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変形性股関節症の病態理解〜運動療法

【変形性股関節症の運動療法】

日本における変形性股関節症(以下股関節症)の有病率は1.0~4.3%で、男性は0~2%、女性は2.0~7.5%と女性で高い傾向にあります。若い時には痛みは出現しませんが、年齢とともに股関節に痛みを伴うことが多くあります。

そんな、股関節症ですが人それぞれ本当に症状が様々です。
痛みの出現する方、しない方がいますが、股関節症の治療原則として基本的に保存療法が選択されます。

股関節症の運動療法では、疼痛緩和、筋力増強による機能改善、関節の安定性や可動域の改善を目的に行われます。また、運動療法は短・中期的には疼痛緩和、機能改善に有効なエビデンスが存在しますが、長期的な効果としてエビデンスはありません。

運動としては有酸素運動や筋力訓練、水中ウォーキングなどが効果的だとされています。

では、実際に臨床ではどのような方に、どんな運動を処方すればいいのでしょうか。
先ほども申しましたが、股関節症は人によって症状が様々です。レントゲン上症状が進行している方よりも進行していない初期の方の方が痛みが強いことはよくあると思います。

その為、全員に同じ運動を処方するというよりもアライメントや筋力、可動域、歩行などを総合的に評価して運動を処方する必要があります。


・変形性股関節症の病態

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股関節症は関節軟骨の変性や摩耗による関節の破壊や反応性の骨増殖によって股関節の変形をきたす疾患です。

股関節症は一次性と二次性に分けられ、一次性は明らかな原因が不明で、二次性は先天異常、または後天的疾患に続発します。

日本では二次性が多く、臼蓋形成不全がその原因として最も多く、一次性の割合としてはごくわずかです。

股関節症の状態として病期が進行するに従い、臼蓋と大腿骨頭の適合性が悪化していきます。通常、臼蓋に対して大腿骨頭は3分の2が収まる構造になっています。

CE角(大腿骨頭の中心と寛骨臼外側縁を結ぶ線)で言えば25度以上が正常です。しかし、臼蓋形成不全ではCE角が20度以下とされています。

つまり、臼蓋に対して骨頭の被りが浅い状態です。その為、荷重時に大腿骨頭の前上方部に関節応力が集中し、股関節痛が発現しやすくなります。

さらに進行していけば、関節裂隙の狭小化や骨硬化、骨嚢胞、骨棘が形成されることになります。その結果、臼蓋と骨頭の適合性は低くなってきます。

しかし、病期の進行具合と痛みは必ずしも相関しません。逆に進行していくと痛みを感じなくなることもあります。

因みに、よく股関節症の方は軟骨がすり減って股関節が痛いと言われますが、

関節軟骨には痛みを感じる自由神経終末や固有受容器は存在しないため、軟骨がすり減っても痛みを感じません。

軟骨がすり減り、軟骨下骨に加わるストレスが増大し痛みが生じることはあります。


・股関節症の診断方法

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股関節症の病期は単純X線で、
前股関節症・初期股関節症・進行期股関節症・末期股関節症の4期に分類されます。

・前股関節症
臼蓋形成不全のみで骨硬化や変性摩耗などの関節症変化はほぼない

・初期股関節症
関節裂隙のわずかな狭小化、荷重部の骨硬化

・進行期股関節症
関節裂隙の明らかな狭小化、骨頭や臼蓋辺縁部の骨棘形成、嚢胞形成

・末期股関節症
関節裂隙の消失、骨硬化、骨嚢胞、骨棘形成など

上記の順で症状が進行していきます。

これらは関節裂隙の狭小化具合で評価していきます。

このほかにも、進行とともに大腿部痛や膝痛、夜間時痛、可動域の制限や脚長差などあります。特に可動域の制限は顕著で、爪が切れなくなる、靴下がはけない、正座ができなくなるなど日常生活に様々な影響を与えます。


・股関節症のアライメント

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股関節症のアライメントで特徴的なパターンは、
「腰椎前弯・骨盤前傾・大腿外旋・下腿外旋(大腿と相対的に)・足部扁平化」
※あくまで主観的に多いパターンです。

このようなアライメントの方が非常に多い印象です。

もともと股関節の構造としては骨頭の前方被覆度は低い傾向にあります。つまり骨性の支持が極めて低い状態です。

その為、股関節症では大腿に対して骨盤を前傾(屈曲)することで臼蓋に対して骨頭の被覆率が高まるので股関節の安定性が高まります。

さらに、骨盤の前傾に伴い腰椎は前弯していきます。

骨盤が後傾すると骨頭の前方被覆率は減少し荷重時に股関節前方や後方に痛みを訴えるので骨盤が後傾しないように前傾位で固めようとします。この時働く筋肉が股関節屈筋群(腸腰筋、大腿筋膜張筋、中殿筋前部繊維など)です。

骨盤が前傾位で固まるのでその上の腰椎も前弯で固まり可動域が減少していきます。

適合性の悪化、骨盤前傾位で固定、腰椎の可動域減少などの因子により股関節は全可動域において減少します。特に、股関節の伸展、外旋は可動域の低下が顕著にみられます。


・股関節症の運動療法

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運動療法の目的としては股関節の可動域改善、脊柱の可動域改善、股関節周囲筋の筋力強化が選択されます。

痛みが出ないように骨盤前傾で固めているんじゃないかと思うかもしれませんが、それはそれで股関節の一部分にストレスがかかり続け痛みが出やすくなります。

股関節の可動域や骨盤、腰椎の動きなどを確認しながら痛みが出ないように運動を進めていく必要があります。

股関節症の方に運動を処方していくうえで大切なことは、

・股関節伸展筋の可動域向上
・股関節外転筋力強化
・脊柱の可動域改善

これらが大切なポイントです。
一つずつ説明していきます。


・股関節伸展筋の可動域向上
股関節症では股関節伸展可動域が低下します。その理由は、骨頭の被覆率を向上させるために骨盤が前傾し、股関節前面についている、腸腰筋、大腿直筋、大腿筋膜張筋などが股関節をガチガチに固めてしまうからです。

骨盤の前傾は言い換えれば股関節の屈曲です。屈曲筋が硬くなれば伸展可動域が低下するのは容易に想像できると思います。

この状態での荷重や歩行は一定方向にストレスが蓄積し股関節痛を生じる原因になります。

なので、骨盤前傾を改善する必要があります。

まずはどの筋が硬いのかを見極めます。
腸腰筋はThomas test、大腿直筋はHeel Buttock Distance、大腿筋膜張筋はOber testなどの整形外科テストを行います。これに加えて、触診などでどの筋に緊張が生じているのかを評価していきます。

私が股関節伸展制限の方によくやっている運動は、
① 腸腰筋エキセントリック
ベッド上で背臥位になり患側の下肢をベッドから垂らします。このとき必ず補助を忘れずに。そのまま股関節を痛みの出ない範囲で伸展していき屈曲を繰り返します。これを行うことで股関節前面の伸長感さらに屈曲するときの求心性収縮が行えます。(トレーニング効果としては効果は薄い。あくまでもストレッチの意味が大きいです。)

② ヒップリフト
ヒップリフトで使う筋肉は大殿筋や中殿筋などの殿筋群です。股関節症の方は殿筋の筋機能低下があることから殿筋の収縮を入れていきます。さらに、ヒップリフトは股関節伸展を行うので股関節前面筋群を伸長させることもできます。膝の屈曲角度や股関節の外転角度を変えることでメインで働く筋肉を変えることができます。


・股関節外転筋力強化
外転筋で注目されているのは中殿筋だと思います。しかし、解剖学的観点から見ていくと小殿筋も非常に重要な筋肉と言えます。筋の付着部を見てみると小殿筋は大腿骨頚部と平行に走行しベクトルで表すと求心方向に向いています。その為、小殿筋は関節の安定化に重要な働きをもっています。

小殿筋の強化方法として、股関節外転20度で保持しそこから外転運動を行います。外転20度では中殿筋の活動が低下するのに対し、小殿筋は筋活動が維持されたという報告もあります。

いずれにしても外転筋を使って関節を求心位に保つことは非常に重要だと言えます。


・脊柱の可動域改善
脊柱は前弯で固定されることが多いのでこれを改善していきます。もともとは生理的湾曲は前弯ですが股関節症では前弯が強くなります。後弯方向に動かすことを学習させる必要があります。もちろん、痛みの出ない範囲で、です。

私がよく行っているのは、pelvic tiltという運動です。
骨盤を中間位から前傾方向、後傾方向に可動させます。この時、胸郭を前方に動かさないように注意します。骨盤を動かすことによって上についている腰椎も連動して動いていきます。この運動を行うことで腰椎の動きを出せるとともに、骨盤前傾筋である多裂筋や腸腰筋の緊張を改善することができます。

そして、胸椎の回旋を行います。もともと、腰椎は回旋可動域を持ちませんが、股関節症では骨盤を後方回旋させて歩行することが多いので腰椎にも回旋ストレスが加わることになります。それを改善するために胸椎回旋の可動域を向上させて動きを股関節・腰椎で代償させないようにします。


まとめ
・股関節症の運動療法は短・中期では効果的。長期的なエビデンスは確認できていない
・進行性の病気だが、画像と臨床所見は一致しないことが多い
・アライメントが骨盤前傾、腰椎前弯で固定されていることが多いが無理にアライメントを変えるのではなく痛みのない範囲で可動域の改善を図っていく


参考文献

・変形性股関節症診療ガイドライン2016

・The functional anatomy of tensor fasciae latae and gluteus medius and minimus
F Gottschalk et al. J Anat. 1989 Oct.

・Functional evaluation of hip abductor muscles with use of magnetic resonance imaging
M Kumagai et al. J Orthop Res. 1997 Nov.

・嶋田 有馬 訳:筋骨格系のキネシオロジー

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