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Kも非常勤講師で、担当は語学ではなく専門科目だが、いわば同僚だった。初出勤の四月第二週火曜、ぶじに授業を終えて出勤簿に押印しようと講師控室へ寄ったら出くわした。 「あっ、お疲れさまです~」 世慣れたふうの語尾上げは160センチ少々の痩せぎすにぶかぶかリクルートスーツ姿である。袖に見え隠れする骨ばった手首、角刈りをふた月放っておいたような野暮ったい髪型にシミシワひとつない白皙の顔色で、まさか中学生かしらと疑りつつも、とんがった喉仏と青々しいヒゲ剃り跡に危なげなく「やや年
十月初週、後期授業が始まった。秋雨つづきで鬱々とする中およそ二ヶ月ぶり270分大声でしゃべり続けたせいか、三限の一年生クラスを終えたころにはクタクタだった。 「先生……」 次の教室へ散ってゆく花々を尻目に座り込んでしまい、教卓を挟んで目前に来ていた一輪にも声をかけられるまで気づけなかった。 「ハイハイどうしました」 とにかく腹が減っていた。早起きも久しぶりで朝はバナナにヨーグルトで間に合わせ、それから七時間あまりお茶と煙しか喫んでいない。それまでも昼はアメ玉で凌
「子供みたいなこと言ってんじゃないわよ!」 午後4時半すぎ、講師控室へと向かう渡り廊下にさしかかったら、くぐもった怒鳴り声が反響してきた。今どきコンプラがんじがらめの大学で、と若干引きぎみに不審がるや、 (あっ先生) 突き当たりの角に見慣れた顔が覗いた。二年生のHさんだ。 (こんにちは) (おとといぶり~) 二人が続けてぽろぽろ顔を見せる。丁寧な会釈のMさん、ひらひら手を振るIさん、みんな実技科目の後らしく白衣姿である。なぜか小声なのでひとまず真似して、 (
四年前の春、ある大学から「非常勤講師をやれ」とのお達しがあった。なんの因果か女子大である。すでによそで手一杯だったし、早々と大学語学に辟易しだしてもいたし、あまり食指は伸びなかった。「女子大生」なんてケッタクソ悪い性産業用語にうかうか乗せられるほどウブでもバカでもサルでもない。 ところがどうして調べてみたら、キャンパスまでわが最寄り駅から片道十五分の直行バスが出ているという。普段まったく足を伸ばさない方面の、別の私鉄沿線も近い山奥だそう。近代都市の産物である通勤電車