6年目の新芽
美しい花も日陰では、
キレイに咲かない。
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今の会社に入職してから、
もう6年くらいの歳月が経つ。
僕が勤める広告デザイン会社は、
社長が元デザイナーだったこともあり、
デザイナーファーストな思考が強く、
他の職種の人をバカにする風潮がある。
僕が入社した頃から変わらず、
僕以外は皆デザイナーだ。
デザイナー以外の職種の人たちは、
1年ほどで辞めていったらしい。
デザイナーではない入社当初の僕の扱いは、
自分で言うのもなんだが本当に酷く、
時おり脳内のシナプスが
破裂するような感覚がした。
僕の実力不足・経験不足は否めない。
ただ人としての扱いを受けた記憶はない。
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たとえばある時は、
苦手な上司が僕に言う。
「明日までに100案作成」と。
そう言われて、眠らずに作成した。
次の日の朝その上司に見せると、
「会社は君の発表会じゃない。100案作ってどうすんの?何がしたいの?」と僕に言い、
作成したものを読まずしてその場で破り捨てた。
またある時は、
「君の文書は稚拙だ。書き方を日本語学校で学んで来たら?」と言ってきた。
その言葉が脳裏に焼き付き、
僕は卑怯な手を使った。
知り合いのライターに事情を説明し、
僕の代わりに文章を作成してもらい、
その文章を僕が作ったように上司に見せた。
結果は酷評中の酷評だ。
その時、僕は悟った。
この人たちは僕の文章が嫌なのではなく、
僕の存在自体が嫌なのだと。
その文章に対する長い長い説教をされた後に、
僕は「この文章は〇〇さんが作ったものです」と上司に伝えた。
ウチの会社で働いていれば、
誰でもピンと来る有名な外部ライターだ。
すると、苦手な上司は激怒した。
その場でその原稿を破り捨てた。
正解を不正解してしまったことで、
きっと上司のプライドが傷付いたのだろう。
数々の罵倒を受けたが覚えていない。
そんな上司の小さなプライドよりも、
僕はもっともっと大事な何かを失った。
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ただ6年も勤めれば内部はともかく、
有難いことに外部からの依頼が多くなる。
「ウチの会社で勤めない?」と、
ヘッドハンティングされることもしばしば。
僕はそれでも今も辞めずに、
このクソみたいな会社で勤めている。
自分でもよく分からない。
ヘッドハンティングの話も、
丁重にお断りをし続けている。
やっぱり自分でもよく分からない。
転職を勧めてくれるその方々には、
「もう僕の頭は枯れてますから」と
苦し紛れの笑顔で伝える。
でも、本質はそこではない気がする。
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バカにされたまま立ち去るのは、
逃げているようで嫌なのだと思う。
それこそ僕のちっぽけなプライドだ。
ちっぽけなプライドのせいで、
前進なのか後退なのか立ち止まりなのか、
どこに自分が居るのか分からなくなる。
でも、それで良い。
でも、それが良い。
日陰では美しい花は咲かない。
それならせめて汚くても、
芽くらいは出してやろう。
メガッパ
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