【2022】平成元年発売のテトリス世界大会が さらに大変なことになっている
(2024/06/10追記)
新しい記事を執筆しました!!
テトリスの世界大会(2021)~Intro~
お久しぶりです。はるくです。去年のテトリスの記事について、非常に大きな反響をいただきありがとうございました。
冒頭の文章で始まり、冒頭の文章で終わる、といった構成で終わった前回記事ですが、一年経った今、改めてテトリスシーンがどうなったかを書いていこうと思います。
前回の反響を受けて、2022年の世界大会後に続報の記事を書くことを決めたのですが、その時は1年では大した変化はないだろうと思っていました。結果としてどうなったかというと、さらに大変なことになってしまいました。
たった一年で起きたテトリスシーンの変化、お付き合いいただければと思います。
基本的に前回の話をベースにお話しいたしますので、この記事から知った方やNESテトリスについて思い出したい方は上記の2021年の記事を先にお読み頂ければと思います。簡単にまとめると以下となります。
NESテトリスという海外のレトロゲームのテトリスで世界大会が開かれている
テトリスの高速落下時のブロック移動が間に合わない問題を解決するため、連打による左右移動に特化した<Tapping>というコントローラの操作方法が生み出された
草の根のネット大会の発達とフィジカル有利の操作方法の誕生により、世界中の若者がレトロなNESテトリスに夢中に
2020年末に新たな操作方法である<Rolling>という、コントローラ背面をピアノロールのような方法で高速連打する操作方法が誕生、killscreen(キルスクリーン)と呼ばれる強制ゲームオーバー制度に強く抗う力を獲得
世界大会の結果は<Tapping>のプレーヤーが<Rolling>プレーヤーを抑え2連覇を達成
これらを踏まえたうえで、2022年のNESテトリスシーンについて語るといたしましょう。
前回Tapping王者、Rollingを習得する
前回の記事の締めくくりとして、今後のNESテトリスについて下記のコメントをいたしました。
この記事を書いたのが2021年末でしたが、年明け間もない2022年1月、驚くべきニュースが伝えられます。昨年CTWCを2連覇した"HyperTapper"dog選手が、新たに習得した<Rolling>にていきなりレベル40に到達。NESテトリス界隈に衝撃をもたらしました。
<Rolling>は<Tapping>とは大きく異なる操作性ゆえ、習得にある程度の時間を要する技術だと考えられてきました。
しかし、数か月という短期間による技術習得と、キルスクリーンをLv29からLv40まで10Lv以上耐えきるそのポテンシャルはさすが世界王者というより他なりません。
期を同じくして、Dogさんの兄であり、一昨年は世界大会決勝で対峙したPixelAndyさんも<Rolling>を習得。こちらも2022年1月時点で140万点という大記録を樹立します。
世界大会から年明けにかけ様々な結果や刺激を受け、数多くのプレーヤーが<Tapping>から<Rolling>へ転向し、その爆発力を手に自己ベストスコアを更新していきました。
<Rolling>は私の予想をはるかに上回るスピードでNESテトリスの中心的な技術となっていったのです。
「killscreen以後」がスコア勝負の中心に
<Rolling>が一般化するにつれ、NESテトリスの対戦は<Tapping>全盛だった2021年とはまた違う様相を見せてきました。
<Tapping>によるkillscreenの戦略は、通常のコントローラ操作であるDASの「killscreen=ゲームオーバー」前のスコアリングに対し、操作性で優位に立ち回ることでした。killscreenは<Tapping>であれどあくまで「上乗せ」の勝負でした。連打力によって肉体を消耗するためです。
<Rolling>の技術向上が進むにつれ、上級者の対戦においてはkillscreen以後ですら、すぐにゲームオーバーになることが少なくなってきました。
このことがスコア勝負のトーナメントにおいてどのような変化をもたらしたか。それは場合により「killscreen」前のスコア差が有意差とならないということです。
killscreenの後のプレイによって、数万点のスコアを上乗せすることが可能になり、状況によっては10万点以上のスコア差をひっくり返す芸当も可能にしていったのです。去年の<Tapping>でも大きな変化がありましたが、
今年の<Rolling>は戦い方すら変えてしまいました。
ついにRollingがテトリスを「破壊」する
NESテトリスというゲームは<Rolling>という技術により、エンドレスで遊べる可能性のあるゲームへと変化しています。
しかしNESテトリスは本当は「Killscreen」で終わるはずのゲームだったのです。ファミコンのスーパーマリオブラザーズの「9面」と同じように、NESテトリスのLv30以降は「存在してはいけない」ステージなのです。
NESテトリスのソフトウェアの解析の結果、このNESテトリスというゲームの地平線の向こうに「終末」があることが知られています。
それが「カラーパレットバグ」です。
NESテトリスというゲームは、レベルごとに10種類のブロックパターンが準備されています。しかし、想定していないレベルの遥か先まで到達すると、このブロックパターンのプログラム処理を「破壊」し、誰も見たことがないブロックパターンを出力するようになります。
これをNESテトリスの「カラーパレットバグ」と呼びます。
が、そのバグに到達するために必要なライン数はなんと1320ライン。
killscreenまでのライン数が230ラインという事を考えると、
残りの1000ライン以上killscreenを耐え抜く必要があります。
この事実はツールによるアシストプレイ等により以前から知られていましたが、人類がここまではるか遠くの地平線に到達するなど、<tapping>を駆使しても不可能、と言われていました。
…そう、2021年までは。
―2022年、<Rolling>という新たな武器を得た人類はついに―――
NESテトリスを「破壊」することに成功してしまいました。
まず一人、PAL版(欧州版)NESテトリスにてトッププレーヤーFractal氏が
約40分、3000個以上のブロックを捌く長旅を耐えに耐え、
初の「カラーパレットバグ」到達を成し遂げます。
人類の新たな第一歩がここに始まりました。
人類の快挙はさらに続きます。
CTWCにも用いられる北米版NESテトリスはPAL版よりもゲームスピードが速く、当然ながらkillscreenの操作も難しいため、PAL版ではなくこちらの到達はまだまだ先になると思われていました。
…しかし今年の夏、なんとこちらもトッププレーヤーEric氏によって「破壊」されてしまったのです。…言葉もありません。
歴史的な記録を打ち立てたFractal氏とEric氏、二人のWRホルダー…
別名「破壊者」は、後のCTWC2022においても大きな活躍を見せることになります。覚えておきましょう。
分岐するDASルール ~CTWC DASの開催~
<Rolling>が闊歩するNESテトリスのランキングシーンにおいて、<Tapping>すら過去のものとなりつつ今、<DAS>については完全に「古いスタイル」となってしまったことは否めません。
しかし、それまで何十年も支えてきた「いかに効率よく左右の溜め動作を行えるか」を追求した旧来の<DAS>のテクニックもまた、NESテトリスの奥の深さの一つにほかなりません。
そうした中、「<DAS>オンリーの世界大会」が、CTWC公式イベントとしてドイツで開催されるに至りました。
ルールが違えば戦い方も異なる。彼らもまた、立派なNESテトリスのプレーヤーに他なりません。
久々の現地開催のテトリス世界大会
前回の記事でも述べましたが、2020年から始まった流行り病によって、
CTWCはオンライン化を余儀なくされてしまいました。世界中のNESテトリスのプレーヤーがなかなか会えずにいる中、絶対王者であったJonasさんの訃報という非常に悲しいニュースが伝えられました。…本当に、本当に残念です。
オンライン開催となった2020年、そして2021年でしたが、この悲しみを乗り越え、2022年はついにオレゴン州ポートランドでの現地開催ということになりました。
公式から提供される賞金は以前より据え置きでしたが、今回は一般ユーザーによる寄付金による賞金の上乗せ企画が実施。最終的に従来の賞金プール額を超える13000ドルの寄付金が集まり、Top8は追加で約900ドルを獲得する事になりました。
これも3年ぶりのリアル世界大会による視聴者たちの関心の高まりを感じさせます。
高速の試合展開が新たな「見どころ」に:NESテトリスのesports化
こうして始まった2022年の世界大会ですが、自宅というベストなコンディションで戦えるオンラインと比べて、スコアリングに厳しい側面もあります。しかし蓋を開けてみれば、この1年間技術を積んできた<rolling>プレーヤーが席巻する結果となりました。
まずは予選。実機を2時間プレイしてその間の最高スコアの順に予選順位が決定するルールとなっているのですが、数年前とは異なり、
MAXOUT(999999点)が当たり前のように出る時代になってしまったため、
「MAXOUTの達成回数+次点スコア」でランキングを付けることになっています。さて結果はというと…
51人がMAXOUT。トップ二人は14回MAXOUT。(たった2時間で…)
時間短縮のため<DAS>や<Tapping>では不利なLv19スタートで試走回数を稼ぐなど、従来では見られない光景が繰り広げられました。
TOP層の戦いは完全に<Rolling>に制圧されてしまいました。
下記は去年の画像に今年のプレイスタイルの調査結果を追加したものですが、Top48まで広げたうえでも<Rolling>使いが半数を超える結果に。
また世界が塗り替えられてしまいました。
決勝トーナメントにおいてもkillscreen同士の戦いがひっきりなしに表れ、視聴者としてもエキサイティングな場面が多く見られました。
「見どころ」が分かりやすくなったのです。
ゆっくりとした試合展開のため、現代の高速テトリスや、別ジャンルのFPSといったものに慣れている視聴者にとってゲームの難しさが分かりづらかった面があるNESテトリスですが、2022年以降の戦いは名実ともにesports化したと考えています。
伝説の2022決勝 ~二人の「破壊者」の頂上決戦~
そして、2022年のテトリス世界大会も最終決戦を迎えます。
決勝に残った一人はFractal選手、そしてもう一人はEric選手。
なんとNESテトリスを「破壊」した者同士の戦いとなったのです!
この二人の破壊者のBO5(3本先取)の戦いは、まさに伝説と呼ぶにふさわしい試合展開となりました。
まずは第1試合。気合の入った両者はLv29にてともにkillscreenに突入するも試合は一向に終わらず、なんと両者Lv47、150万点に到達します。
これはリアル大会では史上初、異次元の対戦スコアとなってしまいました。
そんな中、わずかなリードを残しFractal選手が先にゲームオーバー。
残り33000点を上乗せできればEric選手の逆転勝利、となるはずでしたが…
なんとそのすぐ後にEric選手もゲームオーバー、150万という史上最大スコアで競った末の2万点という微差での逃げ切り勝利となったのでした。
会場も配信の視聴者も興奮冷めやらぬ中第2試合がスタート。
今回もkillscreen勝負となり、19万弱という大量のアドバンテージを得た状態でFrectal選手が先にゲームオーバー。
これはさすがに巻き返せない、と思いきや…
なんとそこから耐えに耐え抜き19万点の大逆転!
伝説はこれでは終わりません。第3試合、3戦連続killscreen勝負となったのですが、試合は一向に決着する様子を見せません。
なんと…
史上初だった1試合目の150万勝負を大幅に塗り替える、両者共にDOUBLE-MAXOUT、218万点台での逆転勝利!
テトリス破壊神二人にしか成し得ない、大記録の達成となったのでした。
それではこの決勝戦、最終的にどちらが栄冠を手にしたのでしょうか?
私の口からは伝えるのをやめておきます。
ぜひ自らの目で、ご覧いただけると幸いです。
最後に:テトリスの「リアル大会」の意義とは
2022年のテトリス世界大会は、久々のリアル大会開催、そして昨年以上に劇的な進化と大記録を達成し大盛況の中閉幕いたしました。
この一年、<Rolling>が大会に与えた影響は計り知れません。これからも選手たちは多くの場面でkillscreen勝負を繰り広げることになるのでしょう。
実は、<Rolling>が流行ることで一つ重大な問題が発生してしまっています。それは「ゲームの終わりが曖昧になってしまった」ことによる、試合時間の長期化です。これはリアル大会の進行や運営時間を考えるうえで非常にシビアな課題となりかねません。
今後は試合時間の制約により「レベル上限」や「スコア上限」が設けられる可能性があります。エンドレスゲーム防止を目的にしたであろうkillscreenが「殺され」た結果、人為的なkillscreenが必要になるとは何らかの因果を感じずにはいられません。
もうひとつ、今回は久々のリアル大会でしたが、決着後にお互いを尊重した行動が数多くみられました。今までネット上では幾度となく対戦した相手がすぐ隣にいるというのは、心意気や意気込みもまた違うものです。
NESテトリスの世界大会は対戦形式を取っていますが、戦う相手はむしろNESテトリスというゲームであり、隣に座っているのは共にオンラインで同じ相手と戦ってきた「戦友」なのです。
同じ課題に立ち向かっていた相手と「交流」する機会という意味で、リアル大会の場は欠かせない存在だと思っています。これはほかのゲームイベントでも言えることかもしれません。
おまけ:「日本勢はCTWCに来ないのか?」
流行り病もいまだに収まる気配を見せず、長期の海外旅行が必要となる事情もあるため、今回は日本人によるCTWC参加は一人もいませんでした。
しかし、日本の選手の過去のNESテトリスや、他シリーズ(例えばテトリスザグランドマスターシリーズ)の大きな活躍を目にしている海外のテトリスファンからは、日本勢の参加も強く望まれているようです。
今回の記事では省略しましたが、テトリスエフェクトコネクテッドでも大規模な世界大会が開かれています。以前からesportsに積極的にスポンサードしているHondaによる「Honda Fan Cup」での採用等、公式外でも盛んにイベントが繰り広げられております。
日本においてもNESテトリスやテトリスエフェクトコネクテッドのクラシックテトリスモードの日本人記録をまとめているCTWC Japanのdiscordサーバもあります。皆さんもぜひ、NESテトリスやクラシックテトリスに触れてみてはいかがでしょうか。
このあたりで2022年のテトリス世界大会の記事を締めくくりたいと思います。2023年のテトリス世界大会後にまたお会いしましょう!
参考文献
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