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残された時間は10分。あなたはどうする?

父は待つのが苦手な人である。
家族で旅行に行く時など誰よりも早く
車に乗り込み、「お母さんはまだか?」と
僕ら息子に尋ねる。
痺れを切らした父は「お母さんの様子を見て来い」と言う。
出たばかりの家に戻り、
「お母さーん、まだー?」と聞くと
家の戸締まりやガス、電気、など色々と確認していた。
母は色々と大変なのだな・・・
その様子を見て
「待つのが苦手な大人にはなるまい…」
そう自分に誓った。

かくして大人になって私は待たされる事は
平気だが待つことが何より苦手になった。

待たされる事は平気だが、待つことが苦手、、、

似ているようで違う。

待たされるとは相手が遅れている状態で
待つとは自らその場所に向かい時間まで
待つ状態。

ラーメン屋さんの行列とか、グッズの列とか
なんとかワープ出来ないものか、、、
ファストパスとか大好きである。

まぁみんなそうか。

そして、何より苦手なのが
電車をホームで待つ時間、である。

アプリを駆使してちょうど良いタイミングで
ホームに立つことに全力を注いでいる。


「あと10分か」
新幹線運行スケジュールを考えると
10分くらい待つのは普通だと思う。
しかし、この10分をただ立っているのも
なんかヤダ。


んーーーー、あっ!

名古屋駅といえば「きしめん」
きしめんは名古屋駅以外で食べた事ないかも。

10分か、、、
脳内でシミレーションする。
オーダーから1分、8分で食べればイケる。

気がつけば
「牛肉(玉子入り)きしめん」660円
「いなり」140円
食券をカウンターに置く。

「はーい、牛きしと稲荷ね」
さぁ試合は始まった。

「牛肉きしめん、ちょっと温めるので
順番前後しちゃっうわ。すみませんねー」


なぬ!想定外な出来事。

いや、落ち着け、まだ大丈夫だ。


気持ちはピットインでタイヤ交換を待つF1
パイロット。
チーム住吉、敏腕クルーが山菜きしめんを
隣の人に出す。

お肉のパウチを温めてるのを確認し、
よし、次だ。

丼に温めたきしめん、汁をかける。
その上に牛肉をオン。
さらに汁をかけて生卵を乗せる。

ここまで180秒。

どーん!


さぁ来たぞ!チラッと時計を見る。
あと6分半。よしっ!とルイス・ハミルトンばりに
アクセルを全開‼︎パキッと箸を割って、

ズルズルズズズズーーーーッ!
フェラーリに負けないくらいの
エキゾーストノートを響かせ一気に第一コーナー
「フーフーフー」とエアブレーキを効かせて
ズルズルーズルーー!!!

と、順調に思えた瞬間クラッシュ‼︎
焦ったのか噛んだ!下唇がバースト‼︎
これはマズイ!ペースダウン。
お水ストップに入り、体制を整える。

ふーっ。時計を見る。
あと4分。残りラップは3周。行けるか?
残すか?と考えながらお稲荷を頬張る。
バーストした下唇がジンジンする。

なに、これが生きてるって証拠さ、、、
と訳わからない思考回路。

再び麺を持ち上げる

よし、一気に行くしかない!
ピットからもプッシュプッシュ!と言われてる気がする。

麺で隠していた卵を混ぜる。
これでエンジンが冷めてきたことも後押しし、
一気に麺を啜る。
ところで、啜るって
口に又を4つ書くんだね。まるでタイヤのようだ。
まさにフォーミュラワン!

チェッカーフラッグはもう近い。

まもなく◯番線に列車が参ります

はっ!アナウンスが聞こえる!
頑張れ!行ける!
残っている稲荷を一気に食べる。
きしめんと稲荷の相性が良すぎる。
美味い。

さぁ最終コーナーを曲がってホームストレート!
ご馳走様ー!

完食。そして、ちょうど新幹線が
ホームストレートを滑るように入ってきた。
タイミングバッチリ。

席に座りジンジンする下唇を少し舐めながら
やっぱりムリするのは辞めようと誓った。
待つことにも慣れていこうと、そんなことを思った。

あなたはどっち?

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