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#45 市場価値を時価評価するための人事制度の運用スタンス 24/1/10

みなさん、こんにちは。
従業員の評価に市場価値をどのように反映していくのか、わたしなりの実務経験がら考えてみます。

市場価値的な概念には、大きく2種類あると考えています。
1つは、恒常的な需要と専門人材不足の分野、たとえばITエンジニアです。
もう1つは、サービスの市場形成期と新しい職域の分野です。
たとえば、少し前のデータサイエンス、RPAエンジニア、最近ならプロンプトエンジニアリングなどです。
前者は、マーケット相場をベンチマークに、自社の評価制度をフィットさせて運用します。後者は、タイムリーに、時価で、評価を反映します。ただし、モノサシが少ないですから、自社なりの解釈と決め、が求められます。
前講釈が長くなりました。
では、実際に、どのような考えのもと、どのように評価制度を運用し、処遇に反映するか。人事部門と評価者であるミドルマネージャーそれぞれの立場からわたしなりの考えを記します。

まず、ジョブ型の制度を導入している企業は、そのジョブ=ポスト、の価値で報酬条件が設定されているため、今日のテーマからはそもそも外れると考えます。そのジョブ型の対義語にもなったメンバーシップ型人事制度(基幹制度、等級・評価・報酬)を適用している場合を対象とします。

人事制度の運用にまったく遊びがない企業と、多少の遊びを持たせた企業に分かれます。いずれの運用形態だったとしても、市場価値の要素を反映するにはどんな工夫や考え方ができるか、を前提にしてみます。

まず割と制度・ルールどおりに運用が固定化されている前者の場合です。事業部ごとの市場価値を考慮した設計と運用への変更には時間がかかるでhそう。その場合でも、総額人件費(直接原価の労務費+オーバーヘッド)を設計・管理はしている人事部門は多いと思います。

複数事業のまとまり=自社ですから、抽象度を上げて自社を一事業体と捉えます。自社が戦っている市場は毎年どのくらい伸びているか(CAGR:数年間の年平均成長率)や、主な競合企業の収益性(≒付加価値率)がどの程度かつ前年増加率をおよそ捉えられると良いです。

それに対して、自社のCAGRと人件費増加率(ベア+定期昇給率、社保含む)の推移がどうか、労働分配率で見るとどの程度かを捉えておくと、市場との比較ができます。
この指標となる実績値(推計値の場合もあり)を人事部門が経年で押さえておくと有益です。
競合企業の情報が非上場企業などで手に入りにくい場合も、厚生労働省から出ている賃金構造基本統計調査の数字を用いると良いと思います。
さらに、欲を言えば、転職市場における自社事業と同職種の求人から、年収条件を押さえておくことができるとベターです。

ここまでは、人事制度を運用設計していく上での下ごしらえです。しかし、この前さばき工程自体がとても重要な仕事と考えます。

では本題の実際に評価運用をどのようにして行うか、です。

まずは、人事部門が事業責任者やボードメンバーと、一蓮托生の共犯関係を結んでおくことです。市場価値の要素を評価運用時に加味する、あるいは市場価格に合わせていく評価運用自体を是とすることについて、共犯関係を結んでおくことです。

多くの企業経営では、現在の賃上げ要請、賃上げムードの追い風がないときには、人件費を抑制的に考えていることが多いでしょう。また市場の論理より社内の論理と倫理の理屈が優先されがちだと思います。ですから、ボードメンバーと握っておくことが、実際に市場価値を加味した評価を回していく際に、フォローの風を吹かしてくれます。

次に、実際の評価キャリブレーション会議に、人事部門が直接介入することです。大企業ではすべての会議に参加することは難しいかもしれません。人事部門の人数や体制によるでしょう。私の所属する会社では、人事部門が進行役を担っています。40部門程度ありますが、プレ会議と本会議の2回、直接関与しています。ある程度制度運用に遊びがある場合、評価の仕方、判断の基準を含めたナビゲート役を誰かが共通的に行わないと、部門ごとのローカル運用になってしまうため、この点は肝だと考えています。
評価期間中の人事部門の動きはこれにより、かなり限定的になることとのトレードオフではありますが、評価処遇は従業員エンゲージメントの点からも、キャリブレーション会議はミドルマネージャーの人材育成の場の点からも、人事運用の優先度高の取り組みと今は考えています。付随して、現場の従業員を理解することにもつながり、間接的にではありますが従業員の仕事ぶりや人物をそこから想像します。

そして3点目です。ビジネス理解です。
これは人事部門では苦手にする人が多いですが、本丸です。事業が多岐に渡ればそれだけの分岐に人事もアンテナを立てることが求められます。その分野、職域のトレンドやテクノロジー、長短の課題を大雑把でも良いから情報収集しておくことです。結果、どのくらいの財務指標的なビジネスインパクトをもたらす事業分野なのか、従業員の処遇を決めていく人事部門自分たちなりの理解とロジックを作っていく上で不可欠なインプットと考えています。そして、実際に今、お客様からどれくらいの対価をいただける市場なのか、それに対して従業員の処遇はフィットしていのか、この点は市場価値をどのくらい処遇に反映するかの、キーになる論点です。

さらに4点目です。人事制度上の、とりわけ等級要件や評価基準を、人事が自ら崩しにいくことです。制度上のルールを無視することはNGですが、制度とはいえ解釈の余地が残されていることが多いのではないでしょうか。3点目とも密接に関連します。ミドルマネージャーは、自分たちの市場、市場価値を実はあまり正当に評価できていません。これは当事者であれば視野狭窄になりやすい、一般的な傾向です。ですから人事など第三者が、市場を俯瞰的に捉えて、適切な示唆を提示することがその視野狭窄への対処策になります。
同様に、ミドルマネージャーは意外に人事制度のルールをちゃんと守ろうとする傾向にあります。やはり、人事制度、評価制度の強い強制力のある規則、および従業員の金銭的処遇を決めること性質だからでしょう。ここでも、市場の職種年収と等級要件に基づく報酬体系が合わないことが多々あります。このときに、等級要件に縛られると市場評価ができません。そしてミドルマネージャーは等級要件=社内論理を守る傾向にあります。ですから、人事部門が自ら、それを多少目を瞑っても良いとナビゲートしてあげることで、市場価値に応じた評価判断を後押しするのです。これができると人事は結構いい感じだと考えています。

最後に5つ目です。採用部門との連結です。
ある程度の規模以上の企業では、人事企画、人事管理、採用の機能は分かれてくることが多いです。その中で、特に経験者採用を担っている部門とは密に連携していると良いです。やはり外部労働市場と向き合っているチームですから、その事業分野の従事者が市場でどのくらいの値付けがされているのか、生の情報を人事部門が押さえておくことは、市場価値の処遇反映を進めていく上では、説得力を増すファクト情報になります。
組織が機能分化すると、否が応でも部分最適になっていきます。人事部門と採用部門のミドルマネージャーがインターフェース役となり、取り組みや情報を共有していきたいところです。

以上が市場価値を人事制度運用において、特に待遇条件に取り込んでいく現実的なアクションです。
みなさんの企業はいかがですか。
それでは、また。

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