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【ウィキペディア】2023/7/6 恩納村立うんな中学校での講義+ワークショップ

【注記】
使用したスライドの中で自由使用できないものは文字での説明にとどめる。

また、プレゼンテーション内容は、今期のほかのイベントで流用するものもあるので、今期の最初のこの報告では詳細に記すこととする。

内容

時間と人数と環境

13:50-14:40 + 14:50-15:40 (100分)

  • 中学校3年生120名 「総合」の授業

  • 多目的室。 数人に1人タブレットあり。インターネット環境あり

事前のメールによる打ち合わせ

  • 「情報リテラシー講義+ウィキペディアに関するワークショップ」を行う

ワークショップ内容

  • 3クラス120名を1クラス×4グループ=12グループに分ける

  • 恩納村に関するテーマを12個、海獺がピックアップし、それぞれのテーマについて各グループが書籍やネットを使って調べる

  • ウィキペディアに記載できそうな回答については、海獺がリアルタイムでウィキペディアに反映する。

目的

前半の情報リテラシーに関する講義と後半のウィキペディア・ワークショップを通して、生徒さんたちに「今日はこの3つについて考えてもらいたいと思ってお話をします」と宣言した

  • 情報の出処を意識

  • 自分や誰かを傷つけない

  • 自分や誰かの役に立つ

実際の進行と講義内容など

数人に1台分のネットワークにつながるタブレットがあり、事前に「生徒たちは積極的に質問や発言をしないかもしれない」と伺っていたので、今回は私にとって初めての試みとして、「パパパコメント」を使用してみた。

これを使用すればプロジェクターに映した講師のPC画面に生徒たちのコメントが映し出されることになり、挙手をする/発言をするなどのハードルを下げられる効果がある。

授業の最初に「『こんにちは』でも何でも好きなことを入力してみてください」と促した。視覚的な面白さも相まって、いたずら書きや意味のない文字列を入力する生徒も現れたので(誰が発信しているかわからない)、全体に向かってを内容に関連するコメントをするようたしなめた。

生徒からのコメントは画面上に映し出された後、ほどなくして消えるので、講師側は画面を注意深く見ていないと取りこぼしてしまうのだが、今回は簡単なクイズなどに使用することで、単なる「話を聞く授業」ではなく、参加し、参加しているさまを視覚的に互いが確認できるというメリットが期待できると考えた。

講義1:情報リテラシー


事前打ち合わせにて、学校側から「ネット加害」に関する懸念などのワードが出た。4月に学校では「サイバー犯罪防止教室」が開催されていたようだが、それでもなお懸念があるというのでウィキペディアに話をつなげられる範囲で講義を行った。

提示したスライドとその狙いについて以下に記す。

情報を受け取る際の注意

  • 知識を得るのは何のため? →知識を得ることによってよりほかの知識への広がりが期待でき、楽しめることが増えるというテーマで、鯉のぼり、龍、登竜門、ポケモンのコイキングなどのワードを使って説明。「コイキングは進化すると何になるか?」をクイズとして出題し、パパパコメントでの回答を募った。

  • ディープフェイク+AI → タレントにほかのタレントの顔が挿げ替えられている例をいくつか動画で流した。また一般の中年男性が美少女として動く動画も流し、ネットの向こうにいる人が本当などんな人なのかはもうわからないという話をした

  • おにぎりで学ぶ情報リテラシー → 国産牛肉のトレーサビリティや「カレーの王子様」に記載されたアレルギー品目、およびいろいろなおにぎり(誰が握ったかなど)の例を出し、「食べ物はあなたのからだを作る。情報はあなたの考え方を作る」という展開で【なぜ落ちているおにぎりは拾って食べないのに、落ちている出どころのわからない情報を取り入れるのか】を問いかけ、そのリスクを説明した。

  • 「見る方向によって形の認識が変わる図形と立体の動画→これにより自分では「間違いない」と思った情報が、視点を変えることで覆されることがあると説明した(立体がどう見えるかパパパコメントでの回答を募った)。

  • 使用したのは、Google Chromeで
    z=abs(-y/sqrt(1-x*x)),x is from -1 to 1, y is from -1 to 1,z is from 0 to 1
    を入力すると現れる図形。

  • 「時間軸によって評価が変わる例」 → 植物の化石→石炭・酸素→猛毒。
    現在からの観点では、正しく解釈できないものを例示した。

  • 「表現で誤解を起こしやすくなる例」→レタス〇個分の食物繊維、レモン〇個分のビタミンCなど、広告宣伝においてよく使われるフレーズを検証
    (さまざまな)「全米チャート一位」には違いがある→BTS、BlackPink、YOASOBIなどを例にとり、中学生にとって身近な例も入れた。

SNSに「いいね」を押すバイト、動画の再生回数を増やすバイト、承認欲求、再生数が評価軸になっていること、ネットニュースの見出し、アテンション・エコノミーなどを例にとり、表面的な数字で判断することの危うさを説明。

情報は「正しい/正しくない」で捉えるのではなく自分が情報を採用した理由を意識する
情報を受け取るときの注意をこのように位置付けた。

情報を発信するときの注意

Twitterに投稿された『ポケモンGo』の地図画面から、実際の地域が特定されてしまった例。
自撮りの瞳に映った景色から、住んでいる地域が特定されてしまった例。
アルミ製のポテトチップの袋に反射した景色から部屋の間取りを再現させる技術
Aさんがしゃべっていることが、Bさんがしゃべっているように加工された動画。

上記の事例から、個人情報とは厳密な定義とは別に「組み合わせによって」「あなたがだれなのか(知られたくなくても)知られてしまう、それはいやだな・・・と思うものは、個人情報であり、他人も同じようにいやだなと思う、と考える」と説明した。

未成年の犯罪被害は顔見知りが加害者であるケースが多いことから、ネット上に自分の情報をアップすることは「顔見知りを増やすこと」と同義であり、中学生と仲良くなりたい近づいてくる大人にはまともな人はいないと説明。

発信した情報から「モザイクアプローチ」で個人を特定される場合があるので、自分のことはネットには発信することには大きなリスクがあること。
ネットに一度公開されたものは、自分では消したつもりでもサーバーには残っていること。
過去のあなたが未来のあなたに呪いをかけるかもしれないこと。
匿名性はいくらお金を積んでも買えないこと。

私がマスクをして本名を名乗らずこの活動をしている理由。
最近のアーティストで、プロフィールが謎な人が多い理由。

などを説明し、自分や他人を守るために、「自身の情報発信は抑制的に」とアドバイスを行った。それでも何かいやな目に遭ったら、すぐ大人に相談すること。その時怒られるほうがましだからと促した。

前半の締めとして、YouTuberで食べていくための動画のアップ数の目安と再生回数について説明し、私見だが「道は険しく、企業に勤めるよりも厳しい毎日である」とコメントした。

講義2:ウィキペディアに関する講義

アクセスランキング


2023年7月の、ウィキペディア日本語版のアクセスランキング上位15を表にしたものを提示。6位と13位は中学生にとって興味のあるトピックだと思われたので、表の一部を隠す形でクイズとした。
6位:【推しの子】、13位:新しい学校のリーダーズ
6位はすぐに当てることができたが、13位については「言われてみれば」という反応と「そんなことまでウィキペディアで調べる人がいるんだ」というような反応が垣間見られた。

ここでは「オープンデータ」についての簡単な説明と、ウィキペディアがどのように使われているかを説明し、ランキング9位の「長篠の戦い」がNHKの大河ドラマで取り上げられ、「長篠の戦い」についてネットで調べる上で、ウィキペディアへのアクセスは1か月間で534,800回に上り、一日にすると17800回以上のアクセスがあったことを説明。日常で疑問に思ったことをもうちょっと詳しく知りたいときに役立っているのではないかと位置付けた。

ウィキペディアの特徴・データ


ウィキメディア財団のほかの主なプロジェクト、百科事典としてのウィキペディア。および百科事典とは何か(調べもののとっかかりになるもの。より詳しいことは専門書の役割)。
アクセス数、全Websiteのアクセスランキング(Google、YouTubeなどに続き6位)。
誰でも編集ができる/自由に再利用できる。これについては著作権の概念がまだ理解できていない世代かもしれないこともあり、特徴の一つとして説明するにとどめた。ただし、自由に再利用するという点では、善意で色々な人が書いたものが、知の共有として活用されているという説明で強調した。

規模については2022年6月のアニュアルレポートの寄付額217億円を提示し、比較として沖縄の企業であるオリオンビールの売り上げが218億円であることを示し、世界で6番目にアクセスがあるサイトは、莫大なお金を扱っているわけではないことを説明した。

ウィキペディアの信頼性


うんな中学校では、前年度の3年生によりカルビーとのコラボレーションで、恩納村の特産物であるアーサ(ヒトエグサ、アオサ)を使用したポテトチップを開発、販売した実績があるので、

ウィキペディアの「堅あげポテト」の記事に、Web上の情報を根拠として加筆し出典を伴うという例示をデモンストレーションで行った。

これにより、ひとつの文章を書く上では「何を参照したのか」を併記することで「情報の確からしさが増す」ということを強調し、前半の情報リテラシーの話と絡め、「正しい/正しくない」ではなく「自分がその情報を採用した理由」を意識して、参照元の情報を取捨選択する基準とするとこを説明した。

ワークショップの説明
「今日やってほしいこと」

  • テーマについてネットや本で調べる

  • 人に説明するときのように考える

  • どうしてその資料を信用したかを考える

  • 情報源を記載する

  • フォームに記入する

    以上を意識したうえで → 情報の成り立ちについて考える
    とした。



    テーマは以下の12個

  • アポガマ- 調べてわかったことを教えてください(人に紹介するときを想像しよう)

  • ヒトエグサ- 養殖はいつから始まった? どんな食べ方をする? 生産量は?

  • クビレズタ- 養殖はいつから始まった? どんな食べ方をする? 生産量は?

  • 福徳岡ノ場- 軽石はどうなった? うんな中では軽石を使って何かやった?

  • ウドゥイガマ- 調べてわかったことを教えてください(人に紹介するときを想像しよう)

  • ニライカナイ- って何? タンチャウーフシ(谷茶大主)とどんな関係がある?

  • 仲魂之塔- 碑はいつ建てられた? 何のために? 誰のために?

  • 広部ガマ・広部俊明- 長さは? 日本一長い? どんな人?

  • 非核平和村宣言- 碑はいつ建てられた? 建てられた理由は?

  • カンジャガー- って何? どこにある?

  • アテモヤ- いつから栽培されてる? どんな食べ方をする? 生産量は?

  • 琉球村- いつオープンした?どんな文化財がある?

失敗
あらかじめ用意された、書籍やタブレットでWebを検索し、Googleフォームを使って調べた結果を回答してもらうように募ったが、Googleフォームは同じURLのフォームに記入すると、同時アクセスしている他の端末からの入力が輻輳し、入力しているそばから書き換えられてしまう現象が発生し、このタイミングから別URLのフォームを11作るのは困難と判断。
急遽、ワークシートへの回答へ切り替えた。

成果


生徒たちが25分間で調べた結果、ウィキペディアの出典として採用できそうな回答が2つ提出され、2つの記事について、その場で編集を行った。
生徒たちに直接ウィキペディアを編集させることはせず(不適切な編集が起きると収拾がつかないため)、調べたことに対する成果が反映されることを強調した。

振り返り


この成果物を見せ、

  • 調べるって楽しい

  • 情報を鵜呑みにしない

  • 多くの視点から考える

  • 誰かの役に立つ

という点を改めて強調。

今日やったことはどういうことなのか

ウィキペディアでは撮影した写真も、記事の説明を補完するイラストも、ちょっとした修正も、新たな記事の作成も、たくさんの善意で行われている。

ネットで検索するとき、思うような情報にたどり着かない経験は誰しもあると思うが、ウィキペディアのようなところに信頼できる出典を伴った記事がたくさんあることで、誰かの役に立つ機会が増える。

今日皆さんが調べてくださり、反映されたことは、ほんの少しかもしれないけれども、読んだ人の知識となる。

ウィキペディアは、たくさんの言語版があり、自由に複製できるライセンスで作られている。

たくさんの言語というのは、どこにあるかわからない、名前も知らない国や地域で使われている言語も含まれる。

日本語版のウィキペディアに記事が増えることで、その記事がほかの言語に翻訳されるチャンスが増える。

今日みんなは、タブレットがあり、ネット環境があり、空調が効いていて、電気も来ていて、図書館もある学校でこの授業を受けている。

でも、「どこでもそう」ではない。

電気が10日に一度しかこない学校、図書館がない学校、ネットインフラがない学校。

その人たちに百科事典を届けることができるのがウィキペディア。

市販の百科事典では、自由利用ができなかったり、複製するのは執筆者の同意と多額の費用が必要になる。

ウィキペディアはそれが可能。

それはSDGsの4、「誰もが平等に質の高い教育を受けられる環境をつくる」に通じる活動でもある。

今日の体験を通じて、自分がいる環境で、誰かのためになにができるかも含めて、考えてもらえる機会になれば。

などの言葉で結びとした。


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