学としての論理も扱っています(存在論も含む)

そういった全体論的な論理学を展開しているわけですが、本書ではそういったところもカバーしています。

例えば、形式論理学(形式命題論と形式存在論)と領域存在論(物質的自然、生命的自然、精神世界)の違いは何か?に関する説明は非常に分かりやすいです。

ただし、著者が本書で言っているように論理学(学問)に関する箇所は、どうしても硬い話になるので気合いが入らないのも仕方がないと前置きした上で解説を進めています。


なので、もし難しいと感じるようであれば飛ばして他の章を読んでもOKでしょう。

著者自身も、飛ばしても最低限のことは理解できると思うと言っているので。

いずれにせよ、後のステップで紹介する解説書の中には論理学についての内容が増えるので、フッサールについて多角的に学びたいのであれば是非ともおさせておきたいところです。



・ベース本2

◯『現象学入門』 著:竹田青嗣 日本放送出版協会(NHKブックス) 1989年


竹田青嗣と言えば、独自の解釈で色々な哲学者の入門書を多数書いていることで知られています。


どの著作も一般人にとっては非常に分かりやすい内容で、本書もその例外ではありません。

おそらく、この記事で紹介する解説書の中で1番分かりやすく読みやすいです。


ただ、その独自の解釈のせいもあってか専門家からの評判は決して良いとは言えないようです。

私がこれまで読んできたフッサール解説書の中で、文献案内や参考文献で本書が紹介されている本は1冊もありませんでした。

そもそも専門家や研究者は、自分と同じ立場の人が書いた書籍を紹介するのが普通なので、本書が紹介されてないことは当たり前のことなのかもしれませんが。


と言っても、一般人にとっては少なからずメリットがあるのは間違いです。



さて本書の特徴ですが

1:よくある現象学の誤った考え方について触れている

2:ハイデガー、サルトル、メルロポンティーの現象学の展開について触れている

3:現象学の用語集が掲載されている

以上3点が挙げられます。

まず、「1:よくある現象学の誤った考え方について触れている」について。

よくある俗流の誤ったフッサール現象学の具体的な用語に触れつつ、正しい用語の意味を説明している点は初学者にとっては非常にありがたいことです。

例えば、「間主観性」「客観世界の妥当性」がどのように出来上がるかを図を用いて分かりやすく解説しています。

また、著者の特徴として、遠慮せずに「この人のこの解釈は間違っている」と批判している点が挙げられます。

本書でも、竹内芳郎、廣松渉という有名な学者の現象学理解に対して批判しまくっています。

ちなみに、同著者に『超読解!はじめてのフッサール「現象学の理念」』という本がありますが、こちらではフーコーやデリダらの構造主義、ポスト構造主義者らの現象学理解への批判がなされています。

(一応『現象学入門』でもデリダについては触れています)


驚いたのは、ベース本1『これが現象学だ』のある箇所についても「この解説は現象学の無理解から出ているものだ」と批判しているところです。

批判されている箇所は「原事実」に関するところですが、私としては誤っているのではなく、人によっては誤った内容だと思われる表現になっているだけだと判断してます。

このように誤ったフッサール現象学について若干過激とも思える批判は、専門家にとっては的外れな批判と見なされるものも多いかと思います。


それでも、「このようなフッサール現象学の間違った理解や、それに対する批判もあるのか」と知ることは貴重ではないでしょうか?

次に「ハイデガー、サルトル、メルロポンティーの現象学の展開について触れている」について。

日本人にとってはフッサールよりも後続のハイデガー、サルトル、メルロポンティーらの方が人気が高い印象があります。

(一般人向けの解説書を見るとフッサールよりもこれら3人の方が圧倒的に多いですし)


なので、すでにこの3人についてある程度知ってるのであれば新しい発見はないかもしれんませんが、竹田青嗣流のフッサールと3人の現象学の比較を知れるので一読する価値はあります。

逆に、3人について全く知らないのであれば必読です。



最後に「3:現象学の用語集が掲載されている」について。

現象学にはたくさんの用語があるので、それを1つ1つ覚えるのは非常に大変です。

本書では24ページにわたり重要な用語の解説が掲載されているので、初心者にとっては大いに助けになることでしょう。


ちなみにベース本1『これが現象学だ』にも用語集は載ってますが、たった3ページで各用語のほとんどが数行程度の説明になってます。

そのため本書の方が参照する機会は多くなるかと思います。


また、用語集といえば弘文堂の『現象学事典』がありますが、STEP1の段階では無理して持つ必要はありません。

(おそらくこの段階で各用語の説明を読んでも意味が分からないものが多いと思いますし・・)

購入するならSTEP2に入った時がベストでしょう。



・ベース本3

◯『人と思想 フッサール』 著:加藤清司 清水書院 1983年


「人と思想シリーズ」は定評があり、本書もこれからフッサールを学ぶ人にとっては格好の入門書だと言えます。

ただ出版されたのが今から約40年前でその後2回表紙が変わっていますが、内容は改訂されていないので情報が少々古い箇所もあります。


それを踏まえた上での本書の特徴は

1:フッサールの生涯についてのページ数が多い

2:主著作別に思想が紹介されている

以上2点が挙げられます。

まず「1:フッサールの生涯についてのページ数が多い」について。

ここまで紹介してきたどの解説書よりもフッサールの生涯を解説しているページが多く、約60ページほどになります。


ただ、すでに言ったように出版されたのが約40年前なので、今では定説でない情報が書かれています。


例えば、

「『算術の哲学』の頃、フッサールは心理学主義だったが、フレーゲに批判され、それを契機に『論理学研究1巻』で見られるように完全に心理学主義から脱却した」

のような感じで書かれていますが、今ではロッツェとボルツァーノについてフッサールが研究したことが決定的な要因だとされています。

40年前と今では編集されたフッサール研究草稿の数が圧倒的に違うので、情報が古くなるのは仕方がないことです。


フッサールの生涯について知るためには、なるべく出版されてから日が浅い解説書を読むのがベストですが、残念ながらそういったものは私が知る限りほぼゼロです(高度な専門書ならあるかもしれません)

なので、多少情報が古くてもフッサールの生涯を把握するには本書が1番良いと判断しました。



次に「2:主著作別に思想が紹介されている」について。

この記事で紹介する解説書に限らず、多くのフッサール現象学に関する目次を見ると、フッサールの思想を分野ごとに解説しているものが多いです。

「自我」「身体」「志向性」「時間」「生活世界」「超越論的還元」・・みたいな感じに。

しかし本書はそういった構成ではなく、著作別に『論理学研究〜純粋論理学』『イデーン〜還元と志向性』『デカルト的省察〜他者問題』といった感じで紹介されています。


フッサール現象学をこれから学び始める人にとっては、こちらの構成の方がフッサールの思想を時系列で学べるのでスッキリするかと思います。

また、それらの著作の中に『ブリタニカ草稿』が含まれているのも本書の特徴の1つです。

『ブリタニカ草稿』に関する内容は、ハイデガーとの関係性を解説する部分にサラッと紹介されるだけに留めているものが多いですが、本書ではどういった内容が書かれているかまでちゃんと解説しています。


以上が3冊がこのSTEPでおさえておくべき解説書(入門書)になります。



・どの順番で読むのが良いのか?


読みやすい順でいったら

『現象学入門』⇒『これが現象学だ』⇒『人と思想 フッサール』
になります。


ただ個人的には『現象学入門』から入ると、良い意味でも悪い意味でも竹田青嗣流のちょっとクセがある解釈が身に付き兼ねないのが心配です。

(決して竹田青嗣を批判しているわけでありません)


やはり1冊ずつ読むのであれば紹介した順番どおりに

『これが現象学だ』⇒『現象学入門』⇒『人と思想 フッサール』
が良いでしょう。



あとオススメなのは『人と思想 フッサール』でまずフッサールの生涯についての箇所だけ読んで、その後に『これが現象学だ』⇒『現象学入門』の流れで最後にまた『人と思想 フッサール』の残りの箇所(フッサールの思想)を読むルートです。

たぶん、このルートの方がフッサールに興味が湧き易いかと思います。


このSTEPで紹介した解説書(入門書)の内容を理解できれば、フッサール現象学の基礎中の基礎となる土台は築けたと言えるでしょう。

さらに詳しくフッサール現象学を学びたいのであれば次のSTEPに進めば良いし、もうお腹いっぱいで満足であればこのSTEPで一旦終了しても全然構いません。

そういった人はフッサール以外の哲学者にも興味があると思うので、色々な哲学者の思想をバランスよく知りたいのであれば、あえてこのSTEPで終わらせるのは賢明な判断だと思います。

いずれにせよ、もしこの先もフッサール現象学を学ぶのであればこのSTEPで紹介した解説書(入門書)は今後も機会があるごとに再読することがあるかもしれません。

ブックオフなどに売らずに大切に保管しておきましょう(笑)


・その他の書籍

このSTEPで紹介した3冊を読めば最低限おさせておきたいフッサールの現象学は把握できます。

それに加えて以下の書籍も読むことでより理解が深まることでしょう。

と言っても、無理に読む必要はなく「余裕があれば読んで方が良い」と私が判断したものになります。


◯『現象学』 著:木田元 岩波書店(岩波文庫) 1970年


今も昔も現象学の入門書と言えるべき本書は、すでに40回以上本刷りされています。

フッサールの現象学を中心にハイデガー、サルトル、メルロポンティーも触れており情報量としてはベース2で紹介した『現象学入門』よりも多いです。

今回、本書をベース本としなかった最大の理由は、志向性についてのノエマとノエシスの相関関係の解説を意図的に避けているからです。


なんだかんで言っても、フッサール現象学を学ぶにあたって「志向性」が何なのかを把握することは重要だと思うので、個人的にはどうしてもそこが引っかかりました。


とはいえ、ベース本では触れられていない内容が多数書かれているのも確かです。

特に「終章」でフッサール現象学とヘーゲル、構造主義の意外な共通点を指摘し、さらにはマルクスとフッサールを結びつけようとしたトラン・デュク・タオの『現象学と弁証法的唯物論』を紹介しているのはおそらく入門書の中では本書だけでしょう。


読みやすさとしては、ベース本3『人と思想 フッサール』と同じくらいでしょうか。




◯『初学者のための現象学』 著:ダン・ザハヴィ 晃洋書房 2015年


世界的に有名な現象学専門家ダン・ザハヴィによる入門書になります。

こちらも『現象学』と同様、フッサールを中心にしてハイデガー、サルトル、メルロポンティー、そしてレヴィナスまで取り扱っています。

ページ数にして全部で150ページ程度なので、一見読みやすいのかな?と思うかもしれませんが、おそらくベース本3冊の内容を理解していないと読み通すのは難しいでしょう。


個人的には、翻訳のせい?もあってところどころ読みにくい箇所もあり、読むのに意外と時間がかかりました。

また本書よりも同著者による『フッサールの現象学』の方が内容が断然内容が濃いです。

この解説書については次回以降のSTEPで紹介するので詳しくはそちらをご確認ください。


◯『哲学の歴史10』 著:野家 啓一 他  中央公論新社 2008年


人気シリーズ『哲学の歴史』の10巻である本書は、現象学、西欧マルクス主義、そしてフランクフルト学派の哲学者について触れられています。


現象学に限った話をすれば、フッサールの他にブレンターノ、シェラー、ヤスパース、ハイデガー、ガダマーの紹介がされています。


フッサールについても解説は約80ページほどで、生い立ちと思想が時系列で紹介されており、非常に分かりやすい内容になっています。


また、時間論にまつわるC草稿についても少しだけですが触れています。


■STEP2:基礎を固めつつ、代表的なフッサール現象学の解釈を知る


ここから一気に内容が難しくなる解説書が登場します。

(よって、このSTEPで紹介している各解説書の説明がこれまでのSTEPよりちょっと難しく書いてある点はご了承ください)

そのため、一読しただけで完全に内容を理解するのは困難かもしれません。


STEP0,1の解説書(入門書)では、触れられていなかった内容や、さらに深く突っ込んだ事柄も登場します。


でも、これまで紹介した解説書(入門書)を読んだ人なら「何が書いてあるかさっぱり分からなかった」という状態にはならないはずです。


もし、内容のほとんどが全く分からなかった場合はもう1度STEP1の解説書(入門書)を読み返してみましょう。


とまあ、「難しい」やら「分からない」と連呼しましたが、哲学者についての解説書が難しいと感じる最大の理由は

「哲学者が言った内容をメインに解説しつつ、著者の主張、つまり哲学者が言った内容に対する賛同、反論、疑問などをその著者独自の表現で書いているから」

だと言えます。


このSTEPで紹介するほとんどの解説書はそういうスタンスのものが多いです。

これまで紹介したSTEP0、1については、そういったスタンスを完全にとっていないわけではないですが、少し抑えめでかつ主張がわかりやすいものになってます。

当たり前ですが、著者が何に賛同したり反論したりしているのかを読み取るためには、それに対して向けられている「何」がどういったものなのかを知らないといけません。

その「何」がSTEP1で学んだフッサール現象学の基礎となっている内容のものが多いので、だからこそこういった順番で解説書を紹介しているわけです。


なので、STEP1よりもそれぞれの著者の主張が多くなる分、フッサール現象学の様々な解釈も当然発生します。

代表的な解釈はもちろんのこと、この著者にしか見られない解釈も登場するので是非そういった面も気にしながら読み進めていきましょう。


・ベース本4

◯『フッサール 起源への哲学』 著:斎藤慶典 講談社(講談選書メチエ) 2002年


プロローグから「フッサールはなんて不器用で頭が悪い人物なんだ」とインパクト大で始まる本書は、著者とフッサールの対決を試みた内容となってます。

そのため本書はフッサール現象学の全体を解説することを意図していません。

著者自身もそういった意図はないと断言しています。

しかし、フッサール現象学の重要な点はきちんと紹介されています。


STEP1のベース本1『これが現象学だ』で取り上げているものをブラッシュアップしたものとイメージすると良いでしょう。



さて本書の特徴ですが

1:「志向性」に対する考え方が独特

2:超越論的なもの特有の問題をフッサールとは違うやり方で解決を試みている

3:フッサールがもっと解決したかった問題の詳細がわかる

以上3点が挙げられます。


まず「1:「志向性」に対する考え方が独特」について。


フッサール現象学の中でとりわけ重要とされている「志向性」


多くの現象学者がその重要性を強調しているのに対し、著者はきっぱりと
「ある時期を境にその役割は終えている」と断言します。


その転換期となるのは、もともと志向性が「対象の志向的内在」という意味だったのが、後に対象を「構成するはたらき(「総合」「能作」)」という内在とは関係がない意味で使われるようになったところにあると言います。


つまり「内在」の前提を破棄している「超越論的現象学」になった段階でその有効性はなくなっているということです。


「志向性」という概念を知るきっかけとなった師ブレンターノが、フッサールが純粋自我を取り入れ「超越論的現象学」に歩みを進めた時「奇異な主張」と言ったのは有名なエピソードです。


このことからしても確かに「志向性」の本来の役割はこの時期に終わっていたのかもしれません。

詳しい内容はぜひ本書でご確認ください。


次に「2:超越論的なもの特有の問題をフッサールとは違うやり方で解決を試みている」について。

この「2」が本書最大の問題提起になります。

フッサールは超越論的なものに特有の問題を発生的現象学の中で解き明かそうとしました。

しかし著者は、形相的還元を経て獲得された「本質」の成立にまつまわる問題を「想像力」と表現し、それに注目して解き明かそうしています。


この「想像力」とはフッサールの時間論から導き出された「現在」の成り立ちの正体のことで、不在のものをその不在において現在させる能力(不在における現在)のことだと著者は言います。


また、著者はフッサールが現象の場所の究極地点が超越論的主観性(純粋自我)にしてしまったため、現象がどこで成り立っているかを問う必要がなかったことに異論しています。

本書では現象を「現象すること」「現象するもの」「現象を見てとるもの」と3つに区別し、「現象すること」は残り2つを包摂するものとして扱っています。

そして「現象すること」の場所がどこなのかは、身体を含んだ「自我」の問題の中、つまり超越論的主観性(純粋自我)の中に吸収されてしまっているため、フッサールにとっては場所の問題は重要視されていなかったわけです。


(現象学の特徴である「一人称パースペクティブ」の弱点がここにあるのかもしれません)


しかし著者は、「私=自我」を現象の媒介と捉えて、それを経由することなしには「現象すること」は成り立たないことは十分承知の上、それでも「現象すること」を「私=自我」の中では解決できないと言います。


この問題提起から「現象することの場所」を探る旅へと本書は向かっていきます。


最後に「3:フッサールがもっと解決したかった問題の詳細がわかる」について。


フッサールがもっとも解決したかった問題は何だったのか?


著者によれば、それは

「我々の現実は一体どこで始まっていてそれはどのような場所なのか?」

という、すでに「2」で触れた問いに通じるものだとしています。


フッサールはこの問いを一生かけて考え続けたのであると。

本書のタイトルにあるように、フッサールは「起源」つまり「現象することの起源」を最後まで求め続けたと著者は考えているわけです。

しかし、その問いは最後まで解決されず、そもそもその問いには答えなどなく、解体する必要があったことを告げることしか出来なかったと著者は言います。

全体を読むことで、なぜその問いが解決されなかったのか?そしてなぜ解体しなければならなかったのかを詳しく知ることができるでしょう。


この考えとは異なり、STEP1で紹介した『現象学入門』の著者である竹田青嗣は、フッサール現象学の核心を「確信成立の条件を解明すること」とみなしています。


つまり、竹田青嗣側からすれば、フッサールは究極の起源を求めているわけでないと解釈する立場だと言えるでしょう。

以上、本書の特徴を3つ挙げましたが、まだまだ他の解説書には見られない独特なフッサール現象学の捉え方をしている箇所もあるので、ご自身の目でお確かめください。


・ベース本5

◯ 『フッサールの現象学』 著:ダン・ザハヴィ  晃洋書房 2003年


おそらく現時点で日本で刊行されているフッサール現象学関連本の中で、もっともスタンダードな入門書といえるのが本書です。


多くの専門家が推奨してますし、非常にバランスよくフッサール現象学について書かれています。


序論で著者が言っているように、本書は入門書の格好になってますがそれ以上に自身の研究に基づいてフッサール現象学の標準的な読み方を越える内容となっています。

なので、一般人が一読して全ての内容を理解するのは難しいと思い、このSTEPで紹介しました。

(学術書レベルの書籍をこれまで読んできた人であれば、まず本書からスタートしても問題ないと思いますが)

さて本書の特徴ですが

1:「註」と「文献表」が豊富

2:フッサール現象学の代表的な解釈と誤解が紹介されている

3:相互主観性について詳細に解説されている

以上3点が挙げられます。

まず「1:「註」と「文献表」が豊富」について。


これまで紹介してきた書籍には「註」や「文献表」はそれほど記載されていませんが、本書は著者の研究を通して書かれた内容となっているため、約40ページほど収録されています。

特に「文献表」にあるフッサール全集(フッサリアーナ)の一覧は、今後フッサール現象学の解説書を読む際に活用する機会が多くなるかと思います。


というのも、より専門的な解説書になればなるほどフッサールの著作からの引用を掲載する場合、大半はこのフッサール全集を元に表記されるんですね。

例えば、『イデーンⅠ』からの引用であれば「Hua3-1/◯◯」のように表記されることが一般的です。
(◯◯は該当するページ)


なので、出来ればフッサールの主著作だけでも良いのでフッサール全集でどの番号に該当するかは覚えておいた方が良いでしょう。

(なお本書で収録されているのは、出版当時まで発表された34巻までとなってます)


次に「2:フッサール現象学の代表的な解釈と誤解が紹介されている」について。

本書の第3章に「いつくかの誤解」と題した節があるのですが、ここでは「エポケー」「現象学的還元」「基礎付け主義」などに関する代表的な誤解が紹介されています。

すでに紹介したSTEP1のベース本2『現象学入門』でもこの辺のことは触れられていますが、本書ではより専門的な研究を通した内容となっているので、もっと正確にこれらの誤解がどういった考えの元で生まれてきたかを知ることできます。


と同時に、現象学専門家の中で対立している事柄についても紹介されています。


この記事の前半部分で「ノエマについても解釈が分かれている」と言ったのを覚えてますか?

まさに本書ではそのノエマについての代表的な解釈が詳細に解説されています。

具体的にどういった解釈があるかはここで詳しく説明しませんが、簡略化していうと

ノエマを

・対象自体を志向する時に仲介者となる‘’理念的存在者‘’と見なす立場
(フレーゲ的解釈)

・現象学的反省において考察された‘’対象自体‘’と見なす立場

の2つの代表的な解釈が存在します。

(実際に『イデーンⅠ』を読むともう1つの解釈があることが分かりますが、それについても本書では触れています)



著者自身は後者の立場を支持してますが、それがどういった理由からなのかもしっかり書かれています。


なお、この節に限らず他の章&節にも誤った解釈を指摘した上でフッサール現象学を解説しているところが多いので、より正確な理解が得られるかと思います。

最後に「3:相互主観性について詳細に解説されている」について。


相互主観性(間主観性)についてはSTEP0,1の解説書(入門書)でも解説されていますが、私の印象としてはこの書籍はもっとも詳しく書かれています。

実は、相互主観性といっても1つだけでなく他にも異なる種類があります。


もっとポピュラーなものは、あらゆる存在(超越したもの)と世界の客観的な妥当性は自分=自我と異なる自我(他自我)を経験することで生まれるというものです。

STEP0,1の解説書(入門書)はこれをベースとして相互主観性を解説しています。


一方、本書ではこれとは異なる種類である

・世界との志向的関係そのものに相互主観性のための場所が存在する(開かれた相互主観性)

・言語的規範性に沈殿した伝統的規範性の顕在化(匿名的共同体)

の2種類を紹介しています。


これだけの説明だと何のことだか全然分からないと思うので、詳しくは本書を読んでみてください。

以上、3点の特徴を挙げましたが、おそらく本書の内容を完全に理解できれば学部生レベルのフッサール現象学の知識は得られたも同然でしょう。

少くなくも一般人であれば、十分なレベルに達することは間違いありません。


翻訳本なので読みにくい箇所もあるかもしれませんが、内容は非常にしっかりしているのでぜひ頑張って完読しましょう。


・ベース本6

◯ 『フッサール 心は世界にどうつながっているか』 著:門脇俊介  NHK出版 2004年


この記事で紹介している書籍の中でもっともページが少ないものになります。

なんと全110ページです。

(本書はシリーズ本の中の1つで、どの本も同じくらいのページ数になってます)

しかし、内容はいたって高度です。

間違っても「ページ数が少ないから、とりあえずこの本から読み始めよう!」なんて思わないでください(汗)


内容としては『論理学研究(主に第1、5研究)』『イデーン』にまつわる事柄がベースとなっており、主に「志向性」に焦点があてられています。


なので、フッサール後期思想の「生活世界」などについては解説されていません。

これまで紹介してきた書籍と比べると扱っている範囲はかなり限定されていますが、だからこそ示唆に富んだ解説がされています。


では本書の特徴ですが

1:フッサールからの引用が一切ない

2:フレーゲの意味論とフッサールの言語表現の諸位相の違いが分かり易く解説されている

3:現象学的還元の意義を3つの異なったフッサール像を元に解説している

以上3点が挙げられます。



まず「1:フッサールからの引用が一切ない」について。

解説書には珍しく、本書ではフッサールからの引用は一切載っていません。

著者曰く

「フッサールの場合、どんなに適切な引用をしたとしても読者にその言葉の意味を明らかにすることは出来ないと判断したため」

という理由から引用を掲載しなかったみたいです。


確かに、フッサールの著作を実際に読んでみると表現が曖昧で、読む人によっては誤解を与えかねない文章が至る所で見られます。

少なからずそれが原因で‘’基礎付け主義‘’だとか‘’プラトン主義‘’などと捉えてしまう人が多いのは事実です。

引用がないことに賛否両論な意見があると思いますが、見方を変えれば引用がないからこそ本書の内容で言っていることがはたして妥当なのかを確かめるために、実際に該当するフッサールの著作を自分で読んで最終的な判断をするきっかけになると考えれば決して悪いことではないと私は考えてます。

(おそらく、そこまでやる人は少ないでしょうけど)


次に「2:フレーゲの意味論とフッサールの言語表現の諸位相の違いが分かり易く解説されている」について。

すでに紹介したベース本1『これが現象学だ』とベース本4『フッサール起源への哲学』にもフレーゲとフッサールの思想を比較した内容が書かれてますが、本書ではより詳しく説明されています。

2冊のベース本では、数の概念の場合、フレーゲは「同数概念」フッサールは「集合概念」と考え、論理学の概念の場合はフレーゲは直感と経験とは無関係に独立している(第三領域)ものとし、フッサールは直感(的)経験(的)な基礎を持つものという説明に留めています。


それに対し本書では、論理学の概念については

・フレーゲ:文脈原理(文全体のまとまりに注目)

      意味論(表象・意味・意義の三位相)

      文中心主義



・フッサール:連想の原理

       言語表現の諸位相
       (物質的基盤・心理的な位相・表現作用・表象される内容)

       意味中心主義

といった事柄をそれぞれ詳しく解説しています。



箇条書きなので両者の違いが全く分らと思いますが、本書を読めばはっきりと理解できるのでそこは安心してください(汗)

ポイントとしては、フッサールはフレーゲが見いだせなかった「志向性」を駆使して狭議の論理学(言語と論理)を超えて‘’知覚‘’の志向性を手に入れたところにあります。

この‘’知覚‘’の志向性がなければ現象学は生まれていなかったでしょう。

これと引き換えと言っては何ですが、フッサールはその後この‘’知覚‘’の志向性を展開したため、彼の論理学は後の論理学者に受け入れられず、フレーゲの論理学が分析哲学の祖と言われるようになったのは考え深いものです。

最後に「3:現象学的還元の意義を3つの異なったフッサール像を元に解説している」について。

‘’現象学的還元‘’はこれまで紹介してきた全ての書籍に解説されています。

どの書籍にも共通している意義としては

「絶対に疑うことが出来ない‘’純粋意識(超越論的主観性)‘’に還って、そこで意識が世界をどのように「構成される」かを記述するため」

というニュアンスになります。

そして‘’現象学的還元‘’を実施するために‘’エポケー(自然的態度の一般定立の停止)がどうしても必要になるわけです。

本書では、これを「デカルト的基礎づけ主義」の顔としてとりあえず挙げています。

注意して欲しいのは、著者は決してこの意義をデカルト的基礎づけ主義とみなすことに賛同しているのではなく、あくまでもそういった面で見られても仕方がないし、現にそう見なしている人が一定数いるからフッサール像の1つとして紹介しているに過ぎません。

なので、誤った見方も含めた上での3つのフッサール像になります。


残り2つは、「生の哲学者としてのフッサール像」と「志向性に訴える反自然主義者としてのフッサール像」と著者は言いますが、詳しい内容は本書で確認してください。

以上、3点の特徴を挙げましたが、フッサール現象学の一般書でここまでオリジナリティに「志向性」を解説したものは少ない印象です。

とても残念なのは、著者が若くして亡くなられたことです。

もし存命なら、一味違うフッサール現象学の入門書が世に出ていたかもしれません。

(本書で扱われなかったフッサール後期を含んだ入門書が)

他の解説書にはない独特なフッサール像を見せてくれる著者の力量には感服します。


・ベース本7

◯ 『フッサールを学ぶ人のために』 著:新田義弘 世界思想社 2000年


『◯◯を学ぶ人のために』シリーズのフッサール版である本書は、この記事で紹介する書籍の中では唯一の共著になります。


すでに紹介した解説書の著者はもちろんのこと、今となっては有名な専門家が多数執筆しています。


大まかな構成としては

・討論

・フッサールの現象学

・フッサールと同時代の思想

・フッサールと関連のあるフッサール以後の思想

・今後の現象学の課題と新しい展開方法

となってます。


執筆者ごとに大体20ページほどの分量なので、目次を見て気になった箇所から読み始めても全く問題ありません。

すでに紹介したベース本を読んで内容を理解出来ていれば、本書の「フッサール現象学」に関する内容はパパッと片付けられるかと思います。

(復習する感じで読めるはず)

※例外として「空間と身体」を扱っている節ではキネステーゼの詳細を『物講義』に沿って、これまで紹介したどの解説書よりも細部にまで説明しています。

簡略化していうと、フッサールは空間の三次元性を視覚に直接与えられているのではなく、線的な多様体と円環的な方向転換の多様体が結合し、それによる物の「物体的形態の完結性(閉鎖性)」が構成されることで誕生すると考えるのですが、その工程の説明を加えた上でキネステーゼを解説しています。



さて本書の特徴ですが

1:討論が面白すぎる

2:ガダマー、ベルクソンらと比較したフッサール思想を読み取れる

以上2点が挙げられます。


まず「1:討論が面白すぎる」について。

この記事の前半部で「フッサール現象学は色々な解釈がどうしても発生してしまう」と言いました。

本書の冒頭に掲載されている「討論」でも、専門家らによるフッサールの捉え方(見方)の違いが読み取れます。


一部を取り上げると、野家伸也はフッサール現象学の中心にある問題を「学問論的な問い」とみなし、『論理学研究』の意味論的な還元が『イデーン』の現象学的な還元に連続的に通じていると考え、それがフッサール晩年の『危機』の問題(歴史の問題)まで及んでいると捉えています。

一方、それとは少し異なった立場である村田純一は、『論理学研究』から『イデーン』の連続性だけなく、『論理学研究』で内容だったものが『イデーン』では対象性の契機とされ、それらを構成する作用との相関関係によって捉える方向転換が起きたと考えています。

両者の討論は、言語的ロゴスvs知覚的ロゴスという形で進んでいきます。


この討論の箇所だけでも読む価値アリです。



次に「2:ガダマー、ベルクソンらと比較したフッサール思想を読み取れる」

本書はフッサールの現象学だけでなく、同時代の思想やその後の現象学の展開といったマクロ的な視点を含んだ上でフッサールを解説しています。


すでにこの記事で紹介した解説書の中にも、フレーゲ、マッハ、ブレンターノ、ハイデガー、サルトル、メルロポンティー、レヴィナスらと合わせてフッサール現象学を紹介したものもありますが、本書ではそれ以外にガダマー、リクール、ベルクソン、アンリらも登場します。

特にフッサールの時間論に興味がある人は、ベルクソンの思想は外せないでしょう。


よく「フッサールとベルクソンが出会っていたら今とは違う思想が生まれていたかもしれない」というツイートを見ますが、実はこの2人は書簡を取り合っていたそうです。

(その媒介者となったのがプラグマティズムで有名なジェームズです)


執筆者である木岡伸夫は、ベルクソンを現象学とプラグマティズムの中間に位置づけるようと試みます。

「直観」に対する捉え方が全く違う三者をどのように料理しているかは必見です。



また、本書ではシステム論と現象学を比較した内容も掲載されています。

一般システム論、社会システム論、オートポイエーシスを挙げて、フッサール現象学の「相互主観性」と「地平」を手引きとして、両者に共通する目指すものとは何なのか?について解説しています。

構造主義やポスト構造主義の思想とフッサール現象学を比較して解説した解説書はすでに紹介したベース本でも多くありますが、システム論との比較は本書だけなので新しい発見があるかもしれません。


以上、2点の特徴を挙げましたが、すでにお伝えしたように本書は1ページ目から通読するというよりも興味がある箇所から読むのが適切です。

本書がフッサール現象学のみならず、それを核として周りにある様々な思想を過不足なく扱っている点では、この記事で紹介している解説書の中で群を抜いてます。


そういった意味でも読んでおきたい1冊です。



・どの順番で読むのが良いのか?

このSTEP2で紹介した解説書はそれぞれ性格が違うので「この順番が絶対に良い!」と断言するのは難しいですが、STEP1を終えた時点で「出来るだけ分野を限定しないでなるべくバランスよくフッサール現象学を学びたい」と思ったなら、

『フッサールの現象学』⇒『フッサールを学ぶ人のために(ⅠとⅡの箇所)』⇒『フッサール起源への哲学』⇒『フッサール 心は世界にどうつながっているか』の順に読むのがオススメです。

(個人的はこの順が1番良いと考えてます)



また、内容の面白さでいったら(あくまでも個人的にですが)

『フッサール起源への哲学』⇒『フッサール 心は世界にどうつながっているか』⇒『フッサールを学ぶ人のために』⇒『フッサールの現象学』の順で、

読みやすさでいえば

『フッサールを学ぶ人のために』⇒『フッサール起源への哲学』⇒『フッサールの現象学』『フッサール 心は世界にどうつながっているか』の順でしょうか。


いずれにしても、これら4冊を読めばこのSTEPの目標「基礎を固めつつ、代表的なフッサール現象学の解釈を知る」は達成できるはずです。

なお、このSTEPの解説書を読んだら、自分がフッサール現象学のどの分野に興味があるのかをある程度定めておくと良いでしょう。


このSTEP2に入った時に、バランスよくフッサール現象学を学びたいと思った人も4冊を読み終えた時には興味ある分野をピックアップしておきましょう。


どの分野に興味があるかないかで次のSTEP3で紹介する解説書の読み方も変わってくるので。


■STEP3:一般人最強のフッサール現象学の知識人を目指す


ずいぶん大それたSTEP名ですが、このSTEPで紹介する3冊の解説書を読み理解できたら、ちょっとしたアマチュア専門家になれるでしょう。


今言ったことは半分冗談ですが、いずれにしても3冊とも内容が難解であることは間違いないです。

でも、STEP2までに紹介した解説書を読んできた人なら、十分読みこなせると思いますし、よりフッサール現象学の奥深さを実感することができるでしょう。



・ベース本8

◯ 『フッサール・セレクション』 著:立松弘孝 平凡社ライブラリー 2009年


1976年に出版された『世界の思想家19 フッサール』を改題した本書は、アンソロジー形式なので実際のフッサールの著作に書かれている文章が多数紹介されています。

(ただし「生活世界論」については収録されていません)

フッサール現象学の思想(特に重要な用語「志向性」「形相的還元」「現象学的還元」など)を解説書経由ではなく、直接フッサールの著作から知りたい人なら本書を最初から読んでも全然OKです。

ただ、おそらくフッサール現象学を何も知らない人はもちろんのこと、ある程度哲学の知識がある一般人がいきなりフッサールの文章を読んでも高確率で撃沈するでしょう。

なので、ある程度フッサール現象学を知った上で読んだ方が良いと判断し、このSTEPで紹介することにしました。

(このSTEPまでくれば「ある程度」のレベルは超えていると思いますが)


また本書では、フッサールの生涯についても書かれていて、STEP1で紹介した『人と思想 フッサール』と同等のページ数があてられています。


では本書の特徴ですが、

1:『第一哲学』の引用が掲載されている

2:主要著作の解説が一覧として掲載されている

以上2点が挙げられます。



まず「1:『第一哲学』の引用が掲載されている」について。

アンソロジー形式なので、なかなか特徴を見いだすのは難しいのですが、強いて言えば『第一哲学』の引用が多数掲載されている点が挙げられます。

というのも、私が知る限り『第一哲学』は翻訳されていないので、日本語訳で書かれている文章の多くを知るには本書くらいしかありません。


ちなみにフッサール全集では7,8巻に収録されています。

どんな内容が書かれているかはご自身の目で確かめて欲しいのですが、私の印象としては『危機』のベータ版みたいな感じです。

(『第一哲学』を通読したら印象は変わるかもしれませんが)


こう言われると

「そこまで重要な著作ではなさそう」

と思ったかもしれませんが、専門家によってはこの『第一哲学』が大きな転換点と捉えているので、決して無視できない著作であることは間違いないです。


なお、本書はフッサール著作が出版された順に沿って紹介されているわけではありません。

分野ごとに『論理学研究』からの引用⇒『イデーン』からの引用という流れではなく、『デカルト的省察』からの引用⇒『厳密学』からの引用⇒『イデーン』からの引用⇒『デカルト的省察』からの引用みたいに順不同で紹介されています。


次に「2:主要著作の解説が一覧として掲載されている」について。


すでに紹介した解説書の中には主要著作が一覧として載っているものが多いですが、本書は各著作の内容が短いながらも丁寧に書かれています。


先ほど挙げた『第一哲学』のように翻訳が出ていない著作を含め、多くの著作を取り上げています。


専門家でない限り、フッサールの主要著作を全部読むのは骨が折れるので、今後読むつもりのない著作がどういった内容かザッと知るには格好が良いでしょう。


以上、2点の特徴を挙げましたが、本書はSTEP1で軽く紹介した『現象学事典』のように辞書的な役割としても使えます。

巻末の索引で調べたい用語がどのページに掲載されているかを確認して、該当ページでフッサールの文章からその意味を知り、『現象学事典』でさらに詳しく知る、みたいな活用の仕方が良いかなと。


また、STEP2の最後で

「このSTEPで紹介した解説書を読んだら、自分がフッサール現象学のどの分野に興味があるのかをある程度定めておくと良いでしょう」

と言いましたが、もし興味のある分野が決まっていれば、それに該当する箇所を中心的に読むのも良いかと思います。

(「生活世界」に興味がある場合は、そういった読み方は出来ませんが・・)

逆に、具体的に興味がある分野が定まってない場合は、自分が理解できている分野の箇所をとりあえず読んでみてください。


解説書では味わえない生のフッサール文章を通じて、よりフッサール現象学を理解できるはずです。


・ベース本9

◯ 『現象学とは何か』 著:新田義弘 講談社(講談社学術文庫) 1992年


この記事で紹介している解説書の中ではラスボスと言っていいほど難解です。


Amazonや読書メーターにレビューを見ると「難しすぎる」「最初の数ページで挫折した」のオンパレードです(汗)

私もベース本1『これが現象学だ』とベース本2『現象学入門』を読んだ後に「絶対分からないと思うけど当たって砕けろ」と思い読みましたが、理解出来たのは2割くらいでした。

その後、5回ほど読んでやっと全体の8割くらいは理解できた感じです。

そんな一般人にとってはレベルが高すぎる本書ですが、STEP2までの解説書を読んで内容をしっかり理解できたなら、この解説書がいかにスゴい内容か実感することが出来るでしょう。


著者である新田義弘は、フッサールの直弟子だったフィンクに師事し、日本に現象学を切り拓いた日本現象学界の大御所の大御所です。

(ちなみに著者は、鎌倉幕府を滅亡させた1人である新田義貞の末裔だそうです)


そして本書『現象学とは何か』に影響され、今では有名になった専門家は数知れず。


この記事で登場した、田口茂、谷徹、斎藤慶典、村田純一をはじめ、鷲田清一、河本英夫らといった専門家も少なからず本書に影響を受け、著者と親交を結んでいました。

そんな本書はもともと1968年に紀伊国屋書店より刊行され、この記事で紹介している解説書の中でもっとも古いものになります。


当時の研究状況においてはフッサールの間主観性(相互主観性)に関する遺稿が刊行されていなかったので、その部分についての内容は本書では書かれていません。

それにも関わらず、示唆に富んだ内容が多く含まれているのは間違いありません。


では本書の特徴ですが、

1:随所に当時の研究者の見解と合わせてフッサール現象学を解説している

2:『第一哲学』を最大の転換期として捉えている

以上2点が挙げられます。



まず「1:随所に当時の研究者の見解と合わせてフッサール現象学を解説している」について。


先ほど著者がフッサールの直弟子だったフィンクに師事していたと言いましたが、それが影響してか当時の研究者(フッサールの弟子も含む)の見解も含んだ上で解説しているのが目立ちます。


本書が難解な理由を1つ挙げるなら、著者の主張とこうした当時の研究者の主張が多数書かれていて、それらの主張とフッサール著作から読み取れるフッサールの思想との関係性を把握するのが大変な点にあると言えます。

それに加えて文章もかなり独特で、全体的に「◯◯的◯◯」や「◯◯的◯◯的◯◯」のような表現が多くされているので余計内容が難しく思えてくるのかもしれません。


なので、STEP2までの解説書を読んで内容が理解できていたとしても、一読しただけでは3者の主張の関係性を完璧に読み取るのは難しい可能性があります。


その場合は、とりあえず著者の主張を読み取ることを優先にして、それが出来たら当時の研究者の主張を読み解いていく形で読んでみることをおすすめします。


せっかく本書を読むのであれば、当時の研究者の代表的なフッサール現象学の見解を出来る限り知っておくべきです。


それを正確に知るためには実際に当時の研究者が書いた書籍を読むべきでしょうが、一般人にとってそこまでやるのは現実的でないでしょう。

(ちなみに著者はそうした研究者による書籍の多くを翻訳されています)


後半になればなるほど、当時の研究者の主張を多く含んだ解説がされているのでゆっくり読み解いていきましょう。


次に「2:『第一哲学』を最大の転換期として捉えている」について。


本書はフッサール現象学の後期思想を中心として書かれているので、よく言われている前期〜中期(『論理学研究』〜『イデーン』を中心とした時期)についての解説は1章分しか書かれていません。

(と言っても、めちゃくちゃ内容は濃いですが)


メインである後期思想を解説する前の橋渡しの役割として『第一哲学』についての解説が1節分書かれています。


すでに紹介したベース本8『フッサール・セレクション』の特徴して『第一哲学』が出てきましたが、本書で著者は、この『第一哲学』の中でデカルト的方途から非デカルト的方途へ明確に向かっていたことが読み取れると言っています。


これは『イデーン』の時期から続けてきた「永遠の哲学への志向」が『第一哲学』の構想において必然的に放棄しなければならなったことを意味します。


なぜそうなったかは本書を読んで確かめて欲しいのですが、要はフッサールの自己解釈と事象の間にズレが生じてしまったからにあります。


この記事の前半に

「フッサールは、もし事象がそれを強いるならいつでも自分の理論体系すべてを放棄する用意があった」

ことについて触れましたが、まさにそれが『第一哲学』で行われたことになります。


フッサールはその後『デカルト的省察』を待つまでデカルト的方途を封印します。


また、著者はこのフッサールの挫折と転換が、ハイデガーの『存在と時間』の現象学的立場から後期の思惟の立場への移行との共通点を挙げています。


『第一哲学』にここまで注目して、かつそれを挫折と転換期として捉えて解説しているものはなかなかないでしょう。


扱っているページ数は10ページほどですが、この箇所を読むだけでも大きな価値があるのでぜひ注目して読んでみてください。



ちなみに、ベース本2『現象学入門』の著者である竹田青嗣は『現象学とは何か』(全く同じタイトルの本)の中で、ここで取り上げた転換は決して挫折&放棄なのではなく、ただ単に探求領域の転換に過ぎず、方途そのものの本質は変わっていないと主張しています。



以上、2点の特徴を挙げましたが、本書の後に刊行された『現象学』という解説書があるのですが、こちらも非常に内容が濃いです。

(本書では扱っていない「相互主観性」についても書かれています)


私としては、こちらの方が『現象学とは何か』よりも若干読みやすかった印象があるので、もし本書を読んで難しいと感じたら『現象学』をまず読んでみるのもアリでしょう。


ただ、内容のインパクトと読み応えの点からいえば断然『現象学とは何か』の方が強いです。


また、同著者の『哲学の歴史』も余裕があれば読んでみてください。


というのも、よくある一般書向けの哲学史本とは違い、各時代の哲学の問いを‘’知識の成立の仕方‘’の面に焦点を当てて解説しているので、これまで哲学史の書籍を多く読んできた人でもまた違った視点で哲学の歴史が学べると思います。


新書に限っていえばTOP3に入ってもおかしくないほど面白いので是非こちらも。



・ベース本10

◯ 『フッサール』 著:田島節夫 講談社(講談社学術文庫) 1996年


本書はもともと1981年に刊行された「人類の知的遺産シリーズ」の『フッサール』が文庫化されたものになります。

「人類の知的遺産シリーズ」は、扱っている人物の著作から抜粋した文章が多数掲載されていて、かつ著者による解説もしっかりしているものが多いと評判があります。

本書もその例外ではなく、ベース本8『フッサール・セレクション』よりも、まとまった形で文章が引用されており、各引用の前後に解説がなされているので実際にフッサール著作を読むの際の参考書的な役割としても活用できます。


また、フッサールの生涯&フッサールと関係がある人物(ハイデガー、サルトル、メルロ=ポンティ、ライル、ヤコブソン)も紹介されています。

フッサールの生涯については、すでにベース本3『人と思想 フッサール』ベース本8『フッサール・セレクション』にも書かれているので、もしそちらを読了済みであれば読んでも新しい発見はないかと思います。

一方、フッサールに関係がある人物については、2ページ半ほどですがライルについて書かれています。

ライルは、イギリスに現象学を紹介し、同時に批判者でもあるとともに分析哲学の指導者でもありました。


ネット上にライルが現象学を語った書籍の翻訳がアップされているので、もし興味があれば下記リンクをクリックして読んでみてください。

⇒ 『現象学』 著:ギルバート・ライル 訳:青柳雅文

そんな本書ですが、全体的に難解で一定のフッサール現象学の知識がないと読み進めるのは困難と言えるでしょう。

(といっても、ベース本9『現象学とは何か』よりは読みやすいですが)


本書の特徴ですが、

「『論理学研究』の解説が充実している」

が挙げられます。

もちろん『論理学研究』以外の主要著作の解説もあり、どれも詳しく書かれています。


ですが、圧倒的に『論理学研究』についての解説が抜群で約150ページにわたって書かれています。


ベース本6『フッサール 心は世界にどうつながっているか』では第1,5研究に絞って「志向性」について解説されていますが、本書は『論理学研究1巻(序章)』はもちろんのこと、第2巻にある第1~6研究全てを扱っています(もちろん主要ポイントに絞ってですが)

一般人向けの解説書でこれほど『論理学研究』について詳しく書かれているものはないと言えます。


※なお専門書レベルであれば植村玄輝の『真理・存在・意識 フッサールの『論理学研究』を読む』がおそらく現時点でもっとも優れた『論理学研究』に関する解説書(研究書)だと思います。


一般人がフッサールの現象学に興味を持っても『論理学研究』は敬遠されることが多いです。

なので「たぶん今後『論理学研究』を読むことはないだろうなー」と思っている人は、とりあえず本書の内容だけでもおさえておくと良いでしょう。


なお、本書が刊行されたのは約40年ほど前なので、フレーゲ批判がきっかけで『論理学研究』の構想が練られたという形で解説は進んでいます。


よって、今の定説とは違う箇所も少なからずあるのでそこは注意してください。


・どの順番で読むのが良いのか?


このSTEPの段階まで来ると、1冊を完読してから次の1冊を読むというよりも、自分の目的に沿った読み方をする方が良いでしょう。


STEP2までに自分が興味を持った分野が書かれている章(節)を目次で探して、それに該当する箇所を3冊同時並行に読むのが1番良いかなと。



逆に、少し理解が曖昧な分野をあえて選んで読むのも良いかもしれません。


というのも、この読み方をすれば高確率で一読しただけは理解できませんが、何度も読むことで徐々に理解してきて再度STEP1~2の解説書を再読することで「あーこういうことだったのか」と以前よりも理解できやすくなるからです。


難しい内容を読めば読むほど、多くの解説書の内容が分かるようになるはずなので、あえてこの読み方もアリなのかなと。



STEP3の解説書はどれも難解なので読むのに時間がかかると思いますが、読めば読むほどフッサール現象学の面白さが増してくるのでぜひ挑戦してみてください。


■さいごに


ここまでお読み下さりありがとうございました。


フッサール現象学の解説書はこの記事で紹介した以外にも沢山あるので、

「あの解説書が入ってないのはおかしい」

と思った人もいるかもしれません。


また、メルロ=ポンティの『知覚の現象学』の「序文」やフランスに現象学を広めたきっかけとなったレヴィナスの『フッサール現象学の直観理論』などといった有名な現象学者が書いた現象学についての書籍も紹介するべきだと考えた人もいるかもしれません。

さらに言えば、

「この解説書はこのSTEPで読むべきじゃないだろ」

と異論する人がいるのも当然でしょう。

冒頭でも言ったように、あくまでも独断と偏見で紹介しているので、この記事で紹介した通りに解説書を読むのが正解だということは全くありません。

もし「こういったルートで解説書を読む方が良いよ!」という人がいたら是非コメントください。


それと、この記事は今後ところどころ修正するかもしれません。

(今後、もっとたくさんのフッサール現象学の解説書を読んでいく予定なので)

なので、すぐに修正したタイミングで記事が見るために良かったらブックマークの代りにスキを押しておいてくれると嬉しいです。











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