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90日間 ヨーロッパ放浪記 4 ~深夜のローマ~

深夜のローマ。そこはきらびやかな観光の街でなく、オレンジの光に照らされた闇に潜む猫のような街だった。

日本からの長いフライトもついに終わり、僕は初めてヨーロッパに到着した。ここがローマだ。自分はあのローマにいるのだ、という不思議な感じがしたことを覚えている。英語ではなくイタリア語で書かれた看板が新鮮だ。僕のこれまでの旅行は英語圏ばかりだった。最初は新鮮な気持ちで過ごしていた海外も、英語圏なら日本と変わらない気持ちで、もっと言えば日本より開放的な気持ちで過ごすごすようになっていた。

ローマの洗礼

ローマへの到着は深夜だった。最安価格なので仕方がないとはいえ、やはり見知らぬ国で深夜に一人到着するのは心細い。空港から市内の中央駅であるテルミニ駅まで移動する。最初の日の宿は事前にネットでホステルを予約しておいた。6人の相部屋だ。
テルミニ駅からホステルへ移動をしたいが時刻はすでに深夜だ。海外の面白いところでもあるが、市内中心部、特に駅の周辺は治安が悪いということが多い。でかい荷物を背負ったアジア人はとても目立つ。これ以上ないほどわかりやすい旅行者だ。

そんな私を見てタクシー運転手の集団が声をかけて来た。タクシー運転手は移民の仕事でもあり、彼らも片言の英語で
"Hotel? Come? Come?"
と激しく僕を勧誘する。正直なところ、高い料金がかかるタクシーは使いたく無かった。タクシーなんて日本でも滅多に使わないのだ。しかし、この日は長旅で疲れていたし、今と違ってGoogle Mapで目的地までの距離と時間がわかるわけでもない。見知らぬ街で住所だけを頼りにいつ見つかるとも知れぬ宿を探し、これ以上疲れたくなかったのだ。正確な場所がわからないとはいえ、駅のそばのホテルを予約したのだ。それほど料金がかかることもないはずだ。

"OK, this Hostel please."

私はタクシーに乗った。

タクシー運転手が何か話しかけてくるがよくわからなかった。私が気になっているのは料金メーターだ。まだユーロという単位にもなれていないが、どうも料金の値上がりが早い気がする。深夜だからからだろうか。
"ここは一方通行だから"
そう言って運転手は道を曲がる。5分ほどで宿についたのだが、料金として€20ほどを請求された。非常に高い。どう考えてもボッタクリと思うのだが、言葉が通じないと解決もできない。もしかしたら運転手が正しい可能性もあるし、踏み倒すわけにもいかない。

困った私は宿の人に仲介を頼むことを思いついた。入り口のインターホンを押し、通訳・交渉のヘルプを頼むものの、こちらもあまり会話が通じない。推測するに、料金を払って早く上がってこい、ということを言っているようだ。しょうがない、ここは料金を払って早く休もう。そう思った私は渋々料金を払う。やれやれ、節約旅行のはずが、いきなり一泊分ほどのお金を取られてしまった。

初めてのホステル

日本人でホステルに泊まった事がある人は少ないのではないだろうか。私はこれが初めてのホステル宿泊だった。タクシー運転手との通訳をしてくれてもいいのにな、と思いながら受付でチェックインをする。薄暗いロビーにある古びたテレビではEmpire state of Mindが流れている。New Yorkを歌った曲であるが、最初の夜の疲れに妙にマッチし、今でも旅の印象的な曲として記憶に残っている。僕にとって、濁った、暗い、始まりのローマの夜を象徴する曲なのだ。

ホステルでよくある相部屋、という仕組みもよくわからなかったのだが、なんということはない。案内された部屋を見ると二段ベットが複数置いてあるだけだ。
相部屋には大柄な黒人がいた。彼のベットは散らかっていて、体臭が非常にキツかった。これがホステルか。不安な予感にさいなまれながら僕は安いパイプベッドに横になった。
眠ろう。明日からは本番だ。冒険が始まる。

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