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僕の卒業論文を公開します(その2)

今回はその1の続きからまいります。その1をまだご覧になっていない方はこちらからどうぞ。卒論の概略や研究しようとした動機について書いてますので是非ご一読ください。

第3章の概略〜絵画における「中心」と「周辺」

<「郊外」の誕生>
風景画といえば18世紀頃は、森の中や田園風景を主題とした作品が多かったが、産業革命や第二帝政期のオスマン改造によりパリにおいて人口が増加したことによりパリが近代化を果たした。その影響として19世紀印象派の絵画の中には、田園風景とその奥に工場が描かれるようになり、都市と田舎の中間である「郊外」が誕生した。
例)カミーユ・ピサロ「ポントワーズの工場」・・・田園風景と工場の融合
クロード・モネ「サン・ラザール駅」・・・近代化の象徴である駅舎
ラウル・デュフィ「パリ」・・・近代化した都市パリをよく表した絵画

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カミーユ・ピサロ『ポントワーズの工場』(1873)
ポントワーズはパリ北東に位置する都市。印象派で知られるセザンヌやゴッホも住んだ場所として知られる。

そんなに文量は多くないので、4章にまいりましょう

第4章の概略

<19世紀フランス文学における「越境」>
古くから存在する身分制度と、逆らうことのできない階級間の移動。身分階級や財産という問題は資本主義社会において重大な問題となっていた。教養小説というジャンルでは、人間喜劇で有名な『ゴリオ爺さん』の主人公ラスティニャックが富の中心パリでさらに中心へと登りつめようとする青年の様子が描かれることとなる。そしてその導き手は女性であり、社交界においてラスティニャックは女性の力を借りながら越境していくこととなる。越境という意味では貧しい家庭に生まれながらも娼婦や女優として「中心」へと越境する女性も存在している。越境することは女性だけに許された特権なのかもしれない。[中略]
今回はパリの19世紀においてお針子や娼婦が、ある程度貧しい家系に生まれるものの裕福になっていく女性の典型として描かれるロマン主義的な娼婦文学として有名なデュマ・フィス『椿姫』(La Dame aux camélias, 1848)や自然主義的な娼婦文学であるエミール・ゾラ『ナナ』(Nana, 1879)を取り上げ、フランス文学において「周辺」(=貧困層あるいは労働者階級などの中心から離れた集団または空間)から「中心」=(富裕層あるいは世界における強者が存在する集団または空間)へと身分や世界を越境あるいはその逆の力学によって没落していく物語について比較していく。

<主に取り上げる作品>
 ・バルザック『ゴリオ爺さん』(Balzac《Le Père Goriot》, 1835)
 ・デュマ・フィス『椿姫』(Alexandre Dumas fils《La Dame aux camélias》, 1848)
 ・エミール・ゾラ『ナナ』(Emile Zora《Nana》, 1879)
あらすじに関しては調べれば出てくるでしょうし、長くなるので割愛します。

<教養小説について>

バルザックの『ゴリオ爺さん』はしばしば教養小説として位置づけられ、周辺から中心であるパリへと上京した青年がパリの上流階級での成功を夢見て中心へと登りつめる物語として知られる。「人間喜劇叢書」の一作目である本作品の続編ではラスティニャックが上流階級へと上昇し、デルフィーヌと愛人になることで彼女の野心を利用し彼は中心への花咲かせようと考える。このように男性にとって身分の越境の導き手であるのは女性であることが少なくないのだ。最後の場面では、ラスティニャックが身分的な中心である社交界への出世を夢見る中、こうした地理的な中心でもあるパリだけでなく上流階級という身分的な中心とも対峙することで、読者に今後の展開を予測させて物語は結末を迎える。

教養小説とは主人公の体験に基づく内面的な「成長」を主題にすえた文学作品のことで、もともとドイツ語Bildungsromanの訳語です。だから成長小説ともしばしば呼ばれます。
で、主人公ラスティニャックは「社交界」という上流階級の名家や貴族たちが集まる夜会において出世を夢見て、ゴリオ爺さんの住むヴォケール館に下宿するわけですが、親戚やそこで出会った人々と交流を持つことで社交界に出入りするようになり、その頂点をめざすというわけです。

<裏社交界(Demi-Mondaine)について>
社交界に対比して19世紀に登場したのが裏社交界です。社交界には出入りを許されない爵位を買った貴族や高級娼婦などが出入りする場所になります。特に自然主義文学において描かれるようになり、エミール・ゾラ『ナナ』のヒロインもそこで花開いた高級娼婦です。

<19世紀レアリスム文学(広義)における登場人物、階層>
・爵位を買う貴族(↔︎伝統的な貴族。アンシャン・レジームの崩壊により、貴族の爵位)
・娼婦・・・数多くの男性と関係を裏社交界で華々しく中心に花開いた娼婦は特に高級娼婦(クルティザンヌcourtisane)と呼ばれる。
・画家・・・貧しくパリに出て屋根裏部屋などで下宿するケースが多い。
・労働者・・・産業革命により工場で働く者が増えた。
など

明日の分を少し出したところでこの辺にして、その3へ続きます。自然主義文学とロマン主義文学における娼婦の描き方の差異を論じて行きます。

最後までお読みいただきありがとうございました。なるべく背景知識や補足もしていきますので、明日もお付き合いくださいm(_ _)m

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