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死神っていると思う。自殺願望のラブストーリー『タナトスの誘惑』

YOASOBIの代表曲「夜に駆ける」の原作となった小説「タナトスの誘惑」。
短いストーリーの中に、強いテーマがしっかりと描かれています。

1. あらすじ(ネタバレ)

主人公である「僕」に、大好きな彼女からLINEが。

「さよなら」

"その一言で全てが分かった"

自宅マンションの屋上を見ると、虚ろな目をした彼女の姿。
急ぎ階段を駆け上がる僕。実はこんな事はもう四度目でした。

「はやく、死にたいの」
「どうして…!」
「死神さんが呼んでるから」

"君にしか見えない 何かを見つめる君が嫌いだ"

「タナトス」に支配された彼女には、「死神」の姿が見えるといいます。彼女は恋する女の子のような顔で、彼女にしか見えない「死神」を見つめるのでした。

「僕」よりも「死神」を見ようとする彼女に僕は嫉妬し、心の黒い部分が露呈していきます。

「もう嫌なの」

僕も嫌だよ。

「もう疲れたのよ」

僕も疲れたよ。

「はやく死にたいの」

"もう嫌だって疲れたよなんて 本当は僕も言いたいんだ"

そして僕は、ついに禁断の一言を口にしてしまうのです。

「僕も死にたいよ!!」

"「終わりにしたい」だなんてさ 釣られて言葉にした時"

それを聞いた彼女はニッコリと笑います。
彼女の笑顔を見た僕の心も、不思議と楽になっていきます。
二人は手を繋ぐと、マンションの屋上から、夜に向かって駆け出すのでした。

2. 「タナトス」と「死神」

決して「めでたし」とは言えないオチだと思いますが、どうですか?

この物語のテーマは「タナトス」、つまり「死に対する欲動」です。作中ではそれが「死神」の姿で彼女の前に現れていますね。

では、死神とはどんな姿をしているのでしょう? 作中ではこう書いてあります。

死神は、それを見る者にとって1番魅力的に感じる姿をしているらしい。いわば、理想の人の姿をしているのだ。

「理想の人の姿」で現れて、死へと向かわせる死神。
「僕」にとって最も美しく、天使のように見える彼女こそが、実は死神だったというわけです。

では、彼女にとっての死神は一体誰だったのでしょうか?
彼女は「僕」と付き合い始める前から自殺願望があったことは描かれていますが、具体的に何があってそうなったのかは描かれていません。

しかし、「何があったのか」はさほど重要ではない気がします。大切なのはただ、彼女はタナトスに支配された人間であり、ラストシーンで「僕」もそうなったということ。もしくは、「僕」も元々そうだったことに気付いたとも言えるかもしれませんね。
特に辛い事件が無くたってそういう思考の人はいますし、誰もがそうなり得る可能性を持っていると私は思います。

それは言い換えれば、私たち全ての人間の前に、いつ死神が現れてもおかしくないということです。そしてそれは魅力的な理想の姿をしているのでしょう。

3. 「悪魔」という拡大解釈

※ここからは拡大解釈なので少し話題がブレます。

「悪いことしちゃおっかな」という欲望を、「悪魔の囁き」と表現しますよね。キリスト教圏では特にそうだと思います。作中の「死神」も、これに近いのではないかと思うのですよ。

いつだって、悪魔は魅力的な姿でやってきます。いやマジで。

例えば、宿題をやらなきゃいけない時に目の前に転がっている「ゲーム」
ダイエット中にコンビニの棚で見かけた「ポテチ」
魅力的ですよねえ?(笑)

ゲームもポテチも、「宿題なんてサボって遊んじゃえよ」「ちょっとくらい食べたって太らねえって」と囁いてくる立派な悪魔です。これは冗談でも何でもなく、元来「悪魔」とはそういうものなのです。

しかし悪魔はそうやって囁きかけてくるだけで、向こうから襲い掛かってくることはありません。ポテチは勝手に口へ飛び込んできません。
「ゲームを手に取る」「ポテチを口に入れる」という行動を起こすのは、自分ですよね? いつだって、悪魔と契約してしまうのは自分自身なのです。

これは、作中の主人公「僕」も同じです。
彼女にそそのかされて「僕も死にたいよ!!」と言ってしまったこと。これがトリガーであり、悪魔との契約のサインなのです。

4. まとめ

ここまで読んでくださったあなたはどう思いましたか?
目の前に「死神」「悪魔」が現れたとき、その誘惑に勝つことができますか? 受験勉強やダイエットなんかは、特にそういう戦いが起こりやすいと思います。そんなときはこの話を思い出して、悪魔と戦ってみてください。

ちなみに、紹介した小説「タナトスの誘惑」はこのサイトで無料で読めます。気になった人は是非。

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以上、ラケットでした!

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