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アメリカの善意と資本主義の精神   ~夜勤の読書案内4~

肩をすくめるアトラス

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著 アイン・ランド 訳 脇坂あゆみ
アトランティス

ーおかしいじゃないか。かつて、誰も知らない秘密をあばかれるんじゃないかと人が怖れた時代があった。近頃の人は、誰もが知っていることを誰かがはっきり口にするんじゃないかと怯えている。ー 

                     第二部 二者択一 一二〇頁

まずは、SF小説について

 SF小説です。とはいえ、宇宙船やタイムマシンは出てきません。SFとは、サイエンスフィクションの略で、テレ東の「午後のロードショー」なんかで特集されるようなB級っぽいチープさがイメージ先行しますが、もともとは思考実験の意味合いが強いハードなジャンルでもあります。SFジャンルの大家に、ロバート・A・ハインラインという方がいますが、彼の作品のなかには政治思想が随所に散りばめられています。

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 代表作の一つである「宇宙の戦士」は、のちに機動戦士ガンダムの元ネタとなる作品ですが、作品中の世界は独特の政治体制を採用しています。それは、軍隊に2年間所属すると市民権を得られるというもの。この理由として兵役を経験した者は、自らの意志で、自分自身の利益より公共の福祉(社会全体・人類全体の利益)を優先させるからであるという考えが作中述べられています。主人公は、市民権の取得や軍隊への入隊などは一切考えていなかったのですが、高校卒業後の進路を考えたときに、たまたま好きになった女の子が軍隊に入隊するという話を聞いて、「じゃあ、僕も」といった具合に入隊試験を受けるのです。作中の主人公の成長を通して、軍国主義的な国づくりを賛美するような内容で、この作品が発表された当初は、世間から猛反発を受けたそうです。なぜ、ハインラインはこのような小説を作ったのか。

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 この作品が書かれた1959年というと東西冷戦期の真っただ中で、ベトナム戦争の開戦がちらつき始めていた頃にあたります。ソ連を盟主とした社会主義陣営が、世界中に勢力を拡大していた時期で、アメリカを中心とした自由主義諸国と張り合っていた時期でもあります。国家統制のもと、個人の自由がない社会主義圏に対抗するにあたって、逆に自由すぎて意見も主張もバラバラなアメリカは、この先どうなってしまうのだろうという危惧があったのかもしれません。ハインライン自身には、確たる政治的な思想はなく、軍国主義的な考えもなかったそうです。つまり小説家としての立場から、母国アメリカの現状を鑑みて思考実験した結果が「宇宙の戦士」だったのでしょう。
 このように、SF小説というジャンルは、書かれた時代に起こった出来事の影響を色濃く反映している作品も数多く作られ、特定の政治思想や、最先端の科学技術にデフォルメを加えて読者に問題提起を促すものが多く存在します。

本題


 そして、「肩をすくめるアトラス」は、アメリカ合衆国を舞台として、数々の企業家や資本家が突如姿を消したら、世界はどうなるのかという思考実験です。詳細は後述しますが、お金を儲けることの是非や、資本主義による善意の在り方を描こうする作品です。アメリカでは、聖書に次ぐベストセラー本とのこと。

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