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ラブホの正社員6日目

日々、ホテルにはプロフェッショナルが仕事人として来店する。風俗嬢だ。その中で当ホテルに訪れるナンバーワンは、媒体はわからないが全国一桁位の風俗嬢らしい。彼女は当ホテルにかなりの割合で現れるプロなのだが、今日はそんな彼女にフォーカスしたものだ。

彼女は少し太ったかわいらしいお客さんと同伴してやってきた。なぜ風俗嬢だと分かったかといえば、彼女がフロントでデリの全国ランカーと呼ばれているのを聞いたからである。ああ、確かにどこか華のある人だと納得した。顔はあまり見えないが清潔感があり背が高く、楽しそうに客の目を真っ直ぐ見て話している。多分今話してる内容も断片的に記憶していて次の機会の引き出しにしたりしているんだろう。10秒ぐらいでもこのぐらいの事はわかる、そのぐらいにわかりやすく圧倒的に優れた接客なのだ。彼らはそのままフロントを通過して部屋に入っていった。

約1時間半後、彼らは部屋を出て鍵を返却し帰っていった。来た時と同様に手を恋人繋ぎにし目をまっすぐ見て、名残惜しいという旨の会話と次の逢瀬を楽しみにしているという、まったく嫌な感じのしないある種のセルフプロモーションを重ねながら。

その直後である、彼女が再び自動ドアを潜りフロントにやってきた。ヨボヨボの老人が1人で入った部屋の番号を告げ颯爽とエレベーターで階上に上がっていく。まったく疲労を感じさせない動きである。そしてフロントにまで溢れんばかりの笑顔を向けていた。末恐ろしいパフォーマンスだ、どこぞの百合子にも見習ってほしいものである。

恐らくまた1時間半ほど経って、彼らはエレベーターを降りてきた。もちろん手はガチガチの恋人繋ぎ、あとは前述の通りである。誰に対しても態度や仕草を変える事なく、それでいて歩幅や会話のテンポはきっちり合わせている。これがプロの仕事かと不覚にも感動してしまった。昔働いていたコンビニで常連客のタバコを覚えていた事にドヤ顔していた僕とはわけが違う。これでこそ1時間そこそこの時間に大金を支払う価値があるのだろう。

皆さんは何らかの事で全国ランカーになった事はあるだろうか。例えば高校総体で何位だったとか、そういうことだ。僕はない。今までの交友関係の中には少なからず何らかの全国ランカーがいた。彼らは共通して、どこか華や色のある人間だったと思う。加えてやっている事の強烈さやそこに向ける熱量が違うし常人にはできない発想や努力をする化け物だ。


もし文章を書く事における才能がある方にラブホの正社員シリーズを書いてもらったら、僕が書くより面白く書けるのだろう。僕の文章を書く力は才能ではなく偏差値だから、これでご飯を食べる事は多分ないのだろうな。そんな事をつらつらと考えていると口惜しいような羨ましいような、なんとも言えない気持ちになった。

何かひとつでも偏差値ではなく圧倒的な才がほしかった。生きているだけで自らを源泉とした価値を生み出し、人々を感動させる。街を破壊するゴジラのように批判を踏み潰し圧倒的な存在感と傷跡のみを残していく、そんなギフテッドになりたかった。選ばれなかったものは仕方がないのだけど。

圧倒的な才能、それに裏打ちされた努力。凡庸な僕もいつかそれらに打ち勝てる日は来るのだろうか。恐らく来ないと思いながら未来への不安を背負って日記を書いている。僕はそんな心境だが、読んでくれている方々に幸運があることを願って止まない。

甘いもの食べさせてもらってます!