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90日間 ヨーロッパ放浪記 5 ~旅の仲間~

朝は良い。旅の朝なら更に良い。新しい一日が、冒険の一日が始まる。

観光プランを作ろう

深夜に到着したホステルで迎えた朝。ヨーロッパで初めての朝。それは理想的な旅の朝ではなかった。体臭のきつい大柄な黒人が2段ベッドの上に寝ていたし、朝早くからゴソゴソと荷造りを始めるヒッピー風の男もいた。安宿の相部屋に期待をし過ぎてはいけない。ここは日本ではないのだ。

身支度を整えるため、部屋の隅に作られた薄暗いシャワールームでぬるい水を浴びる。なかなか温度が上がらない。なるほど、これが噂の海外シャワー温度・水圧低い問題かと海外に来た実感がわく。

今日の予定はローマ観光だが、まずは腹ごしらえだ。昨夜は疲れで気がつかなかったが、飛行機に乗ってからろくなものを食べていない。本日のホステルでは無料朝食としてシリアルが提供されている。日本とは異なるパッケージや味に海外を感じる。旅が進めばこうして日本と海外の差に気がつくことも減っていくのだろうか。新鮮な気づきは大事にしたい、そう考えながら黙々とシリアルを口に運ぶ。もぐもぐ。

"どこから来たんだ?"

一人で朝食を食べていると陽気な外国人に話しかけられた。外国人の距離の近さには慣れている。道路やスーパーで突然会話が始まることもあるし、ホステルで観光客同士が同じテーブルについたならいわんや、ということだ。私の考えだが、英語はフラットな言語なので、相手によって話し方を変えるということが少ない。あるいは、会話の型が決まっている、と言えるかもしれない。そのため赤の他人に話すときに非常に楽だ。立場を微調整ながら尊敬語やタメ語の織り交ぜ方を考えなくても済む。
しかし、距離感が近いのと、距離感がおかしいのは違う。端的に言えば、こうした安宿には色々とおかしい人も多いのだ。

“日本から来た。今日が一日目だ。”

これから何回も繰り返されるであろう旅人同士のキャッチボール。記念すべき第一投だ。しばらく話をしてみると、彼は友人とローマ観光に来ているとのことだ。悪い人ではなさそうだ、僕はそう思った。
しかし、実のところ僕に善悪を判断することはできない。ひょっとすると、彼は悪人かもしれない。しかし話をしただけで被害が出るわけでもない。それに、悪人は悪人になる瞬間がある、というのが僕の考えだ。例えば、彼に荷物を預けてトイレに行くか?彼に会計を頼まれたら支払うか?答えはNoだ。そこまで彼を信頼をするわけではないが、ちょっと一緒に観光をするくらいならいいだろう。旅の出会いは面白さだ。孤独な旅も悪くないが、やはり人と話すのは面白い。

彼らはジョンとマシューと名乗った。いや、正直なところ名前など忘れてしまったのだが、名もなき人物というものは物語に登場できないのだ。簡単な朝食を済ませた僕らは、バックパックを背負い駅に向かう。最初の目的地は決まっている。バチカン市国だ。世界一小さな国としても有名なバチカンを見に行くのだ。陽の光に照らされたローマは昨夜とはうってかわって賑わっている。美しいというよりは、数百年変わらない雑踏というように見えたが、何にせよいよいよ旅が始まった。いざ、バチカンへ。

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