『坊主がクレーン車で除夜の鐘を叩くゲーム』を作るときに考えてたこと
こんなゲームを作りました。
タイトルは『坊主がクレーン車で除夜の鐘を叩くゲーム』 実作業時間10人日くらいで製作した小型のゲームです。
告知ツイートが2.6万いいね
Twitterでトレンド入り
各種有名ゲームメディアに取り上げられる
仕事猫で有名なくまみね氏がRT
兎鞠まり氏にプレイしてもらえる
累計プレイ者数33万人超
など、かなりの方に楽しんでもらうことができました。
Twitterでの反応をみると、その発想の突飛さに驚いているひとが多い印象を受けたが、自分としてはそこまで変なことをしているつもりはなく、わりとロジカルに必要な要素を集めて組み立てて行っただけという認識だったりする。
というわけで、本記事では自分がどのような経緯で、どのようなことを考えながら『坊主がクレーン車で除夜の鐘を叩くゲーム』を作ったかについて語りたい。
発想の原点は「二重振り子」と「テニス」
ゲームを閃いたきっかけは2つ。
①二重振り子という概念を知ったこと
②テニスを初めたこと
①の二重振り子についてはどこかでその概念を知り、その不思議な動きがとにかく魅力的で延々と眺めてしまうことから強い魅力を感じていた。
②のテニスについては、強い打球を打つための身体の動かし方として「上腕の回転」と「前腕の回転」ふたつの力をうまく合成することで瞬間的に強いインパクトを出すというやり方があることを学んでいた。
この2つの記憶がふとしたタイミングで合体し、
「二重振り子で何かを思いっきり叩いてインパクトの威力を競うゲーム作ったら楽しいのでは」
という閃きを得た。たしかテニス壁打ちやって自宅に帰るために自転車こいでる最中に思いついたんだったと思う。
二重振り子による独特の動きはつい目で追ってしまう魅力がある。それをゲームにして、当たる当たらないで一喜一憂してもらえるのなら二重振り子の動きをより能動的に見て、動きをより強く楽しめるようになるだろう、これは絶対面白いやつだ、って確信があった。
ゲームシステムは半自動的に決まった
根幹となる遊びが決まったので次は具体的なゲームシステムを決める。が、ここはほぼほぼ一瞬で決まった。それこそ5秒くらいでパッと固まった。
二重振り子の動きが美しい
→ なら振っている最中はプレイヤーの介入はさせたくない二重振り子によって可能性無限大のカオスな動きが生まれる
→ 初期配置を指定するだけのシステムで無限の奥深さが作れるはず振り子の初期位置を決めて眺めてるだけのゲームならそれ以上広がりようがない
→ 要素最小限のめちゃくちゃ小さいゲーム、ブラウザで無料プレイ威力を競うゲームにする
→ 強く叩けたときの手応えは徹底的に追及する
物理による遊びで誰でもぱっと理解できること、難しい操作が不要なこと、難しいこと考えなくてもガチャのように楽しんで貰えること、一方で物理知識を活かした工夫も楽しめることなど、カジュアルゲームとして非常に優れているだろうと考えた。
なぜ除夜の鐘をクレーンで叩くことにしたか
最初に考えた世界観は「ロボットボクシング」だった。
「関節が2つある腕のようなもの」「強く叩くと嬉しいもの」と考えたら必然的に「ボクシングだ」となり、仮で作ってみたところ…
見てるだけのゲームなので相手が殴り返してきても意味がない
→ 相手キャラの両腕を削除自キャラも両腕動かすと左腕と右腕どっちを追えばいいか分からず目が泳いでしまう
→ 自キャラの左腕も削除
となっていき、両者腕がもげた状態で一方的に殴り続けるだけのグロテスクなゲームになってしまった。そこで一旦暗礁に乗り上げてしばらく放置することに。
しばらく経った後、同好の仲間と「何か叩いて楽しいものはないか」と話していたところ、年末に出せたらいいよねという話から「除夜の鐘」というアイデアが出た。
横から叩くものであるため振り子運動と相性がよい
沢山叩く必然性がある
叩いたときの音に特徴があり、気持ちよさを生み出せそう
制限時間に「年が明けるまで」という理由が付けられる
ノルマクリアすることに「煩悩を祓いきる」という理由が付けられる
「坊主」あるいは「和尚」というキャラが使える
考えれば考えるほど、除夜の鐘が持つ機能が考えていたメカニクスと相性が良いかったので、ほとんど迷うことなくコレに決めることができた。
また、本来108回叩かなきゃいけないものを一撃でまとめてしまうことができる馬鹿馬鹿しさがあることや、過去に流行った動画「木魚を叩くたびにダメージ数字が出てくる」ネタがシュールで面白かった記憶も蘇り、これはベストマッチだなと思った。
色々な理由で開発を断念することにした
が、除夜の鐘に変更してからほどなくして再び暗礁に乗り上げ、制作意欲がなくなってしまった。
理由は…
①振り子が稀に加速し続けゲームの面白さが壊れる問題
②振り子がすぐに減速してしまい動きが面白くない問題
③振り子が揺れるだけの地味なゲームでしかないのでは疑惑
④攻略性が低すぎるのでは疑惑
もともと1~2週間でぱぱっと作って出す予定だったので上記の課題を解決するために色々試行錯誤を続けてもコスパが悪いと思ったことや、コアメカニクスを確認できたので自分の中で結論が出てしまって興味を失ってしまっていたことなどもあり、開発中断することに決めた。
が。
開発中止ツイートへの反応が良すぎたため、きちんと完成させることを決意
供養のために動画だけツイートして終わろうと思ったところ、そのツイートが1万いいねもついてしまった。
まだ演出も最低限の状況なのにこの反響があるってことは、このゲームってかなりユニークで面白いものなのか??? 地味ではない? しかも致命的な欠点として挙げた永久機関現象が逆にウケている!
除夜の鐘をクレーン車で叩くというユニークなシチュエーションについても、自分は純粋に機能面から考えていただけだった。「それなりの高さがあり、肘の部分にあたるパーツがあり、かつ除夜の鐘の隣にあっても変ではないもの」という条件で考えたときにクレーン車がちょうど良くて選んだだけで、自分の中では「無難すぎるかもなあ」という認識だった。
このように自分ではそこまでおかしなものを作っている認識はなかったが、他の人からすると相当ユニークで面白いものであるということが皆の反応から伝わってきた。
また、こうやって製作途中のものを放り投げてしまうのは自分の悪い癖だと思っていたこともあり「改めてちゃんと完成させよう」と決意した。
まずは課題解決
※これ以降、ゲームのネタバレが含まれています。
まずは上記の課題を解決する必要がある。
①永久機関問題 → 裏技ということにして楽しんでもらうように
永久機関が作れると「それが最善手になってしまい攻略の面白さが消える」「永久機関を狙う遊びは二重振り子の面白さも消し飛んでしまう」ため自分にとっては致命的な問題だと思っていた。
が、これを面白がってくれることが分かったので発想を逆転した。
永久機関が起こらないように修正するのではなく「永久機関が発生するとアームが折れる演出から寸劇が始まる」ようにして面白がってもらうようにした。
もちろん、永久機関が二重振り子の面白さや攻略性を減らすことは変わらないので、面白がってもらいつつも、展開的にはバッドエンドにし、スコアを隠すことで取り上げることでゲーム的にはミス扱いであることは伝えるようにした。
②減速問題 → 調整で頻度を下げることで丁度良いスパイスに
当初の想定では、肘部分と手部分それぞれの重さを調整可能な作りにしていた。が、セッティングによっては重量バランスが悪くて二重振り子の面白い挙動が出なかった。
色々試した結果、肘部分が軽すぎると止まりがちになってしまうことが分かったので、肘部分を重い状態のまま重量固定にしてセッティングの自由度を下げることで、どんな設定でも二重振り子の面白さが確保されるようにした。
それでも減速してしまうことがあるが、捉え方次第ではこれは「セッティングの良し悪しが分かりやすく出る」「あと10煩悩なのに全然叩けない…! というギリギリのドラマが生まれる」といった利点に繋がることが分かったので、むしろ利点であることが分かった。
つまらなくなることが適度にあるのなら、それは面白さを強調するためのスパイスになり得る。
③地味なゲーム疑惑 → 演出を頑張った
これは演出面で力業めちゃめちゃ頑張って解決するしかなかったのでめちゃめちゃ頑張った。
演出のコンセプトは「脳天気で明るくハッピー」。
個人的にプリキュアシリーズが好きなんですけど、2021年に放送されていた『トロピカル~ジュ!プリキュア』の徹底的に明るいオープニングがコロナなどで鬱屈としていた空気と対照的で明るい太陽で照らしてくれてる感じがすごく好きだった。2023年はコロナの脅威はそれほどでもなかったが、猛暑やら戦争やら税金やらで大変な1年だったので、やはり徹底的に明るくするのはピッタリだろうと判断。海があるのは無意識だったけど、まさにこのオープニングの影響だったと思う。
この演出を作っている時期、ちょうど曲生成AIの SunoAI が流行っていたので、ちょうどいいやと深く考えずに歌詞を入力した。
音楽に関しては全然詳しくないし作詞なんて1ミリもやったことないので、逆に肩の力が抜けてたのが良かったのかもしれない。10秒くらいで適当に考えた歌詞が、曲にしてみるとかなり化けた。
AIに複雑な指示を出したわけではないが、代わりに50案くらい作ってその中から自分の耳で聞いて「ゲームの雰囲気に合うか」「朝になった瞬間が一番最高潮になるような曲か」「耳に残るか」「自分が良いと思うか」といった判断基準で厳選した2曲なので、よいものになったと思う。
AIに頼ってはいるが、選んだ2曲が良い曲であったなら、それは人間の力だと思う。
④攻略性低すぎ疑惑 → 動かせる部位の追加
当初の想定では、動かせる部位が「フックの位置」「金槌の位置」「先端重量の変更(金槌木槌切替)」の3点のみだった。これだけでも十分面白かったが、選択の幅が狭く窮屈な印象があり、また攻略の奥深さという観点でも物足りなかった。
そこで「振り子の根元の位置を調整できるようにしよう」と考えたが、これには分かりやすく明確な「正解」が存在してしまっていた。
振り子の根元の位置は、横軸に関しては「鐘の真上」がベストで、縦軸に関しては「できる限り高い位置」がベストだった。よほど変な攻略法を思いつかない限りはこれが鉄板でそれ以外の選択肢が発生しえない。
が、問題点をここまで理解した段階で自動的に解決してしまった。
このゲームは「クレーン車」だったので。
つまりこういうことだ。振り子を支えるクレーンのブーム(伸び縮みする黄色い支柱部分)の角度を変更することで、振り子の根元の位置を「斜めにのみ動かすことができる」という制限を付けることができたのだ。
根元を斜めにしか動かせないのならば、
「横軸でベストを得ようとすると縦軸がベストでなくなる」
「縦軸でベストを得ようとすると横軸がベストでなくなる」
という形となり両立することができなくなる。ジレンマが発生するので、攻略性としては優れた選択肢として成立するのだ。
これはシンプルに運が良かった。大きな変更も不要で、ブームを動かす処理の実装も振り子と同じ仕組みを持ってくるだけで作れたので非常に楽だった。でもこれで攻略性としては必要十分になった。
といった工夫で、4つの課題をなんとか解決できた。
目標を「バズるゲーム」に変更
元々の目的は「息抜きで作る最小限の小さいゲーム」だったが、開発中止ツイートがかなり好評だったことから目標を「年末に出して激バズりするようなゲームを作る」に再設定した。
バズるゲームにするために工夫したポイント、ほか工夫したポイントなどを以下に列挙する。
難易度はギリギリまで高くする
バズってクリア報告がたくさん上がってくる流れを大前提にしていたので、
「クリアできない」 → 「クリアできないけど他の人のクリア報告を見る」 → 「ムカついてやりたくなる」 → 「クリアしたらうれしい&ドヤれる」 → 「報告したくなる」 → 「他の人がそれを観てぐぬぬってなる」
という循環が生まれるだろうと考えた。そのために難易度はギリギリまで上げた。ゲームの賞味期限的に考えてもクリアした時点でだいたいの人にとっては無価値になるので、ボリュームという観点でも難しくする必要があった。
ノルマクリア前と後で演出に大きな落差を作った
夜状態と朝状態で雰囲気に大きな落差を作りコントラストを高め、クリアしたときの感動を強めた。
かつ、リリース時点でノルマクリア後の演出も曲も一切見せていなかった。隠しておくことでプレイした人がめちゃめちゃ驚くだろうという狙い。
音を重ねて気持ちよくした
「鐘を叩いて気持ちいい」はゲーム体験としてめちゃくちゃ重要なので、効果音を複数重ねて気持ち良さを出した。(下記動画参照)
ズル対策はしっかりやる
振り子を永久に伸ばし続けられるテクニックが存在していたのを潰して一定以上は伸ばせないようにしたり、クリア後に永久機関に入ってもNGになるようにカウントダウン式認定マークの概念を導入するなど、スコアアタックをダイナシにする要素は極力対策した。
不正にスコアを稼ぎまくれる不具合がリリース後に見つかったが、これもしっかり潰した。
ちゃんと頑張った人がちゃんと褒められるようにして、スコアアタックをちゃんと楽しんでもらいたいという意図によるもの。
重度なバグ以外ははそのまま残す
もともと突貫工事だったので色んなレアケースで色んなバグがあることは分かっていた。が、スコアアタックに影響があるもの以外は基本的に全てそのまま残した。
例えばゲームクリア後に無限に叩き続けられるバグは認定マークの信頼性が落ちスコアアタックの面白さが消えるので潰したが、ゲームオーバー後に無限に叩き続けられるバグはそのまま残した。原因はまったく同じなので1箇所の修正で同時に修正されるのだが、ゲームオーバー時の方はあえて回避するようにしてバグを意図的に残した。
なぜなら、バグに遭遇することもまた楽しいことだと考えるから。実際、「バグった」と投稿している人を多数みかけ、いずれも楽しそうだった。
ランキング機能は使わない
UnityRoomにはオンラインランキング機能が搭載されているが、自分はそれを使用しないことにした。自分は「オンラインランキングがない方が、スコアアタックがより面白くなるだろう」と考えているからだ。
世界のトップが可視化されてしまうと多くの人の「俺すごくね?」が「俺、全然だめじゃん」に変換されてしまう機会がものすごく多くなる。
例えば今だとご利益3000超え認定マーク付きのハイスコアが叩き出されているが、これがランキングで全プレイヤーが眺めたらどうなるか。ご利益200出せたら相当凄いはずなのに、全然すごくない気がしてしまうだろう。
ハイスコアは雑多にSNSで挙がるので気になる人は漁ってみればいい。その人が求めるぶんだけの視野の範囲で比べてもらえばそれで十分。
その代わり、「作者のハイスコア」を記載した。
作者はそのゲームを知り尽くしている神のような存在なので、その作者より高いスコアを取れるってことは神を越えたのと同義なのでそれは間違いなく「俺すごくね?」と思える基準になるはずだ、と考えている。
実際、作者のスコアを超えたぞ! とツイートしてくれる人を複数見たので機能していると思う。
ちなみに作者のハイスコアは ご利益107 です。
クリア画面は「年賀状に使えるもの」に
高難易度ゲームなので一番シェアされるのはクリア画面だろうと想定し、クリア画面がもっとも映えるように作ろうとした。
ちょうど「HAPPY NEW YEAR!」と表示するつもりだったので、ここのコンセプトは「年賀状にも使える」というイメージで作った。
方針自体は良かったと思うが、明確な反省点に今になって気付く。
干支を出せばよかった
せめて「2024」の文字入れればよかったのに
ゲームタイトルが分かるようにすれば良かった
バズ目的だから「こそ」ゲームとしてちゃんとおもしろく
バズ目的というとなんとなく「見栄えだけ良くすればいい」というイメージがあるが、そんなことはないと思う。
プレイした人が楽しんでくれて、その「楽しかった」という気持ちを共有する行為がシェアだと思っている。見た目やネタで面白がらせた上でゲームとしても面白い体験をしてもらって、相乗効果で「楽しかった」という気持ちを与える方がバズの力は高まるはず。
なので操作性や手触り感などは徹底的にチューニングしたし、攻略の面白さを出すためにあらゆるセッティングでプレイして強すぎる戦法が生まれないように調整した。
シェアされている話題を見ると、ネタ部分だけでなく、クリアした喜びを報告してくれる方、ハイスコア研究をしてくれる方などもかなり多く、さまざまな角度から楽しんでくれていた。
バカゲーとしてだけではなく、真面目なゲームとして見ても魅力あるゲームに仕上がったと思う。
バズを振り返って
正直言うと、絶対バズるだろうという確信を持って出したので「してやったり」という気持ちがでかいです。
ただ、まさかここまでの規模で流行するとは思っていなかったので、かなりびっくりしています。
もちろんこれは一人で作り上げたものではなく、ゲームの魅力が伝わりやすいように拡散してくれる方や面白い遊び方を見つけてくれた方、ゲームの魅力が上がるようなツッコミをしてくれる方などのおかげです。楽しんでくださって本当にありがとうございます。
また、開発過程でいろいろ話を聞いてくれてアイデアを出してくれた方達や、開発中止ツイートに反応をくれた方達がいなければ完成することすらなかったはずなので、大変感謝しています。
ありがとうございました。来年もよろしくお願いします。
あ、もしプレイしてなければ今すぐプレイ!
実はニカイドウは長文を書くのがすごく苦手で、まともに読める状態にするまでにものすごく時間がかかってます。情報収集や裏取りの時間も含め、1記事完成までに8~16時間かかってます。 すごく大変なやつなので、サポートいただけるとものすごくものすご~くありがたいです!