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グロインペイン症候群の原因と改善方法

【グロインペイン症候群の原因と改善方法】

鼠径部痛症候群は別名グロインペイン症候群(以下GPS)とも呼ばれ、

ランニングや起き上がり、キック動作など腹部に力を入れたときに鼠径部や

その周辺に痛みが生じる股関節周囲の痛みです。

主にサッカーやラグビー、ホッケーなどの

切り返しを多く行うスポーツに多く発生している。さらに慢性化や再発もしやすい。

しかし、GPSは股関節周囲の様々な原因が絡み合い未だにはっきりとした原因が分かっていない。

そんなGPSについて病態~アスリハまでを紐解いていきます。

・病態


体幹から股関節周辺の筋肉や関節の柔軟性(可動性)の低下による拘縮や

骨盤を支える筋力(安定性)低下による不安定性、

体幹と下肢の動きが効果的に連動すること(協調性)ができずに不自然な使い方によって、

これらの機能が低下し痛みと機能障害の悪循環が生じて症状が慢性化していく。

可動性・安定性・協調性に問題が生じたまま、無理にプレーを続けると、体幹から股関節周辺の機能障害が生じやすくなる。

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要は体が硬くて、筋力が弱く、体の使い方が分からない選手に発生しやすいということです。

柔軟性と筋力が共に低下しているので体を上手く使えずに

そのまま無理にプレーを続けてしまい慢性化や再発を繰り返すようになってしまいます。


・発生メカニズム


急なストップ動作や方向転換などで内転筋が急激に伸長~短縮し、

筋腱移行部に過度なストレスが発生する。

下記はGPSの運動学的リスクファクターとされます。

・股関節外旋可動域の減少
・股関節内転筋力の低下
・股関節屈曲運動(非荷重・荷重位)中の長内転筋に対する中殿筋の活動(筋放電)の比率低下
・自動下肢伸展挙上運動初期の腹部筋活動の開始遅延


・診断


MRIやMR関節造影画像、単純X線、超音波は診断を助ける手掛かりとなります。

しかし、グロインペインは複数の病態が混在しているので画像で異常があっても

股関節周辺に痛みを感じないケースやその逆も見られることがあります。

また、近年このような報告があります。

仁賀、二瓶らはスポーツ中のグロインペインを主訴とした選手にMRIを施工し自発痛部位の割合を調査、

難治性グロインペインに特徴的なMRI所見の有無で分類し、

それぞれの自発痛部位と難治性のグロインペインのMRI所見との関連を検討した。

その結果、自発痛は鼠径部(47%)に最も多く認められたが、

難治性グロインペインに特徴的なMRI所見との関連を認めた自発痛部位は、下腹部、会陰部、恥骨結合部であった。

この結果から必ずしも痛みの部位と画像上の所見は一致しないことが分かるかと思います。

グロインペインは感度・特異度ともに高いクリニカルテストや画像検査は未だに確立されていないのが現状です。


・ドーハ分類


グロインペインを評価する際に重要なのが「ドーハ分類」です。


ドーハ分類の特徴として画像診断を含まないことが特徴的

理学所見(触診・ストレッチ痛・ストレス抵抗痛)のみで下記の5つのグループとその他に分類したものになります。

1内転筋由来
2腸腰筋由来
3鼠径管由来
4恥骨由来
5股関節由来

その他:・鼠経もしくは大腿ヘルニア ・ヘルニア修復術後 ・神経絞扼 ・関連痛 ・骨端症 剥離骨折

一つずつ詳しく説明していきます。

・内転筋由来
長内転筋など内転筋群の起始部や筋腱移行部に痛みを訴え、

股関節の内転、屈曲などの動きを回避する。


長内転筋の圧迫や股関節内転抵抗テストで痛みを訴える。

長内転筋の圧迫のやり方として、患者を仰臥位で股関節30度ほど屈曲位にして長内転筋腱とその周囲を圧迫する。

股関節内転抵抗テストは股関節伸展位(0度)と股関節屈曲位(45度)で評価する方法がある。

検者が股関節を外転方向へ抵抗をかけ患者は股関節を内転させ、

内転筋の等尺性収縮を確認する。

鼠径部痛を有する選手は股関節の内転筋力の低下があることから

外転抵抗に負けてしまう場合や内転筋腱に痛みを訴える場合がある。


・腸腰筋由来
腸腰筋付近に痛みを感じ、股関節の屈曲もしくは腸腰筋が伸長される股関節伸展位で痛みを訴える。

腸腰筋の痛みを評価する方法として、腸腰筋の圧迫テスト、腸腰筋の伸長テストがある。


しかし、腸腰筋の周囲には他の組織が重複しており圧迫テストに関しては不確実性があるため、

腸腰筋の伸長テストがベターではないかと思います。

腸腰筋の伸長テストは、一側の下肢をベッドから垂らした状態にし、

もう一側の膝を抱え込む。

大腿が水平面より上の場合はタイトネス有りと判断し、

水平面より下に下がっている場合はタイトネスなしと判断する。


・鼠径管由来
鼠経管由来のグロインペインは、触知できるほど明らかなヘルニアではないが、鼠径管後壁が損傷し、

腹横筋や内腹斜筋腱と腹横筋腱が断裂することで生じる。


いきみや咳、くしゃみなどで鼠径管の痛みを感じる。

鼠径管圧迫テストや腹部筋の抵抗テストを行う。

鼠径管圧迫テストは、鼠径靱帯の遠位3分の1の上部を圧迫する。


腹部抵抗テストは、背臥位で膝を屈曲した状態から体幹を屈曲する。

どちらも鼠径管に痛みを感じれば陽性となる。


・恥骨由来
恥骨結合とその周囲の骨に局所的な圧痛が存在する。

下肢荷重位での動作などに恥骨結合部やその周囲に放散する痛みを訴える。


・股関節由来
股関節内に原因のある鼠径部痛。

キャッチングやロッキング、弾発感を確認する。

ツイスティングや深いしゃがみ込み、股関節屈曲・内旋で痛みを生じやすい。

FABERテストやFADIRテストなどが推奨されるが、

これらのテストは感度は高いが特異度は低いです。

その為、1つのテストでグロインペインが股関節由来の原因によるものと断定するのは難しい。


・Groin triangle

ドーハ分類でも述べたようにGPSは画像検査を用いずに理学所見のみでグループに分類する方法でした。

その為、重要になるのが触診のスキルです。


内転筋群は様々な組織が重複している為、的確に触診し圧痛を確認することが非常に大切です。


むしろ、これができていなければ結果が全然違うものになります。

そこで役立つ評価が、
【groin triangle】(鼠径部三角形)です。

Groin triangleとは、ASIS、恥骨結合、ASISから膝蓋骨を結んだ線の中央を結んだ三角形になります。

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この三角形を内側、外側、中央、上部に分けて触診していきます。


またそれぞれの部位で病態が異なるのでそのことについても記していきます。

内側には長内転筋、薄筋、短内転筋、縫工筋が触れられる。


内側の病態としては、
・長内転筋腱炎
・恥骨筋炎
・神経損傷

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外側には大腿筋膜張筋、大腿直筋、外側広筋が触れられる。


外側の病態としては、
・大腿骨寛骨臼インピンジメント
・腸脛靭帯炎
・外側大腿皮神経損傷

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中央には大腿直筋や腸腰筋が触れられる。


中央の病態としては、
・腸腰筋腱炎
・大腿直筋の損傷
・大腿ヘルニア

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上部には腹直筋などが触れられる。


上部の病態としては、
・腹直筋腱炎
・鼠経ヘルニア
・外腹斜筋断裂

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上記のように股関節周囲の筋をグループ分けして考えることで、触診が的確になり、

股関節のどの部位に圧痛があるのかで病態の可能性を予測することができます。

このような評価プラスで先ほどのような部位別の痛みに対してのテストを行うことで、

より的確に痛みに対して評価ができるのではないかと思います。


・アスレティックリハビリテーション


GPSの発生原因は、

可動性・安定性・協調性が破綻した状態です。

アスリハではこの状態を改善してあげなければいけません。

・可動性
主に股関節周囲の柔軟性低下が関係しています。(胸郭なども関係しますがここでは割愛します)

股関節の外旋可動域低下はよく言われています。

個人的には股関節の屈筋群が硬いことが見受けられます。

例えば、サッカーはキック動作を行うので股関節伸展を多く行います。

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通常であれば腹筋群の緊張を保った状態で股関節を伸展しインパクトへ移行していきます。

しかし、股関節の屈筋が硬いことによって股関節の伸展が制限され、

腰椎の前弯代償、股関節外旋、骨盤の後方回旋が起こります。

こういった不良動作により股関節にはストレスが増大し、痛みとなって現れます。

その為、股関節屈筋(腸腰筋、大腿筋膜張筋、大腿直筋、中殿筋)は筋緊張を取り除き収縮を行えるようにする必要があります。

クロスモーションを習得することで正確なキック動作を覚えることができます。


・安定性
体幹~骨盤の安定性は必ず必要なものになります。

安定性を考えるうえで非常に大切なのが、ローカル筋とグローバル筋です。

ローカル筋とは体幹深部に存在し、脊椎の分節的安定性に貢献している、いわゆるインナーマッスルです。

グローバル筋は表在筋であり脊椎の運動方向を決定している、いわゆるアウターマッスルです。

それぞれの筋についてはこちら↓↓

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これら2つの機能が相互に働くことで体幹の安定性が得られます。

そして、これは完全な主観的な意見ですがこの中で特に大切な筋肉が、
・腹横筋 ・腹斜筋 です。

腹横筋はローカル筋に分類され、

ある研究では上肢挙上時に三角筋に先行して腹横筋が活動する、

という報告も出ています。同様の結果は下肢でも報告されています。

さらに、ジャンプ動作時、腹横筋は外腹斜筋や腹直筋よりも優位に早く活動し、

蹴りだし期にて大きな地面反力を受ける準備段階として働くことも報告されている。

つまり、腹横筋はどの動作よりも早く収縮するということを表しています。


その為、腹横筋が弱化している場合は外腹斜筋や腹直筋などのグローバル筋が収縮し土台が作れずに、

股関節に負担をかけてしまう可能性が考えられます。

実際に腹横筋が弱化している選手は片足上げのドローインを行うと維持できないことが多く、

そういった選手は股関節や腰に何らかの痛みを訴えているケースが多いと感じます。


そして、腹斜筋の役割として

外腹斜筋は
片側:同側側屈 反対側回旋
両側:体幹の前屈 緊張の維持

内腹斜筋は
片側:同側側屈 同側回旋
両側:体幹の前屈 緊張の維持

スポーツの場面では回旋の動きは多く、

サッカーではテイクバック~フォロースルーにかけて、

バレーボールはテイクバック~アクセラレーションにかけて

回旋を行います。

この時右回旋をすると左側の外腹斜筋、右側の内腹斜筋が活動します。


グローバル筋はジャンプやダッシュなど、

大きな力を発生させる際に重要な役割をするとされているので、

腹斜筋の弱化があれば遠心性収縮が行えず力強いシュートやアタックができなくなります。

腹斜筋はelbow-toeやside-bridgeなどで筋活動が高くなると報告されているので、

トレーニングを行う際はこういったメニューをやっていくといいと思います。


・協調性
最後は協調性です。


協調性とは簡単に言えば、連動した動作ができるということです。

キックをするにも下肢だけでなく、上肢や胸郭などを動かすはずです。

上肢と下肢で別々の動きを行う、体幹を止めた状態で上肢や下肢を動かすといったことも協調性となります。

例えば、プロ―ンを行いながら股関節の屈曲を行う、

ブレーシングをしながら四肢を動かすなどのトレーニングをすることで協調性が高まり試合での動作に生かすことができます。


まとめ
・GPSは未だはっきりとした原因が分かっていないが可動性・安定性・協調性の破綻が存在する
・触診する場所をグループ分けする
・復帰するまでには可動性・安定性・協調性の改善をする必要がある


参考文献

・The groin triangle: a patho-anatomical approach to the diagnosis of chronic groin pain in athletesE C Falvey,1,2 A Franklyn-Miller,2 P R McCrory

・Doha agreement meeting on terminology and definitions in groin pain in athletes

・二瓶 伊浩 仁賀 定雄:Groin pain の自発痛部位と難治性 groin pain の MRI 所見の関連性

・日本整形外科学会

・永井 対馬:股関節理学療法マネジメント

・大久保 雄:体幹筋機能のエビデンスとアスレティックトレーニング

・Hodges  PW  and  Richardson  CA.  :  Contraction  of  the  abdominal  muscles  associated  with  movement  of  the  lower limb. Phys Ther, 77 (2) : 132-142, 1997.

・Hodges  PW  and  Richardson  CA.  :  Delayed  postural  contraction  of  transversus  abdominis  in  low  back  pain  associated with movement of the lower limb. J Spinal Disord, 11 (1) : 46-56, 1998.

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