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必須栄養素が得られる。

いいから全員プリンタニア・ニッポンを読んでください。どうもこんばんは。彗月はづき 漣太郎れんたろうです。良質なディストピアからしか得られない栄養素がある。

延々と考察と反芻をしていたら半日溶けていた。細かい考察は私の読解力のなさが不安なので内輪にしか公開していないが、内容自体は基本的に『もちもちしたなにかのいる世界の日常』という内容に終始している。3巻まで出ている。絵柄通りのまったりとした内容だが、世界観はゴリッゴリのディストピアSFなのだ。ただし、ディストピアと聞いてまずイメージされるであろう憂鬱な描写や、その逆の狂気じみた幸福の描写、反発する人々の様子などはほとんどない。なくはないが、そのバランスがとにかく神がかっている。

ざっくりすぎるあらすじ。

物語は主人公である佐藤46(おそらく管理されている全ての人類にこのような番号が振られており、名前はない)が、ニューチノー社開発の生体プリンターを手に入れ、犬を出力しようとしたが、UI不備と不具合により謎の丸い生物、プリンタニア・ニッポンを出力してしまうところから始まる。

食べるものすらよくわからないプリンタニアに『すあま』と名付け飼育を始めるが、恐らくはそもそもどうしても犬が欲しい!というわけではなく、あくまでも最初はネコ(この世界は大きなネコによって創られ、大きなネコに見つめられているのだ)の評価を上げるために共生するための生物を造ったらしい。

プリンタニアと共生する中で、幼馴染である塩野1や全ての人間の親の代わりである生活改善コンサルタント(一人につき1体が監視についているAIのようなもの)、プリンタニアにとっての病院である『跡地』(ニューチノー社の工場跡地である。プリンタニアが一つの種族として認められるほど多くプリントされてしまい、生態系にもガッツリ響く事になったので生体プリンタは製造中止になったのだろう)に勤務する遠野、プリンタニアを通して知り合った瀬田や向井などと関わり合いながら、現代の私たち人間と変わらず、遊んだり、大小様々な不安に悩んだり、プリンタニアをもちもちしたりする。

やさしいディストピア。

生体プリンタやネコ(ネコ型ロボット)による監視社会がベースにあり、それは一話からしっかり描写されるのだが、内容そのものはプリンタニアというもちもちした生物とその周りの描写であるため、基本的にはほのぼのした日常ものである。話が進むにつれ世界観の描写は深く濃くなっていくが、根底には人間や生物やコンサルが触れ合い、共生し、なんとなくでも生きる道を模索するストーリーがあるのでかなり読みやすい内容となっている。

そこには必ずしも『全力で前向きに生きる』だけではない生き方もあり、それらを引っくるめて許容し合う友人やプリンタニアが描かれているのだ。ネコやコンサルによる管理はされており、様々な制約があるが、そのどれもがあくまでも、人間が生きやすいようにというのを目的としている。また、ディストピアの主題となる事が多い、管理社会への不満を表すのはごく一部である。(解放主義というものがあるにはあるらしい)登場する人々のほとんどは管理社会に納得しているようだ。

また、ネコやコンサルたちも、当然、人間が健全健康であることに越したことはないと考えているが、物語の中では人間がそれほど強い生き物でないことも理解している様子が方々で見受けられる。登場人物達はそれぞれに何かしら個性じみた、人間らしい弱さがあるが、それを受け入れて生きる環境を提供するのがネコやコンサルの役割であるため、闇雲に何かを強制するわけでも罰則を与えるわけでもなく、かなり柔軟に物事を考え人間を支えている。ネコやコンサルにも感情があり、理解に努めているからだ。この点は今まさにカーテンを閉じて日々を暮らしている私には、とてもやさしく感じる世界に感じる。

また、プリンタニアは人に寄り添うために生まれ、不安や悲しみを抱えた人間の隣に立つ生物である。このプリンタニア達にも感情があり、悩みがある。何者かになる事を望まれて生まれてきた生物であり、その何者かになれなかった生物でもある。ごくごく記号的な顔だが表情豊かで、それぞれに個性がある生物であり、思い悩んだ末に人間にはよくわからない行動をすることもある。かわいい。

ハードな世界観。

にも関わらず、語られる世界観はだいぶハードなものである。詳しくは伏せるが、何か一つボタンを掛け違えるとそこには人の死があり、世界の崩壊があるというのを、時々思い出させる描写があるし、まだ全容は開示されていないわけだが、少なくとも人類は一度滅びを迎えている。っぽい。それらがとてもマイルドに、じわじわと明らかになっていくのもとても惹き込まれる構成になっている。

話の端々では不穏な描写がある。例えば無料公開されている第二話では、ニューチノー社の跡地の遠景に破壊された防護壁らしきものがあるし、プリンタニアの中には食肉工場用の大きいプリンタから出力された大型の個体がいる。(食用ではなく労働力かもしれないが……技術が発展したあの世界観の中で、労働力として大型の動物を選ぶだろうか)

また、佐藤たちが暮らしている地域の少し外に出るとそこは何らかの有害な物質により汚染されていて防護服がなければ行動することが出来ないし、恐ろしいロボットが襲いかかってくるのだ。これらはおそらくかつて滅びを迎えた人類の戦争によるものであるし、未だに解決されない問題として横たわっている。

佐藤や塩野はこれらの問題と直接関わり合いになることは(今のところ)まだ少ないため、あくまでも知識として知っている、程度であるようだが、開拓地と呼ばれる汚染区域は“評価が低いものが送られる場所”であるし、実際に命の危険に晒された過去を持つ者もいる。それを、さらっとマイルドに表現されていたり、かと思ったら普段の穏やかな話から一変して語られる事がある。その緩急もこの物語の魅力の一つである。

しかしそんなハードな世界観の話でも、読後感はやわらかく、やさしいのだ。不思議な作品だと思う。プリンタニアという存在が物語のカタチを表しているような、そんな漫画なのだ。

次回予告。

正直全く予想出来ないというか、過眠のあとでまた不眠の状態である。そしてありとあらゆるところが痛い。あとなんか先週から今週にかけてめったゃ忙しい。なんでぇ……。

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