我々は江戸時代なのか?国民負担率47.5%の数字で騒ぐ前に考えること。

2023/2/21、国民負担率が47.5%になったというニュースがNHKから流れました。(発表は財務省ですが)実に国民の所得の半分近くが税金と社会保障に消えていることになり、まあ、色々と怒りの声などが聞こえてきたわけですが、

中には「江戸時代か!」などと揶揄する人々もいたんですが、これに関して私は明確にその指摘は間違っていると思います。

理由は以下の2つ。

①累進課税の仕組みがあるので、そもそも収入によって負担率が変わる
②江戸時代には年金や健康保険はない。

江戸時代かよ!みたいなディスは、収穫物の半分をお上が、残りを農民が取る、五公五民という仕組みに例えて皮肉っているわけですが、それと比較して言うのなら、「同程度の負担で健康保険とか年金がついてくるならそっちの方が遥かにマシだろ!!」と言う話にもなるわけで、現状認識的にも変だと思います。

そもそも、自分の負担率っていくらだ?

国民負担率はNHKの記事によると「個人や企業の所得などを合わせた国民全体の所得に占める税金や社会保険料の負担の割合」 で、ありまして、サラリーマンや自営業、それから企業の儲けなど、全ての所得の合計を加算したものになるわけです。この数字に間違いはないんですけれども、そもそも我々の今の社会は累進課税といって「お金持ちほど負担が大きくなる」という仕組みを採用しているわけですよね。

なので、実際のところ、自分の所得の中で何割がお上に取られるかというと、それは人によって違う。所得税にしたって、スッゴイ金持ちになると45%とか取られるわけですが、収入が少ないとそうでもない。

ここまで、考えたところで、思ったわけです。「じゃあ、私の負担率っていくらになるんだろう?

幸いマメに家計簿をつけているので計算が出来ます。私の年収はだいたい同年代の平均値ぐらいだったはず。中央値だと、かなり低くなるんですが、一般的な中小企業に務めるサラリマン(独身)だとどうなるのかという値でございます。

算出のルール

・一年間で貰った給料総額(年収)を基準として計算
・所得税、住民税、健康保険、厚生年金保険、雇用保険の5つの割合を調査
・消費税も算出する。これは上記の5つを年収から引いた後に残った額÷11で算出。

細かいことをいうなら、上記の計算は「手取りで貰ったお金を全部消費する」という前提の計算ですから、実際のところはもう少し低い値になるはずです。また、軽減税率も考えていません。実際は食料品はかならず買うので、8%分の割合が結構な部分を占めることになると思いますが。

なお、消費税の計算ですが、ネットには10%を所得税や住民税の%に、勝手に足し込んで怒っている人もいたりしますが、間違いです。(おお、人の子らよ、割合を足し込むなかれ!)所得税や住民税を差し引いた残りを全て消費した場合、その時の消費税分がいくらかという計算をしなければなりません。

割合という概念が人類に早すぎることもあり、「どーして、11で割るんだよ!」という人もいるとは思いますが、

消費税10%で税込み110円の商品があったとする。そのうち消費税分はいくら?

という問題を考えるとわかりやすいと思います。(まさか10%だから、11円!と答える人はいませんよね?)

結果は……負担率27%!

結論から言いましょう。こうなりました。
これが家計簿から算出した私の負担率です!

私の収入と税金・社会保障負担率のグラフ

年収総額は恥ずかしくてあまり書きたくない!んですが、パーセンテージのグラフなら大丈夫。年収〇〇万円貰っているとしたら、そのお金のどれくらいが徴収されるのかを見ることが出来ます。

大体年収の七割ぐらいが手元に残ることになりますね。
びっくりしたのが、所得税と住民税がそれぞれ3%しかないことです。
最初間違いかと思って色々計算し直してみたんですが、この値で間違いないようです。なぜこうなるかというと、所得控除という仕組みがあるから。例えば年収400万でも、基礎控除や健康保険の社会保障費を割り引いて「所得」としてみなして、そこから所得税を計算する。そうすると、例えば400万でも所得税は8万円、2%ぐらいの値になります。

(上記を参考にしました)

所得税、税率だけで考えていたので、10%ぐらいは取られているイメージでしたが、実際は所得控除があるから、それよりもかなり値は下がるんですね。

驚くのが社会保証の高さです。年金だけで9%、ほぼ一割が飛んでいきます。健康保険はまだ大人しい数字ですが、それでも所得税、住民税とどっこいどっこいという所です。

そしてエグいのが消費税。まあ、全額消費したと考えての値なので、かなり無理がある算出なんですが、結構なダメージを私の財布に与えている事がわかります。計算していて、今更ながら腹たってきたぜ。これは影響甚大。

もちろん、間違いもある可能性がありますので、皆さん自分の給与明細から各自計算してみていただけると助かります。
前述したように、私は年収的には同世代の平均値ぐらい貰っています。なので、中央値との関係上、だいたい私と同世代の人間はこの負担率と同程度か低い値になるはず……ですが、私に計算ミスがあれば、その限りではありません。みなさんもぜひ試してみてください。

意外と、税金取られていない

実際の数字を見てどうでしょうか。だいたい三割ぐらい取られていることになるわけで、これが多いのか少ないのかは議論があると思いますが「五公五民」みたいなワードで騒ぐには明らかに乖離している値に見えます。

「じゃあ、47.5%って数字はなんなんだよ!」って思われる方もいるとは思いますが、つまりはそれ以上に負担している人がいるから……なんですよね。例えば、スーパーお金持っている資産家とか、土地から上がる固定資産税とか、大企業の法人税とか、株式の配当にかかる税金だとか。そういうものから上がる税収などなどを合わせて、全体が47.5%。

逆にいえば、そういうお金持ちや大企業や地主がより多く負担してくれている分で、私はだいぶ助かっていると言えるのかも知れません。

負担率の低い社会は「良い社会」なのか?

上記の計算をしていていて、考えてしまったんですが、そもそも「国民負担率の低い社会は『良い社会』なのか?」という悩みどころがあるんですよね。

こちら、財務省が公開している資料になるんですが

https://www.mof.go.jp/policy/budget/topics/futanritsu/sy202302c.pdf より

この値を見ると、そもそも先進国と言われる国々は軒並み日本より国民負担率が上です。フランスやルクセンブルクの数字はちょっとおかしい。どうなってんの?大丈夫?暴動おきない? 一方低い側としては米国があるんですが、米国は貧弱な医療保険が問題視されているわけで、どっちかと言うと「高福祉型の社会を作ろうとすると、国民負担率は上がる」ということなのかもしれません。まあ、考えてみれば当たり前のことなんですが。

そう考えると、逆に国民負担率が高い方が、より富の再分配が行われているから喜ばしいということになるんでしょうか?いやでも、国民負担率が高すぎても、自由に使えるお金が減るわけで良くない気がします。
例えば私の家計簿から消費税や年金のお金を引くと、かなりの額のお金が浮くわけで、そのお金があれば、ちょっといい車を買ったり、ちょっと旅行してお金を地方に落としたりできるわけじゃないですか。逆に、私の負担率が27%から、47%に20%上がったら、流石に生活は厳しくなるわけで……

じゃあ、どんな負担率が適正なんだ?と言われると困ってしまいます。こればかりは答えのないことですし、落としどころを探っていかなければならないとも思いますが。(それはそうとして、消費税は減らしてほしいぜ!)

「無駄」を減らして、本当にいいの?

実際のグラフを見ていてかなり気になることがあります。それは、一番ウェイトが高いものが年金だということ。例えば明石市長(元)のこの発言とか、「一体どこに消えているのか」と言われると、「あなた方世代の年金では?」という話になってしまう。

少なくとも、私の家計簿だと、実際そのようになっている。そう考えると、こういう言い方はどうなんだろなと思うわけです。

泉さん自体にはパワハラとか暴言とかそういう嫌な話があるので、私はかなり警戒しているわけですが(御本人にあったことないのにすみません)、それはひとまず置いておき、本人はそんなに変なことを言っているつもりはないと思うんですよ。実際に国民負担率が上がっているのは事実ですし。でも、その負担率って福祉のお金も入っているわけで……

結構上の世代って「税金の無駄遣いはやめろ!」って言っていればよかったような所あるじゃないですか。でも正直、そういう風潮が色んな所に問題を発生させているような気がするんですよね。

「無駄を世の中から無くすんだ!」と若者に発破かけてたら、「一番無駄なのはお前じゃん」っていきなり殺しに来る日が来るんじゃないかと思ってちょっと怖くなっています。

いや、年金とか健康保険は税金とは違って、病気になれば帰ってくるし、払った年金も一応戻ってくることになっているから(……戻ってきますよね?不安になってきた)、税金とは違うよ!社会福祉の話は分けたほうがいいよ。って言うんだったら、最初からそれを組み込んだ値で話すのがおかしいんじゃないかなと思います。
国民負担率ではなく、所得税、住民税とか、消費税だけの数字で語るべきではないんでしょうか。

そうなると、例えば私の家計簿を元にすると、税負担率は13%になり、江戸時代とかに比べたら天国みたいな数字に思えます。(でも、これでもまだ税金が高すぎる!って人はいると思いますが)

子育て世代のために、年金減額しましょう」と言われた時に私達はどう答えればいいのか。悩みます。もし、私の家計簿から年金保険が消えたら、収入の1割近くのお金が浮くわけで、ありがたいっちゃありがたいわけですけども……。うーむ。(悩む)

計算出来ない国民たち

今回実際に計算してみて、思い知ったんですが、やっぱりちゃんとデータに当たるって大事ですね。ぶっちゃけた話、今回計算するまで、私は所得税の税率をそのまま収入に当てはめて、もっと負担率高いと勘違いしていました。毎月もらっている給与明細を見れば、月にいくら所得税が取られているかはわかっていますし、その割合なんてすぐにわかったのに……。思い込みってマジで強い。本気で反省しました。やっぱ、ファクトよ!

んで、反省がてら、責任転嫁的にもなると思うんですが、ぶっちゃけ国民の大多数がこういう計算やっていないんだろうなと思うんですよね。お前、自分がやってなかったから、国民の大多数もやっていないと主張することで悔しさを紛らわそうとしてんだろ!と言われると、全く反論出来ないんですが、でも、実際に計算していて「こういうのって家計簿ちゃんとつけてないと算出できないよなぁ」と思ったのは事実。

そして家計簿をつけている人は案外少ない。ついでにいうと、計算自体ができる人も少ないんじゃないかなと思うんですよね。今回の件だって、何故か消費税をそのまま足し込んで、「所得税30%、住民税20%、さらに消費税が10%ついて、合計60%の負担」と主張している人がいたりとかで、いやいや、それは違うだろう。と言う気持ちになりました。税率が実態と乖離していることに加えて、消費税は「所得税と住民税を引かれた残り」を全部使った時にかかる税金なので、単純に足し込めないんですよね。

おまけに、この計算もややこしい。例えば、消費税10%の世界で、360万円お金を使ったとします。この時、消費税として取られたお金はその分いくら?って問題を出したら、ほとんどの人が「36万円!」って答えるのではないでしょうか。正解は32.7万円です。なんでだよと言われると計算してくださいと言うしかないのですが、税抜価格×1.1=360万なわけで税抜価格=360万÷1.1、あとはこれを360万から引けば税金の価格が出ます。(単純な方法としては11で割ればいいだけですが)やっていることはぶっちゃけ小学校で習う四則演算なんですが、割合の話になると人間はバグりやすいもの。お恥ずかしい話ですが、私もこの記事の下書き段階では間違ってしまって慌てて計算し直しました。

しかし、税金の計算が正しくできる人間がそもそも少ないと考えると、ますます問題は根深い。自分の払っている税金がいくらか。またそれは自分の収入のいくらかを全く知らない状態で、「テレビが言ってたから」「ツイッターで見たから」で負担率に対して怒るのってちょっと怖くないですか?(ディストピアの国民みたいですよね)

いや、税金のシステムに文句言うんじゃねぇという話ではないです。税金をどう使うか、社会保障はどうしていくか。ってのは凄い重大な話ですし、これには正解はないわけです。我々一人一人が「このぐらいの予算つければいいんじゃないの」みたいに意見を出し合って選択するものですから。現状のお金の使いかたがおかしいじゃん!って話はいくらでもあると思います。ただし、その選択って、ちゃんとした事実に基づいた方がいいですよね。

負担率をつけて喋ってみるのはどうだろう?

そこで、私から提案なのですが、国民負担率に対してなにか発言するときは、「こづかい万歳」みたいに「申し遅れました。負担率27%、太刀川です」みたいな感じで、実際に計算した値をつけてみるのはどうでしょうか?
そうすれば、皆自分の給与明細をきちんと見てから話をするわけで、余計な誤解も生まれないんじゃないかなって思いますし。

国民負担率より低ければ、その分他人がお金を出してくれているわけで「助かった……」ってなりますし、高ければ「あんたは偉い!」ってことになりますし。

いや、でもこうなると、どうしても、税金を沢山収めている方が、人間的に価値があるように思えてきて、段々と「俺は税金を沢山収めているから、俺の言うことをきけ!」みたいにイキり倒す人になってしまう問題点がありますね。やっぱやめです。やめやめ。数字は計算するべきだと思いますが、心のなかにしまっておきましょう。

自分で要求したものに対して怒っても……

ここ数年ですが、私はかなり気になっていることがありまして、得に日本の税負担率の話になると、なぜか累進課税の最高税率を持ち出して怒る人がいることです。例えば所得税の最大値は所得4000万以上の45%なんですが、

この税率を持ち出して「日本の税率は高すぎる!!」って人がいるんですよね。いや、そんな税額を収めるのは日本のほんの一部の話ですし……。だいたいそれって長年「お金持ちからお金を取ればいいだろ!」って言っているまさにそれなんじゃないのかなと思います。(実際には所得税の最高税率は下がっているわけで、じわじわとお金持ち優遇にはなっているわけですが)

まあ、実際にその人が所得4000万円以上のスーパーリッチヒューマンという可能性もありますし、そうなると税金を下げてほしいと思うのは人間ならば当然だと思うので怒る気はありませんが……。

また相続税の高さについて文句を言う人もいるんですが、相続税が高いってそれは世代を追うごとに格差が是正されていくわけですから、それっていいことなんじゃないの?って思ったり。

税金に関しての議論は自由にやるべきだと思いますが、普段「お金持ちからガンガン税金を取ればいいだろう」と言っておいて、その税率を自分のことと勘違いして「高すぎる!」って騒いでも、意味はないですよね。自分で勝手に恐怖して勝手に騒いで勝手に疲弊しているだけなので。

長々と書きましたが、やっぱり何かを考える時に自分の立ち位置を知ることって大事だと思うんですよ。地図を見るためにはまず自分の位置をしることが重要なように。今自分がいくら払っているか。負担率はどのくらいか。実際にスプレッドシートを立ち上げて計算してみる。次の給与明細が来た時にちょっと計算してみるのはいかがでしょうか?私は一年通しての合計で計算しましたが、ぶっちゃけ一月の給与明細だけでも、かなりの精度は出るはず。

きっと見方が変わると思います。

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