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【意味不明?】映画『TAR/ター』ネタバレ完全解説 Part② シピボ族とオルガ編

前回書かせていただいた映画『TAR/ター』解説記事の続きです。
ありがたいことにたくさんの方々に読んでいただきました。
今回は前回よりもさらに踏み込んでみたいと思います。

Part1はこちら


ターが研究のために訪れたシピボ族について

劇中でシピボ族についての言及は冒頭のトークショーでしかされないのですが、この映画ではシピボ族の文化や部族独自の思想を介した表現が頻繁に登場します。
逆に言えばシピボ族の文化や思想を理解している人間じゃないと、この映画が表現していることを完璧に読み取るのは不可能なのです。
この記事を書いている私もシピボ族の存在をこの映画で初めて知ったので、完璧に理解できていません。
しかしシピボ族についてわかりやすく解説されておられる方の記事を見つけたのでご紹介したいと思います。


かなり私たちの思想とはかけ離れた思想や文化だと思うのですが、主人公ターやクリスタなどはこのシピボ族独自の文化や思想に精通しています。
なので心理描写が難解な映像になっているのです。

ではこの映画に出てきたシピボ族関連の表現を見ていきたいと思います。

冒頭のスタッフロールシーンで流れている謎の歌

冒頭5分くらいかけてスタッフロールが流れると思うのですが、あの後ろで流れている歌は主人公ターがシピボ族のもとに研究に訪れた際に、シピボ族のシャーマンが歌い上げるイカロと呼ばれる治療歌を録音した時の音声です。
あの歌が始まる前に「マイクがないと思って自然に歌って」などのターによるシャーマンへの指示が字幕に表示されています。
ちなみにあの歌を歌われているのはElisa Vargas Fernandezという本物のシャーマンのアーティストの方らしいです。

Elisa Vargas Fernandez

ターが見る悪夢

ターが悪夢を見るシーンがいくつかあったと思うのですが、あの悪夢にはシピボ族の文化や思想が反映されています。
私も完全に理解はできていないのですが先ほどのシピボ族についての記事の中にあった母なるアナコンダ「Ani Ronin」があの夢のシーンの中に登場しています。
これは私の予想なのですが、ターが今までの悪事に対して自責の念を抱いているというターの心理を表現するために、ターが神聖な生き物「Ani Ronin」に襲われる夢を見ているというシーンを入れたのではないのかな?と思っています。
(分かりにくいですがターが池みたいなところで寝ている夢のシーンで、水中で「Ani Ronin」がターの方に向かって泳いでいます。)

冒頭のトークショーでのシピボ族についての言及

冒頭のトークショーでターは過去に作られた音楽の解釈について
「シピボ族は音楽を作った過去の精霊と歌い手が世界の表と裏で繋がる時に歌を受け取る」
みたいなニュアンスのことを語っていたと思います。
これも予想なのですが劇中で起こる現実的ではないスピリチュアルな現象は、ターが過去してきた悪事と現在のターの心理状態が繋がったときに起こっているのではないかなと思います

ターのシピボ族思想への傾倒

劇中ではあまり強調されませんがターはシピボ族の文化や思想にかなり傾倒しているんだと思います。
劇中何度か映されるキャンドルに火をつけて深呼吸をする儀式のような行動や、自身がシャーマンに治療を受けている写真を家に飾ったりしているところから傾倒度合いが読み取れます。

ターの性認識について

音楽学校での授業

最初の音楽学校での授業シーンで、女性に対して差別的だったバッハの音楽は聞かないという黒人生徒に対して、自身や作曲者の性的嗜好と音楽的解釈は分けて考えなさいと威圧的に詰め寄るシーンがあります。
しかし彼女自身、自身の性的欲望を軸に他人を操って地位を高めてきた過去があり、映画でも完全に自分の好みのロシア人女性チェロ奏者を楽団員に取り入れて、彼女が一番目立つであろうチェロ協奏曲を独断で演目に取り入れます。
彼女自身も性的嗜好と音楽を分け隔てられていないのです

そしてこれは映画内の人物だけではなくsnsが発展した今現在の我々にも当てはまります。
昨今話題となっているジャニー喜多川氏の性暴力や市川猿之助さんのハラスメント報道などのように、その人物のプライベートでの行動と聴衆の前に立つ際のパフォーマンスとを完全に分離して考えることはできていません

ターもその二つを分離して考えるということが出来ない世論によって没落してしまいます

娘ペトラへのいじめに対する対応から見えるターの性暴力

娘ペトラがいじめを受けていると知らされたターは学校に乗り込んで行って、加害生徒に「次やったらぶちのめす」と脅迫します。
そして「もし誰かに言いつけても私は成長した大人だから誰も信じないよ」と続けます。
このシーンはターの女性への性暴力とそれに対する認識を暗示しています。
音楽業界では私は名声と権力を持っているからもし私の悪事を誰かに言いつけたとしても世間は誰もあなたのことなんか信じないよ」

実際にターはクリスタを自身の権力を行使して音楽業界から完全に締め出して、クリスタの信ぴょう性を下げることによって告発を揉み消していました。
しかしクリスタは自殺という最終手段を行使してまでターを没落させました。
劇中では描かれていませんがクリスタへの性暴力は想像を絶するものだったのではないでしょうか

ターとオルガについて

オルガとの出会い

ここから少し恋愛映画っぽくなりますが、ターとオルガが初めて会った場所は楽団員のオーディションの直前での女子トイレです。

ターが洗面台にいる時にオルガがトイレに入ってきて、ターはオルガに一目惚れします。
オルガが個室に入った後ターは下から個室を覗き込んで、オルガがヒールブーツを履いていることを確認します。

その後のオーディションでは候補者の姿を隠してターたちがどちらの演奏が良かったかを決めますが、二人目の演奏が終わり、その演奏者が出口に向かう時にターはその演奏者がヒールブーツを履いていることを確認します。
つまりあの時点でターはどの演奏者がオルガだったのかを特定して、自身がただオルガのことが好きだからという個人的な嗜好だけでオルガに投票します。

オルガとの恋

オルガを楽団員にした後ターはオルガに対して特別扱いをし続けます。個人レッスンをしたり彼女の若い時の演奏ビデオを満面の笑みで鑑賞したりとオルガへの愛が抑えきれません。
オルガの演奏ビデオを見たターは勝手にそのビデオでオルガが演奏していたエルガーのチェロ協奏曲を演奏することを決定して、楽団でずっとチェロを弾いてきたゴーシャを第一チェロにするべきところをオーディションにすると言って、新入りのオルガに弾かせようとします。
そしてこのことを楽団員の前で発表したシーンでの楽団員の表情に注目してみてください。全員違和感を感じています。
特にターの妻のシャロンに関しては、ターがオルガに恋していて彼女を第一チェロにさせようとしていることに気づいていたと思われます

オルガとの別れ

オルガとの恋はあっさり終わりを迎えます。オルガとニューヨークの出版記念会見へ赴いた時、世間はターの性暴力についての反発が凄まじく、オルガもこれ以上ターの元にいても自分になんのメリットも無いと感じたのでしょう。
ターの会見中に後ろの方で男と楽しそうに談笑しています
その後のホテルでもターと一緒に過ごすのを「早く寝たいから」と言って拒否。
しばらくしてターが水を取りに行こうと部屋を出ると、髪を綺麗にセットしたオルガがエレベーターに乗って外に行こうとしているところを目撃してしまいます。
オルガは「早く寝たい」とターに嘘をついて男遊びに行ったのです

フィリピンにて

ターが全てを失ってフィリピンで再起を図っているところで、彼女はマッサージ店に行きたいとホテルの男性に告げたところ、ターは案内されたマッサージ店でマッサージ師の女性をたくさんの中から選ぶように言われます。
この店がただのマッサージ店なのか風俗店なのかがはっきりしないのですが、お店がやけに豪華爛漫なのを見るに風俗店なのでは無いかなと思っています。
そしてこのマッサージ師たちの配列はオーケストラの演奏者の配列ととてもよく似ています

マッサージ師たちには番号の名札が割り当てられているのですが、5番の名札をつけた女性だけが顔を上げてターの方を見ます。
5番はターが演奏しようとしていたマーラーの交響曲第5番と同じで、このマッサージ師の顔や座っている位置もオルガとよく似ています

たくさんの女性から好みの女性を選ぶ。
奇しくもこれはターが没落した原因となった行動であり、そのことを思い出したターは路上で吐いてしまいます。

小ネタ集

ホテルの部屋の内装

ターの冒頭ニューヨークのトークショーのシーンのあとに、ホテルの部屋を写して誰かがビデオ通話をしています。
あの部屋の内装はスペインのオペラ歌手のプラシド・ドミンゴが気に入っていた内装で、彼は2019年に9人の女性にセクハラ被害を告発されています。
皮肉なことにターも彼と同じ内装を気に入っていたという意味らしいです。

シャロンの薬

ターがニューヨークのトークショーから帰宅するとシャロンが動悸で苦しそうにしているシーンです。
ターは薬が洗面台にあったといって薬を渡しますが、あの薬は実際に洗面台にあったわけではなく、ターが自分のポケットから取り出した薬で、シャロンには嘘をついています。
劇中でターが薬を飲む場面が何度もあったと思うのですが、実はあの薬はシャロンに処方された薬で、ターもその薬に依存しています。
そしてそのことはシャロンには秘密にしています。

ターと娘ペトラが車内で合唱する謎の歌

親子二人で車内で大合唱するシーンがあったと思うのですがあの歌は英語版の童謡、マザーグースと呼ばれる歌のひとつの
「Who killed Cock Robin?コック・ロビンをころしたのは だあれ?」らしいです。
クリスタの自殺やターの没落とかけているのかもしれませんね。

セバスチャンのボールペン

セバスチャンに退団を迫る場面でターはセバスチャンのボールペンを盗んでいます。理由はハッキリしていませんが彼はボールペンをカチカチ鳴らしていたのでそれが癪に障ったのかもしれません。

ランニング中の女性の叫び声

ターのランニング中に聞こえてくる女性の叫び声はオリジナルのものではありません
ホラー映画『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』の女性の叫び声と全く同じ叫び声を使っています。
このことからもあの叫び声は実際に起きたものではなく、ターだけが感じている幻聴だと解釈できます。

オーケストラのリハーサル

リハーサルでターは色々な指示をしますが、遠くから聞こえてくる感じにしたいと言ってトランペット奏者をなんと舞台袖に配置させます。
セバスチャンに第一バイオリンを強くしたほうが良いと言われると、それに反発しますが、お気に入りのオルガが入ったあとは彼女の音が目立つように指示します。
ターがいかに私情だけでオーケストラを操っているかがここから読み取れるのです。

クリスタの幽霊

Part1でターの仕事場にクリスタが立っていると書きましたが実はもう一回クリスタの幽霊が登場するシーンがあります。それはペトラに夜中に起こされるシーンです。画面を明るくしてみてください

椅子にクリスタが座っている

ターの出自

ターが実家に帰るシーンがあると思うのですが、ターの実家はニューヨークのスタテンアイランドで、労働者階級の貧しい家庭の育ちでした。
それを隠すために本名のリンダ・ターをリディア・ターに変えて活動していたという意味らしいです

最後に

この映画が伝えようとしていた意味や伏線について大方拾えたのではないでしょうか。
しかしシピボ族の文化や思想についての表現は理解しにくいところがあるので、シピボ族に詳しい方にこの映画を観ていただいて、見解を聞きたいななんて思っています。


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